五百七十五話「サイド:現実世界(日本)」


 話が終わってから数十分後、全てのロボットのメンテナンスが終わったことで、シュートと紅実は彼の鍛冶工房(「ジャスティン」の格納庫)を後にして、異世界のスタート地点であるシュートのマイホームへ帰還した。

 時刻は夜の十時を過ぎており、二人とも疲れがあるということで、活動はまた明日という結論に至った。


 「明日は別の国、別の大陸に行くのだろうか。次はどこに行くのか、もう決めているのか?」

 「ああ。明日の行き先はもう決めてある。明日、俺たちが行くのは―――」



―――――――――



 現実世界――日本。シュートと紅実が本来いる世界のアジアの島国。


 三ツ木柊人と花宮紅実が異世界へ転移しメディレニアン王国で過ごしていた間も、日本では未だモンスター災害の対処の毎日が続いていた。

 東北、関東、東海、関西、北陸、四国、九州…全国各地でモンスターの存在が確認され、人類はこちらに害をなすモンスターに対し持てる全ての武力を行使し、災害の対処に尽力していた。


 現在確認されているモンスター災害に対処出来るだけの戦力を持つ勢力は、以下の通り。


 新政府が立ち上げた対モンスターの新政策局――「特殊災害級生物対策課」(通称“対策課”)。

 異世界の粒子によってスキル持ちとなった隊員、中里大企業が残した試作品を基につくられたパワードスーツを着用した隊員、そして対モンスター兵器戦闘ドロイドを主戦力とした、日本政府の最高戦力。


 安保条約のもと沖縄県にある基地および本土から遣わされたアメリカ軍。こちらにはスキル持ちが皆無ではあるものの、対策課と似たような最先端の兵器を搭載しており、中級以下のモンスターの排除は十分に期待出来る。


 異世界のスキルによる力を絶対視し、その力に目覚めた自分が特別であると過信し、さらにはこの世界がファンタジー化したなどと妄信した「ファンタジー信教」を掲げる同志が集ったカルト団体「ファンタジー教団」。

 関東にいくつもの支部を設立し、関東の地でのみモンスター災害に抗い続けている。彼らはこの災害を終えた後は新政府を転覆させようと目論んでいるとか。


 後は全国各地に点在する、スキル持ちの一般人たちで結成された自治団体。彼らは対策課や米軍を助け、時には助けられながらモンスターの排除に尽力しており、日本政府に対し協力的である。


 そして、これら全ての勢力を圧倒する絶対的な戦力を有しているのが―――


 

 「うお……!?まただ…!単機で上級のモンスターを五体討伐したぞ!」

 「対策課が所持する戦闘ドロイドではほとんど歯が立たなかった上級のモンスターをあっさり、しかもほとんど無傷で……!」

 「あのロボットが使っている武器、こちらのドロイドよりも高性能、出力も倍以上出てますよね?しかも、魔術スキルまで使えるなんて…っ」


 インセクトワーム、リザードゲーター、ジェットコカトリスなど強力な戦闘力を持つ上級モンスター全てが凄惨な死骸へと変わり果てる一部始終を目にしていた対策課の隊員たちは皆、戦慄と驚嘆が交錯した有り様だった。


 「次、中・上級モンスターが暴れているところは……………あっちか」


 たった一機で上級モンスターを複数討伐したロボット…対策課の戦闘ドロイドの上位互換と言って差し支えない存在の「ジャスティン」、その完成機体。それを従えてモンスターの駆除に回っている一人の黒髪の青年。

 このたった一人と一機だけで、国家の軍事力を超越していると言っても過言ではない。地上最強の戦闘勢力である彼らは現在、群馬にてモンスターの掃討にとりかかっていた。


 「行くぞ。ここから30km先にデカいスライムが複数暴れてるそうだ。お前の電撃魔術で一掃してこい」

 『御意』


 黒髪の青年――オウガの言葉に「ジャスティン」は短く応答し、先に飛び上がったオウガの後を走って追いかけるのだった。

オウガのスキル「気配感知」は、数十キロ離れた先にいる敵の存在も感知することが出来る。「ジャスティン」にも敵の位置を感知する機能(スキル「索敵」がモチーフ)が搭載されているが、オウガの感知能力はそれを優に超えている。

 その為敵の居場所特定はオウガが、戦闘は「ジャスティン」がそれぞれ担当している。

 今のところ、「ジャスティン」のみでモンスターの殲滅に成功しており、オウガはただ感知からの移動と傍観に終わるばかりだった。


 「榊薔薇さん、遊軍として各地で戦っている『ジャスティン』の様子は、どんな感じですか?」

 『結論から言うと、完璧な活躍をしてくれているよ。戦闘面はもちろん、負傷し苦戦している隊員の救援および治療、避難に遅れた一般人の救助、避難施設の守護など……。文句のつけどころのない。情けないことに、我々の存在意義とは……などと考えさせられる程だ。

 失礼、弱音を吐いてしまった。君の方は?』

 「まあ、こっちも似たようなものです。今のところ怪人も怪獣も出てきてないから、俺が出る番が全然回ってこなくて、正直退屈ですね」


 対策課から見た「ジャスティン」の活躍情報、他にもSNSによる一般人たちの目撃情報などから導き出した、オウガの率直な気持ちは、


 ――もう全部こいつとあいつらだけで良いんじゃね?




