モブ村人俺、魔王と勇者を従え黒幕になる ~【究極属性付与】スキルで助けてあげたら彼女達は俺に夢中です。なので二人が戦わなくて済むよう八百長する事にした~
第5-8話 魔王様、愚かな人間たちに鉄槌を下す(という演出)
第5-8話 魔王様、愚かな人間たちに鉄槌を下す(という演出)
「ふむふむ……アレがなんとかという人間風情の最大国家ですね」
「なかなかでっかい街だにゃん! 美味しいごはん屋さんはありますかねフェル様!」
「それはランさんに聞いてからのお楽しみにしましょう……それより」
眼下に広がるディルバ帝国の帝都を睥睨し、魔王フェルーゼは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
ばちんっ!
フェルが眼前の空間に手を伸ばすと、僅かに紫色のスパークが散る。
「……対魔王用の防御障壁ですか」
「魔王の力の根源であるエビルマナの供給を断ち魔王を弱体化させる術式……確かに対策としては理にかなっていますし、涙ぐましい努力の跡が見えますが」
すっ……
漆黒のローブのすそから、ほっそりとしたフェルの右腕が伸ばされる。
「規格が二世代ほど……古いですね!」
ギンッ!
黄金の双眸が大きく見開かれ、瞳が赤く輝く。
ズドオオオンッ!
その瞬間、帝都を囲むように建っている8基の塔のうち、2つが爆散する。
爆発した塔に人間がいないことは事前に確認済みである。
むやみに人間どもを殺すとランさんから美味しいスイーツを貰えなくなるし、何より彼に嫌われるのは絶対NGなのだっ。
そんなちょっとカワイイ魔王様の思惑を知る由もなく、帝都の守護神である魔力塔がいきなり吹き飛んだ事に大慌ての人間たち。
「な、なんだ!? 何が起きている!?」
「帝都の守り神が!? 魔力塔は鉄壁じゃなかったのかよ!」
「きゃああああああああっ!?」
「お、おい! 上空になんかいるぞ!」
城から飛び出してくる兵士たちと、パニックに陥る住民たち。
帝都上空に浮かぶフェルに気付いた人間もいるようだ。
「ふむ……そろそろ頃合いでしょう」
「ポンニャちゃん!」
「ラジャーだにゃ!!」
ランから聞いた計画を頭の中で反芻しながら、ポンニャに声を掛けるフェルーゼ。
魔王様渾身の”演出”が始まる。
『……闇よ、来たれ』
フェルーゼの家系に代々伝わる”言霊”……彼女の忠実な僕であるポンニャがそれを呟いた瞬間、漆黒の闇がレンズのように帝都の上空を覆う。
ズオオオオオオッ……
「あ、あああっ……なにが起きている!?」
「お日様が隠れて、真っ暗に!?」
「終わりじゃ、世界の終わりじゃあああああっ!!」
うららかな昼下がり、降り注いでいた柔らかな光が遮られ、帝都周辺だけが闇夜のように暗くなる。
尋常ならざる事態に住人達は泣き叫ぶことしかできない。
ぼうっ
「「なっ、なんだっ!?」」
大勢の人間たちが屋外に出てきたことを確認すると、フェルーゼは全身に魔力を込め、ゆっくりと話し出す。
突如街を覆った闇夜に輝く黄金色の人影。
信じられない光景に、ぽかんと上空を見上げる人間たち。
『聞くがよい……愚かな人間どもよ』
有り余る魔力で増幅した彼女の声は、やけにはっきりと人間たちの耳を打った。
『ゴーリキを斃して調子に乗っているようだが』
『ヤツは四天王の中で最弱……我が魔王軍にとって毛ほどの痛痒にもならぬ』
ブアッ!!
