四百四十五話「狂える研究者の革命」
その大きな化け物を見た瞬間、ニゲラ国王はこいつが自分たちが乗っていた車を破壊したんだ…とすぐに確信する。
「その異様な化け物は、さっき闘技ドームにもいたぞ!?もう一体いたのか……!?」
「化け物……フフ、確かにこいつは化け物と言っていい存在だろうな。正確には生物兵器と呼ぶ方が的確か。そしてこの化け物はまだたくさんいるぞ」
「な―――!?」
「こいつらをいくつも量産するのに、私は何でもしてきた…!」
眼鏡の奥に映る瞳に狂気の光を宿して、マルコスはとつとつと語り続ける。
「怪人をも殺し得る兵器の開発に没頭し、強大な力を得るが為に、違法で人道に悖った人体実験を、私は長い間あの研究所の地下にて秘密裏に行い続けていたのだよ!
補足すると、兵器開発の実験に使った人間は皆、お前につく国の腐った上層部どもだ」
「ぐ……!?ここ最近、城の人間や国の中枢の役職に就く者、財政を支え続けてきた上級貴族。皆私と懇意関係にある者ばかり失踪していたが……まさか貴様の仕業だったとは…っ」
「ふふっ、恨みつらみを晴らす意味でも、奴らはとても役立ってくれたよ。奴らを使った数ある非人道的実験の産物として、こうして人造のモンスターが完成したのさ。
特に、こいつはその中でも最高傑作の人造モンスターだ!実在するモンスター…カオスバイソンをベースにつくったものだ。戦闘力はそのオリジナルをとうに凌駕している。
当然そんなオーガなども瞬殺出来るのだよ!」
オーガを指差して自信たっぷりにそう言い放つマルコス。そんな彼に見下されたと感じた護衛のオーガの双眸が怒りで見開かれる。
「ふ、ふ、ふざけるなぁ!?貴様ごときがつくった人造の化け物で、この私を殺せると思うなよ――――即刻このイカれた研究者とあの化け物を始末しろ!!」
その指示を待ってましたと言わんばかりに、オーガ兵が殺気を剥き出しにしながら、人造カオスバイソンに突っ込んで行った。トゲのついた金棒を武器に、間合いまで距離を詰めたところで相手の頭部を狙って陸上の円盤投げのように水平に大きく振りかぶり、側頭部目がけて勢いよく叩きつける―――
「ははははは!オーガの全力の一撃だ!その化け物の頭など、粉々に砕け、て………ぇ?」
哄笑するニゲラ国王だったが、その光景を目にすると笑いを引っ込めていき、ついには絶句してしまう。そしてオーガも同じような反応をする。
会心の一撃を入れた感触はあった。にもかかわらず人造カオスバイソンはびくともせず、平然としていた。側頭部に生えている角が金棒の一撃を防ぎ、頭本体は無傷で済んでいる。さらにはその角にも傷が全く入っていなかった。
「お、オーガの全力で傷一つも入らないだと……?そ、そんな馬鹿なことが―――」
「やれ、
ニゲラの言葉を遮り、マルコスは冷淡な声で短く命令を下した。直後、Type-B0と呼ばれた人造カオスバイソンは大口を開けて、半ば呆然とするオーガに、高密度のエネルギーの球を、ゼロ距離で放った。
――ゴッという音、そして眩い光に包まれたエネルギーの塊が、ニゲラ国王のすぐ横を通過する。そのまま反対側の分厚い壁にぶつかると、ボッという音だけが鳴り、壁には放たれたエネルギー球と同サイズの穴がぽっかりと空いていた。
「お、オーガは………ぁ、あああああ……!?」
そしてエネルギー球をゼロ距離でくらったオーガはというと――膝から下の足だけを残し、他の部分は跡形も無く消滅していた。
「――ふはは!計算通りの結果となったな!素晴らしいエネルギーの放出だ!実験の成果が十分に発揮されてるぞぉ!くくく、ふはははははぁ!」
宣言通りオーガを一回の攻撃で討伐してみせたType-B0の圧倒的戦闘力に、マルコスは愉快げに哄笑する。そんな彼と人造モンスターのもとに、新たな敵の集団が現れた。
「は、ははは……どうにか間に合ったか。おいイカレた研究者よ、そうやって笑っていられるのも今だけだ!貴様らを消し去る為の軍を二個隊、ここに呼び出してやったぞ!