 (ったく、この前の何とかオーガって怪人とやらを討伐してから、怪人も怪獣も出てこないし、はっきり言って暇過ぎる。いっそ今日はこいつ単独でやらせようかな。何かやらかさないか監視の為にこうやって傍に置いてやってるが、妙なことをする気配は皆無だしな。

 一旦山梨の野外活動センターに戻って、が気にかけている人たちの護衛でもやってようかな。こいつを一機預かる代わりに、あいつの同級生やらガールフレンドとその家族やらを守るって約束だからな)


 そんな考えを浮かばせながらオウガたちは目的地に到着。そこでは上級サイズのスライムが多数、国道を這いずり回り、あらゆるものを溶かしあるいは破壊して暴れていた。


 「さてと、じゃあサクッとモンスターを駆除してこい」 

 『御意』


 オウガが命じると「ジャスティン」はスライムの群れに立ちはだかり、両手の噴射口から電撃の魔術…青白い閃光を複数の標的目がけてぶっ放した。

 戦闘というよりは駆除。様々なタイプのスライムは電撃一発で全て壊滅した。敵の殲滅を確認し、ここらで「ジャスティン」を置いて行こうとしたオウガだったが、新たなる敵の気配をその場で感知した。


 (高速で向かってくる……こっちに向かってきている。これは………ロボットがたった今倒したスライムどもの倍、いやそれ以上の戦闘力を持ってやがる!

 まさか、こいつは―――)


 高速でこちらに近づいてくる尋常ではない気配にオウガが顔を向けた瞬間、殺意のこもった何かがこちら目がけて飛来してきた。


 ギギン―――!


 オウガは自身の腕を刀同等に硬質化させ、それを振るうことで謎の攻撃を防いだ。


 (濡れている………水か何かの液体を媒体にした遠距離攻撃か。

 それで、奇襲者の正体はどちらさまかな?)


 攻撃の正体が液体であることを見抜いたところに、オウガの前にドプリと何かが空から降ってきた。


 『ワタシの“水鉄砲”を容易く防ぐ人間を見るのは、久方ぶりダ………』


 地面に着陸したことで崩れたゼリーみたいな歪な形となっていたが、すぐさま原型あるものへと姿を戻していく。

 それでも、その姿は巨大なアメーバ状のもので、人によっては生理的な嫌悪あるいは恐怖をもたらすフォルムとなっている。

 ただし、それは全体の下半分に限った話で、上半分はというと、オウガと同じ人間の原型を形作っていた。


 「ジャスティン、お前の力であれも駆除出来そうか?」

 『対象ノデータ並ビ戦闘力ヲ分析中………………確率シマシタ。

 当機ガ対象ヲ武力デ制スルノニ成功スル確率――10%未満。当機ガフルパワーで戦エバ、周囲ノ道路・人間ナドを巻キ込ム可能性ガキワメテ高イカト』

 「そうか。じゃあこうしよう――お前だけでひと足先に山梨の野外活動センターに移り、そこにいる避難民たちの護衛、施設の防衛に務めろ。特にあいつがお前にインプットさせた人たちの護衛を最優先に」

 『御意』


 オウガの命令を聞いた「ジャスティン」は、すぐさま行動に移る。これから始まる戦闘から離脱し、山梨の方へ飛んでいった。


 『アレは……鉄の人間?“あの者”が見せてくれたヴィジョンに出てイた…。クク、よもやこの異なる世界線にて見ることになるとハ………面白い』

 「ごちゃごちゃひとり言こぼしてるところ悪いんだけどさ、単刀直入に聞くぞ?テメー、怪人か?」


 オウガが尋ねた直後、下半分がアメーバ状上半分が人間の怪物は「ジャスティン」からオウガにすぐさま顔を向け、距離をとった。


 『………!!』


 顔が無いせいで表情が読めないものの、かなり警戒していると伺える。質問の言葉に混ぜていたオウガの殺気に反応したからである。


 『……如何にも。ワタシはハイドロゲル―――この身が普通の人間だった頃、スライムの因子を体内に宿したことで“不純性の怪人”へと超進化を遂げた者ナリ』

 「……そうか。やっぱりテメーは怪人か。やあ~~っと、こういうレベルの敵がおいでなすった!いよいよ俺の番が回ってきたわけだ。

 久々に思う存分に体を動かすとしますかね!」


 禍々しい色の触手を何本も展開して強いプレッシャーを放つ怪人…ハイドロゲルに、オウガは好戦的に笑うのだった。



―――――――――




十度目の異世界探索 六日目



 舞台は再び異世界に戻る。シュートと紅実がこの世界に移った六日目の朝。


 「疲れはとれたか?」 

 「ああ」

 「よく眠れたか?」

 「あ……ああ!とてもいい匂……じゃなかった、最高の寝心地だった」  

 「(顔赤くなってるけど、体調に問題は無さそうだな)俺も体調万全で体力も回復している。てわけで早く飯にしようぜ」


 お互いに体調報告をし合った後、朝食をしっかり摂取するシュートと紅実。その後探索の準備にとりかかり、どちらも準備が終わったところで出発に移るのだった。


 「じゃあ今から転移するから、俺の体のどこかにしっかり触れとけよ」

 「ああ」


 紅実の手がシュートの腕をしっかり掴んだところで、「空間転移術」が発動され、二人はマイホームから姿を消した。


 ――――――――



 「――さあ着いたぞ。ここに来るのは、去年の二学期以来になるのかな。久しぶりだ」

 

 本日二人が訪れたのは、シュートが五度目の異世界探索で訪れた大国――「ミアラ王国」だった。


 


 

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