闇の闘気を纏わせながら、にやりと壮絶な笑みを浮かべるフェルーゼ。
実はひそかに憧れていたセリフを言えたので思わず顔がにやけているだけなのだが。
『そもそも四天王など先代から受け継いだ形式に過ぎない』
『何故ならば……』
「へ、へっ! アレが魔王かよ?」
「た、タダのガキじゃねぇか」
空中に浮かぶフェルーゼの姿を見た兵士が嘲るような言葉を漏らす。
「なんだ、驚いて損したぜ」
「あんなの、勇者様を待つまでもない。 我ら帝国軍だけで……」
「そ、そうだそうだ!」
彼の言葉は周囲に伝播していく。
(うおおおおっ! そこのモブ兵士A!! ぐっじょぶですっ!!)
内心ガッツポーズをし、思わず拳を握るフェル。
ランさんが言うところの”上げて落とす”効果を最大化するには、このような前振りが大事である。
(ポンニャちゃん!)
ここが勝負どころと判断したフェルは、ふよふよと浮かぶポンニャに目配せを送る。
すうっ
フェルは大きく息を吸い込むと、両手を広げ帝都中に聞こえる声で宣言する。
『……まだ”序列”が分からぬようだな』
『来い、我が忠実なる漆黒の僕よ!』
ウオオオオオオオオオオンッ!!
「なっ、なんだ!?」
「アレは……グランサキュバス!?」
「な、なんてデカいんだ……しかも……う、美しい」
全ての男を魅了する漆黒の悪魔。
帝都の空一面に投影された禍々しくも蠱惑的な姿に一瞬で魅了される男達。
「うあっ、あああ……」
「どうしたの、ジョンっ! 正気に戻ってよっ!?」
光を失った目で虚空を見つめ、涎さえ垂らす男達を必死に正気に戻そうとする女性たち。
近年高レベル女性冒険者の活躍が目立っているとはいえ、帝国の正規軍はまだまだ男性兵士が多い。
一瞬で帝都守備隊は無力化されてしまった。
『……余の右腕に掛かれば、かようにお前たちを飼いならすのはたやすいのだが』
『それでは些かつまらぬであろう?』
「な、なにを……」
帝都中の女性の視線が魔王フェルーゼに集まる。
『そうだな、お前達の奮戦に敬意を表し……”余興”を準備してやろう』
ばっ!
フェルーゼはそう言うと、無造作に右手を振るう。
ヴィンッ
しなやかな指先から赤い光が発せらる。
ドッ……スドオオオオオオオオオオオオオンンッ!!!
「「きゃああああああああああっ!?」」
帝都の入口につながる街道、その先端部分に赤い光が到達した瞬間、巨大な爆発音が帝都中に轟く。
ドドドドドドドドドッ!!
赤い光は地平線を超えて遥か彼方に伸びていき、大地に巨大な傷跡を穿つ。
大河も森も、急峻な山脈ですら魔王フェルーゼの力を止めることが出来ない。
僅か数分後には、幅数百メートル、深さ100メートルはある大渓谷が帝都近くに出現していた。
『この”街道”は余の居城までつながっておる』
『人間どもよ……腕に自信があるなら挑んでくるがよい』
『そうだな……お前たちが勇者と崇める聖槍の、あ奴なら多少は楽しめるかもしれんな』
「「………………」」
今次魔王はその気になれば自分たちを一瞬で全滅させることが出来る。
圧倒的な力を目の当たりにし、言葉を失う人間たち。
『そうそう、忘れておったわ』
『”街道”からは無限にモンスターが湧き出てくるでな、コイツらごときに滅ぼされてくれるなよ?』
『ふふっ……はーっはっはっはっ!!』
ぱしゅん!
高笑いを一つ、魔王フェルーゼとグランサキュバスの姿が帝都上空から掻き消える。
同時に空を覆っていた闇は消え、眩しい日差しが戻って来たのだが……。
「「あ、あああ……もう、終わりだぁ」」
無力さを痛感した人間たちはうつろな表情で空を見上げる事しかできないのだった。
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