しかもそのうちの一個隊はオーガやルビーコングといった上級モンスターばかり揃えた、モンスターの軍団だ!そこらの野生のモンスターの群れと一緒だと思うな?人間の軍とほとんど同じ統率がとれて、知能もある―――」
ニゲラ国王が得意げに語ってる間に、マルコスの制御下にあるType-B0と帝国軍が衝突する。それに巻き込まれないよう非戦闘員のマルコス、国王は安全な位置まで下がる。国王は今度こそ人造モンスターを討ち取ってくれるだろうと高を括った。
――だがそんなニゲラ国王の期待は、またも最悪の形で裏切られることになる。
ゴ――――――ッッ
オーガを葬り去ったのと同じ、Type-B0によるエネルギーの塊が、人間の兵士、中級のモンスターを全て塵にした。
ガッ ゴッ―――ドギャドゴォオオオ
さらに分厚い筋肉の鎧は飾りではないぞと言わんばかりに、全身や頭の角を使った突進、前足の蹄による殴打、そして高密度のエネルギーを纏った全速全力のタックルといった近接攻撃で、同じく近接戦を得意とする上級モンスターたちを次々討ち倒していった。
オーガもブラッドフェンリルもルビーコングもグラップグリズリーも、帝国軍のモンスター全てが、人造モンスター相手に真っ向からの力で敗れ、命を散らした。
「あ……な、な………なァ」
戦いが終えると、帝国軍側は安全圏にて観戦していたニゲラ国王ただ一人となっていた。モンスター兵含む軍は二個隊とも全滅した。
「ば、ば、馬鹿、な………!?軍の二個隊を、あっという間に…っしかもそのうち一個隊は複数の上級モンスターの軍団なんだぞ…!?それすらも、瞬殺された………ひ、ひぃいいいいいいい」
最悪な現実を受け入れられず、地面に倒れ伏すニゲラ国王だったが、獰猛な野獣の咆哮を耳にすると反射的に顔を上げてしまう。声の主は自分の味方のモンスターではなく、狂える研究者マルコスが率いてきた人造の化け物だ。
あの化け物と戦う戦力がこちらにはもう無い、今まら増援を要請しても間に合わない、もはや自分に戦う手札は皆無だ…そう分からされた瞬間、ニゲラの心は絶望に染まった。
「た、頼む………、私を殺さないでくれぇ!望むものがあれば何でも差し出すし、その通りにする!だ、だからどうか王である私を殺すのは、やめてくれぇえ………」
「ふん、怪人どもに対してもそうやって無様に命乞いを繰り返し、何もかもを差し出して媚びへつらったのだな?その実物かこれか………本当に醜いな」
氷のように冷たい殺意を帯びた瞳で見下ろすマルコスとそのすぐ後ろからぎょろりとした目で睨みつける人造モンスター。それらを見るニゲラ国王の眼差しは恐怖に満ち、マルコスによる罵倒に怒りを湧くことすらも無くなっていた。
「き、貴様の言う通り…怪人たちがこの国に来たあの日、私は今と同じように許しを乞い、媚びに媚びた。だ、だが分かってくれ!あの日奴らに屈しなければ、このクレンダはあの日とっくに滅ぼされ、人も国も全てこの島から跡形残らず消されていた!
――そんな破滅のルートを、私は避けることに成功したんだ!!」
地に伏したまま、ニゲラ国王は己がやったことの正当性を説きはじめる。
「考えてもみろ、私はこの国の全てを救ったんだぞ!?複数の怪人を相手に、軍を削ることもなく、多くの血を流すことなくだ!私が尽力したことで、怪人たちは私たちを生かしてくれた!
私が奴らに媚びへつらい、命と国以外の全てを奴らに差し出したお陰で、クレンダは今も存続出来ている!!
分かるだろ、ああしなければ、私たちが生きられる道はなかったんだよ!!」
慟哭が混じった声で全てをぶちまけるニゲラ国王。彼の話が終えるとマルコスが口を開く。
「……お前の言うことは、一理あると言える。お前の腰抜けさでクレンダは滅ぼされずに済んでいる……今のところはな」
「そ、そうだろ!?私は何も間違ったことなど―――」
マルコスから理解の言葉を聞いて、表情を少し明るくさせるニゲラ国王。
「そう、お前がやったことは決して間違いじゃなかった。
ただ……人としては大きく間違ってばかりだ。そしてそれが私の憎悪を大いに搔き立ててしまった。
これはただ、それだけの話なんだよ」
マルコスがスッと手を上げると、後ろにいた人造モンスターが唸り声を出しながら、ニゲラ国王のすぐ正面に立ち、野獣の眼光と大きく太い角を向ける。
「な………お、おい―――」
「私がお前に求めることは、ただ一つだ―――死ね」
上げた手を、マルコスはニゲラ国王に向かって振り下ろす。それが殺害の合図であることは明白であり―――
「ひっ、待て!待――――」
グサ―――グチュ―――ッ
ニゲラ国王の最後の命乞いは全く聞き入れられることなく、Type-B0の凶悪な角による串刺しの刑を受けた。大角は心臓を貫き、背中をも貫通させた。
「あ゛………ご、、っぽお゛…っ」
顔中からも血を噴き出して、ニゲラ・レンブリンは地獄の苦痛を数秒間味わったのち、息絶えたのだった。
「革命を成した後のクレンダに、お前のような愚王は必要無いのだよ」
角から解放され地面に転がされたニゲラに、マルコスの死体蹴りの罵倒が突き刺さる。それからしばらく国王の死体を眺めて、ざまあみろと言わんばかりに哄笑した。
「―――ではそろそろ行こうか。怪人どもがいる場所へ。
待っていろネイ、私はこの革命を必ず成し遂げる!!」
愚王の死体観察に満足したマルコスは、Type-B0を連れて次の目的地へ移った。
そのマルコスらの次の目的地となる、帝都闘技ドーム内では―――
「ククク……!少々手こずらされたが、所詮は上級モンスター止まり。俺を殺すには一歩二歩……もっと足りなかったなぁ」
ジェネラルオーガが、人造カオスバイソンを返り討ちにしていた。
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