第4話 お買い物と冒険者ギルド
「色々あって迷っちまうな」
街の防具屋さん。ずらりと並んだ装備品を前に腕組みをして悩む。
武器は既に購入済み。
真白は一番安いロングソード、俺も安物のデカい木の杖だ。先端がカタツムリの殻みたいに丸まってる例のあれ。邪魔なので、インベントリーにしまってある。
「ねぇねぇ刹那。見て見て!」
「なんだよ、うぉ!?」
振り向いて、思わず俺は驚いた。
真白の手には水着みたいな鎧、いわゆるビキニアーマー的な装備がぶら下がっている。
「これ、凄くない?」
「凄いけど、意味ないだろ。こんな丸出しじゃ……」
でも、真白が着たら似合うんだろうな……。いかんいかん! 防具は戦士の生命線だ。そんなエロい気持ちで選ぶわけにはいかない! 真白の身体に傷が付いたら俺も嫌だし。
「可愛いんだけどね」
満更でもないのか、真白は残念そうにしている。
と、取り出してもいないのに勝手に取説が手の中に現れた。
「なんだ?」
「読めって事じゃない?」
これ、女神様絶対見てるだろ。まぁ、その為に俺達を転生させたっぽいけど。
「どれどれ……。あー、防具の効果も神様の加護なので、見た目は関係ありません、だってよ」
「へー。じゃあ、こんな水着みたいなのでもちゃんと防御力上がっちゃうんだぁ?」
ニヤニヤと、流し目を向けて真白が言ってくる。
絶対からかってる。真白はそういう奴なのだ。
「……ダメだろ。防御力があっても、寒いって。風邪ひいちまうよ」
取説のページが勝手にめくれる。
「神様の加護で、最低限の防寒効果はありますだってさぁ? えーじゃああたし、これにしちゃおっかなぁ~?」
誘うような真白の視線に、俺は思わず唾を飲み込んだ。
だって可愛い彼女のビキニ姿だ。見たくないわけがない。しかもただのビキニじゃない。ビキニアーマーだ。これを着て剣を持って戦う真白。想像するだけでドキドキする。絶対可愛くてかっこよくてエロい。正直、めちゃくちゃ見てみたい。
「……まぁ、折角の異世界だし。真白が着たいんならいいんじゃないか?」
口元がニヤけそうになるのを必死に堪え、明後日の方向を向いて俺は言う。
「とか言って、本当は刹那が見たいだけでしょ?」
「……あぁ。そりゃ見たいよ。可愛い彼女のビキニアーマーならな」
からかわれて、俺は開き直った。
真白の顔が真っ赤になる。
普段散々人の事をからかう癖に、自分が言われると弱い真白なのだった。
「バカ。じょ、冗談に決まってるじゃん!」
「だ、だよな。あ、はははは……」
「……刹那がどーしても見たいって言うんなら、着てもいいけど」
「マジで!?」
「ちょっと! 目、怖いから! 節約しなきゃだし、値段次第だよ!」
値札を確認する。
三万ゴールド。
「たっか!?」
「こんなの買えないってば!」
慌てて元の棚に戻す。
今の俺の所持金は三千ゴールド。真白も大体同じくらいだろう。
「なんでこんな高いんだよ……」
「こんなのでもちゃんと防御力があるからじゃない?」
まぁ、言われてみれば確かにそうか。
お洒落アイテムという事なのだろう。
「……沢山稼いで、いつか絶対買ってやるからな……」
「だから、目が怖いんだってば……」
静かに決意する俺に、呆れたように真白が言った。
とりあえず、防具も安物で揃えた。
真白は皮鎧のセット。
俺は魔法使いっぽい黒ローブと帽子だ。
布製だが、こちらも神様の加護で見た目よりは防御力があるらしい。勿論ちゃんとした鎧の方が効果は大きいが。鎧を着ると、魔法系のスキルにペナルティーが発生するそうだ。それを軽減するスキルもあるようだが、他にも気になるスキルはあるし、とりあえず今はいいだろう。
「それじゃあいよいよお待ちかねの」
「冒険者ギルドだね!」
†
こてこてのファンタジー世界なので、冒険者ギルドもこてこてだった。
役所とファミレスを合体させて木造にした感じの建物である。手前が各種受付で、背後の壁には依頼書らしい用紙が貼られた大きな掲示板。奥は酒場っぽいカウンターと沢山の丸テーブル。そこに、いかにも冒険者感のある厳つい顔が並んで、昼間から酒を飲んでいる。
俺は未成年だ。不良でもない。酒場なんか入った事もない。だから、雰囲気だけでビビった。鎧を着たヤクザみたいなおっさんに睨まれて、思わず視線をそらす。
「ちょっと怖いね……」
身を寄せて、真白がぽつりと呟いた。
「……大丈夫だ。なにかあったら、俺が守るから」
臭いセリフに、真白が噴き出す。
「な、笑う事ないだろ!?」
「だって、あたしの方が絶対強いもん。でも、ありがと。お陰で怖くなくなったよ?」
それはこっちの台詞なんだが。
恥ずかしくて、俺は頬を掻いて誤魔化した。
気が付くと、全方向から生暖かい視線を向けられている。
咳ばらいをして誤魔化すと、俺達は受付に向かった。
「すみません。俺達、冒険者になりたいんですけど。こういう所、初めてで」
「冒険者登録ですね。登録料は五百ゴールドになります」
緑色の制服を着た、優しそうな金髪エルフのお姉さんだ。
言われた通り、インベントリーからお金を出す。
残金は千ゴールド。思ったよりも使ってしまった。大丈夫かこれ?
「では、こちらの石板に手を置いて下さい」
お姉さんがカウンターに石板を置く。
石板の中央には、銀色の小さなプレートが埋まっている。
言われた通り手を置くと、石板に刻まれた血管みたいな溝が明るく光った。
「お名前と年齢を教えてください」
「黒木刹那、十六歳です」
石板に触れた右手から、僅かに力が抜け出すような感覚がした。
「はい、登録完了です。こちらのタグはクロキさんの冒険者登録証になりますので、大事にして下さいね。失くしたら悪用される事がありますし、ペナルティーが発生します。再発行にもお金がかかります」
お姉さんがプレートに紐を通して渡してくる。プレートには、この世界の文字で俺の名前が彫ってあった。読めるのは、女神様のお陰なんだろう。受け取って、さっそく首から下げる。
「こちらの登録証には知識の神様の加護がかかっていますので、討伐した魔物や解決したお仕事の内容、ステータスやスキルなんかが記録されます。そんな事はされないと思いますが、嘘をついてもすぐバレますので」
「はい……」
嘘なんかつかないっての! まぁ、お姉さんも仕事で言ってるのだろうけど。
「登録したばかりなので、クロキさんの評価レベルは1になります。依頼には受注する為の最低評価レベルが設定してある物もあります。評価レベルは適正レベルに近い依頼をこなす事で上がっていきます。説明は以上ですが、なにか質問はありますか?」
ないので真白と代わる。
一緒に聞いてたので説明を省略し、真白も登録証を作成する。
「あっちの彼、彼氏さんですか?」
暇だったのだろう。受付のお姉さんが真白に聞いた。
「ふぇ、ま、まぁ、そんな、感じで……」
真っ赤になって真白が俯く。俺も恥ずかしい。でも、そんな風に人から見られるのは悪い気分じゃない。
「うふふ。初々しいですね。頑張ってくださいね」
こうして俺達は晴れて冒険者となった。
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