1-3恋バナは最高の娯楽?


「ふわぁ~、蜂蜜美味しいぃ~!!」


「うん、甘くて美味しいっ!」



 私とルラはシャルさんと一緒に蜂蜜取りに来ていた。


 以前はマーヤさんて人もいたらしいけど外の世界に行っちゃったので今はシャルさんが中心となって蜂蜜取りをしている。


 

「二人ともまだ小さいのによく色々な事知っているわね?」


「えへへへへぇ~、お姉ちゃんがいろいろ知っているんだぁ~」


「知っているって言うか、本とかお母さんに教わってるだけです……」



 私はシャルさんから視線を外してそう言う。


 い、言えない。

 本当は私たちが異世界転生者だなんて言えない!


 そんな事言い出したらこの閉鎖的なエルフの村から追い出されてしまうかもしれない。



「ま、頭が良いのはいいけど無理して背伸びしちゃだめよ? 子供は子供らしくね」


「はーい」


「はい……」



 たまにシャルさんは憂鬱そうな顔をしてそんな事を言う。


 シャルさん自身はとても面倒見がいい。

 だからよく私たちと一緒にこうして内緒で蜂蜜取りに来て蜂蜜を食べさせてくれる。


 年上のお姉さん。


 そんなイメージがあるシャルさん。

 でもたまに憂鬱そうな顔をする。



「あの、シャルさんはなんで寂しそうなんですか?」


「ちょ、ちょっとルラ! 失礼でしょ!?」



「ふふふっ、そう見える? うーん、あなたたちにはまだ早い話だけどね、私外の世界に好きな人がいるのよ。でもその人は自分の与えられた目的が果たされるまで私とは会わないとか言ってもう七百年も会っていないわ……」


 もの凄く意外な話を聞かされ思わず私はシャルさんを見てしまう。

 でもそんな話をするシャルさんは、なんか寂しそうだけど嬉しそうでもあった。


「えー? 好きな人がいるなら会いに行けばいいじゃないですか~」


 ルラは無責任にそう言うけどシャルさんは笑って首を振る。


「それはだめね、負けた気がするからあちらからこちらに来てもらうまで待ってるの!」


 ニカっと笑うそれは年上のお姉さんのようだけどなんか私たちと同じ悪戯っぽさも残っていた。

 そして森の中でもここだけは開けて草原になっているその空を見上げる。



「でもあの人は最後にはきっと私を迎えに来てくれる、だってあの人は自分の命より私を大切に思ってくれているから……」



「ふえぇ~」


「シャ、シャルさんそれって……」



 もう、何なのそれぇ!?

 かっこいいぃ!

 シャルさんの昔に何があったか俄然気になって来たぁっ!!


 良いよこう言う恋バナ!

 久しく忘れていた女子トーク、これは何が何でもそのお話聞かせてもらわなきゃ!!



 私は鼻息荒くシャルさんにその辺の話をもっと詳しく教えてと懇願する。

 するとシャルさんもまんざらでなく少しはにかんでその話を始めてくれた。


「うわぁ~お姉ちゃんこう言う話大好きだからなぁ~、あたしはパスパス」


「なによルラ、これこそこの娯楽の少ないエルフの村で唯一無二の楽しいお話じゃない!!」


「ははははっ、私の話は娯楽かい…… まあでも久しぶりにあの時を思い出すのは嫌いじゃないわ。それでね、最初はその『鋼鉄の鎧騎士』って言うね~」


 シャルさんの話はとても面白かった。

 特にエルフの村の外の様子なんかこっちの世界に転生してから非常に重要な情報源だし、何より今後万が一にもエルフの村を追いだされた時には外の世界を知っておくのはやぶさかではない。


 私は食い入るようにシャルさんの話を聞くのだった。



 * * *  

  


「あら、もうこんな時刻ね。日も傾いて来たわ。そろそろ村に戻りましょう」


「はい、シャルさん明日も続きのお話聞かせてくださいよ!!」


「あ~、あたしはもっとその『鋼鉄の鎧騎士』ってのお話を聞きたいなぁ~。もの凄く強いんでしょ?」


 日も傾いて空が茜色に変わり始め草むらに座りながらあれやこれやと話を聞いていた私たちはシャルさんが立ち上がると同時にお話は終わりになり、一緒に村に戻るのだった。


 * * *


「すんすん、うーんまたエルフ豆の塩茹でかぁ~」


「まあ、お母さんならそうでしょうね……」


「あら、あなたたちもしかしてエルフ豆嫌いなの?」


 手をつなぎながら村に戻るとあちらこちらの家で夕食の準備をしている。

 そして嗅ぎ慣れたこの匂い。

 あちらこちらの家も多分同じなのだろう、エルフ豆の塩茹で。


 元の世界で言うご飯にお味噌汁じゃないけど定番すぎる食事。

 そしてもう飽きてしまった味。


「はぁ、今日はシャルさんに内緒で蜂蜜食べさせてもらってよかったよぉ~、あたしエルフ豆の塩茹でもう嫌だもん!!」


「あら、ルラはエルフ豆嫌いなの?」


「だって飽きたもん!!」


 シャルさんは笑いながら、それでも「エルフ豆は栄養満点でバランスの良い食事だからちゃんと食べないともう蜂蜜を内緒で食べさせてあげないぞぉ~」とか言う。

 勿論ルラは大慌てで「食べるからまた蜂蜜も食べさせてぇ~!!」とか懇願したりしている。


 するとシャルさんは小指を出して「好き嫌いしないでちゃんとご飯食べる事、約束ね?」とか言い出す。



 それを見て私は驚いた。



 指切りの習慣なんてエルフの村で初めて見た。

 それってどう考えても私たちがいた世界の約束の仕方。



「シャルさん、その約束の仕方って何なんですか? 初めて見ますけど……」



「ああ、これはね、私の姉さんから教わったの。なんでも『指切りげんまん、噓ついたら針千本飲ます』って言いながら約束するんだって。姉さんもそれは大好きなあの人から教わったって言ってたっけ?」


 私はそれを聞いて驚く。

 私たち以外にも転生者がいるのか?

 シャルさんのお姉さんが好きな人って、もしかして私たちと同じ転生者なんじゃないかって!



「シャルさん、その話をもっと詳しく教えてください!!」


「はははっ、リルは本当にこういうお話大好きね。いいわよ、明日またお話してあげる…… ってぇ! ね、姉さん!?」


 言いながら歩いているとシャルさんの家の前まで来ていた。

 私たちの家はすぐ近くなのでいつもはここで分かれて家に帰るのだけど、シャルさんの家の前にはシャルさんそっくりなもう少しお姉さんっぽい人と、もう一人私たちと同じくらいの歳の女の子がいた。


 その子を見て思わず驚く。


 金髪碧眼、美しいその顔は決して忘れない。

 こめかみの上に三つずつ左右にトゲの様な癖っ毛があるそれはあの駄女神だ!!



「な、なんであんたがこんな所にいるのよぉっ!?」


「あ、あの女神様だ」



 思わず指をさしてプルプルと震わせる私。

 ルラも気付いたようで唇に指をあてながらその女神を見る。



「はい、ですわ??」


   

 彼女は、ぽか~んとした表情で私たちを見るのだった。


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