安同1  見出される

安同あんどう遼東りょうとうに住まう胡人である。その先祖は世高せいこうといい、かんの時代に安息王あんそくおう、おそらくはパルティア王にはべる形で洛陽入りした。時が下り、を経てしんの時代に乱を嫌い遼東入りし、家を構えた。父は安屈あんくつ慕容暐ぼよういに仕え、殿中郎將でんちゅうろうじょうとなった。苻堅ふけんが慕容暐を滅ぼすと、安屈の友人である公孫眷こうそんけんの妹が前秦にさらわれてしまう。やがて公孫氏は劉庫仁りゅうこじんの妻としてあてがわれた。劉庫仁は公孫氏をことのほか寵愛し、尊重した。


安同はこの出来事があったため隊商をはじめた公孫眷に付き従った。やがて隊商は拓跋珪と出会う。ひと目見て安同の異才に気づいた拓跋珪、安同を引き抜き、手元に留めさせた。その性格は端的にして厳格、とはいえ明察にして、ケチでもない。賢人たちの言葉より学ぶことを好んだ。


拓跋珪は即位直後、独孤部どっこぶ賀蘭部がらんぶ拓跋窟咄たくばつくっとつらと戦うため、慕容垂ぼようすいより兵を借り上げている。この交渉ごとのため、安同はしばしば使者として慕容垂のもとに訪れており、慕容垂からもその異才を愛されるようになった。やがて外朝大人がいちょうたいじんに任じられ、和跋わばつらとともに禁中を出入りするようになり、諸祭礼を取り仕切った。拓跋珪がこれまでの戦いにおける功臣に改めて褒美を与える際、安同には使者としての功績が多かったため、何人かの妻、三十世帯分の奴隷、馬二頭、羊五十頭を与え、廣武將軍こうぶしょうぐんに任じた。


姚平ようへい討伐、すなわち柴壁さいへきの戦いにも従軍。姚興ようこうは兵を総動員し姚平の救援に出向いてきた。対する拓跋珪は幾重にも柵を設置し、迎撃しようとする。そこに安同が進み出て言う。

「臣は陛下のご意向を受け、このこうの地の税収を管理したことがございます。このとき汾水ふんすい東方に大きな地割れが存在しております。その長さは東西に三百里あまり、とても道を通せたものではございません。このため姚興が侵攻するのは間違いなく汾水の西方よりとなりましょう。高地より攻め下る、を実現できるとしたならば、汾水の西岸より直で柴壁さいへきに迫れましょう。それを許せば柴壁城内の敵との接触を許すこととなり、いくら柵で囲ったところで制圧は難しくなります。ここは汾水が曲がる箇所の南北に浮橋を渡し、西岸に乗りだしてそちらにも柵を設けるべきです。西さえ囲えてしまったならば、敵がいかに知恵を振り絞ったところでなすすべもなくなりましょう」

拓跋珪はこの進言に従った。結果、姚興は姚平が攻め滅ぼされるのをただ見届けるしかなくなった。


この献策の功績から北新侯ほくしんこうに封じられ、安遠將軍あんとうしょうぐんに任じられた。また柴壁の戦いで捕虜とした唐小方とうしょうほうら後秦将を長安に護送する任も請け負った。




安同,遼東胡人也。其先祖曰世高,漢時以安息王侍子入洛。歷魏至晉,避亂遼東,遂家焉。父屈,仕慕容暐,為殿中郎將。苻堅滅暐,屈友人公孫眷之妹沒入苻氏宮,出賜劉庫仁為妻。庫仁貴寵之。同因隨眷商販,見太祖有濟世之才,遂留奉侍。性端嚴明惠,好長者之言。

登國初,太祖徵兵於慕容垂,事在窟咄傳。同頻使稱旨,遂見寵異,以為外朝大人,與和跋等出入禁中,迭典庶事,太祖班賜功臣,同以使功居多,賜以妻妾及隸戶三十,馬二匹,羊五十口,加廣武將軍。

從征姚平於柴壁,姚興悉眾救平,太祖乃增築重圍以拒興。同進計曰:「臣受遣詣絳督租,見汾東有蒙坑,東西三百餘里,徑路不通。姚興來,必從汾西,乘高臨下,直至柴壁。如此,則寇內外勢接,重圍難固,不可制也。宜截汾曲為南北浮橋,乘西岸築圍。西圍既固,賊至無所施其智力矣。」從之。興果視平屠滅而不能救。以謀功,賜爵北新侯,加安遠將軍。詔同送姚興將越騎校尉唐小方等於長安。


(魏書30-3)




えっなにこのカッコいいひとは(呆然)


いや北魏将の列伝、マジですげえ武将いっぱい載ってんな……拓跋珪のインパクトがでかすぎるからかき消されまくるけど、つくづく拓跋珪の武勲ってのが「こうした勇将猛将たちの総合値」なのだなぁと感じる次第。劉裕に立ちはだかるどでかい壁として北魏将の存在感もでかくしていきたいですね。劉裕小説ではもうそこをやる気ないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る