第5章 俺達だけが知っている中盤の急展開

第5-1話 勇者様と俺、英雄として持ち上げられる


「うおおおおおおっ! 聖槍の勇者ルクア様~!!」

「彼はライン王国だけでなく、世界の救世主だ!」


 物凄い歓声が俺たちに降り注ぐ。


 ここはライン王国の王都。

 魔王軍四天王の一柱であるゴーリキをヤツの軍団ごと討伐し、ゲール王国の危機を救った俺たちはオープントップの馬車に乗り、戦勝パレードに参加していた。


「国民の皆様! ご声援ありがとうございます!!

 皆様の尊い献金のお陰でボクたちは戦えるのです!!」


 わああああああっ!


 ドヤ顔のルクアが大きく手を振ると、更に歓声が大きくなる。

 今回の活躍で聖槍のルクアの名は世界中に轟き、勇者候補筆頭としての人気は不動のものになっていた。


「あのランジットっていう付与魔術師も凄いんだろ?」

「よく知らないけど、ルクア様の攻撃力を何倍にも出来るらしいぜ」


「あたし、結構好みかも……ランジット様~っ!」


「……ふっ」


 本来こういうにぎやかな場所は好きじゃないが、王国の白百合たちの声援は無視できない。

 俺は麗しき女性たちに軽く手を振る。


「……ラン、わたしには調子に乗りすぎるなよというくせに、結構楽しんでるよね?」


「そうか?」


 なぜかぷくっと頬を膨らませ、不満そうなルクア。


 わんわんわんっ!


「わ~っ! ポチコちゃんカッコいい!!」


 狼のぬいぐるみを抱いた子供たちから歓声が上がる


 どやっ!


 勇壮華麗な神狼であるポチコの人気も凄い。

 俺たちを差し置いてぬいぐるみなどのグッズ展開がされているほどだ。


 ここまでくれば、世界の希望として世論の支持を集めた方が”時間稼ぎ”には都合が良いだろう。

 そう判断している俺は、沿道を埋め尽くした群衆に手を振り続けるのだった。



 ***  ***


「ルクア殿! 四天王の一人が倒れた今こそ好機!

 我が国を蝕む”空鳴りの塔”を一気に攻略しましょう!!」


「は、はうっ!?」


 戦勝パレードを終えた後、王宮主催の晩餐会に出席した俺たち。

 国王陛下をはじめ、周辺国やギルドの重鎮たちが出席するきらびやかなパーティの中でも、中心になっているのは勇者ルクアだ。


 今も隣国レイド公国の外務大臣に捕まっている。


「はっはっはっ!! お任せください大臣殿!

 我がライン王国冒険者ギルドは勇者殿へ最大限の支援を惜しみません!」


「おお、何と頼もしい!」


 ワインボトル片手にご機嫌のギルド長が安請け合いをしている。


 マズいな……ルクアは調子乗りだが素直な性格で、腹芸が出来るタイプではない。

 それに相手は隣国の外務大臣……言質を取られないためにも軽々しい発言は慎んでほしいものだが。


 俺はため息一つ、流れるような動作で大臣とルクアの間に割り込む。


「失礼します」

「確かに勇者ルクアは四天王ゴーリキの討伐に成功しましたが……あれは魔王軍の連携に生じた綻びを突いたトリックプレーのようなものです」


「ご報告したとおり、ゴーリキは先代魔王から仕えていた重鎮で、今次魔王を侮っておりました」

「そのため、魔王から付与される耐性が不完全だったのです」

「魔王軍側も対策を施してくるでしょう……次は簡単にはいかないかと」


 ウソには30パーセントの真実を混ぜるのが重要である。

 ゴーリキがフェルを侮っていたのは本当だし、”耐性”が人間側の調査と異なっていたのも本当だ。

 この事実が、俺の言葉に説得力を持たせてくれる。


「なるほど……確か付与魔術師ランジット殿でしたな?」

「貴殿の報告書は読みましたぞ……我が国の宮廷魔術師もよくぞここまで調べたものだと感心しておりました」


「もったいないお言葉です……詳しくは明かせませんが、こちらには情報源がありますので」


「おお! 確か特殊なティムスキルで女性型モンスターを……おっと、これは機密でしたな」

「我がレイド公国としても支援は惜しみません。 何でもおっしゃってください」


「恐縮です」


「??」


 得心したという表情でうなずく外務大臣と首をかしげるギルド長。

 隣国の外務大臣に少しだけ情報を与え、利益をちらつかせることで支持を取り付けておく作戦である。


「という事とで我々としては、勇者ルクアの更なる属性強化を計画しています」

「ご存じだとは思いますが……”絶海の泪”」

「世界最高難度を誇り、今だ誰も制覇したことが無いと言われる魔のダンジョン……我々はそこに潜ります」


「おおっ!?」

「なんと!」


 驚きの声を上げる大臣とギルド長。

 そう、次は定番の……中盤の強化イベントというヤツである。



 ***  ***


 華やかな空気に包まれる晩餐会会場。

 その片隅で、陰鬱な雰囲気を漂わせるテーブルがあった。

 ディルバ帝国から招待された勇者候補の一行である。


「くそっ……忌々しい勇者ルクアめ」

「帝国貴族の誇りをなんと心得るか」


 貴族出身の勇者候補である彼は新ダンジョンの攻略に失敗した後、何とか体裁を整えるため世界中を奔走していた。

 この晩餐会に出席したのも、帝国の国力を誇示するためであったのだが。

 各国の重鎮は勇者ルクアらに夢中でこちらに見向きもしない。


「くくっ……勇者レナード様」

「我がザマゾン商会では、伝説の武具などに頼らずとも魔法技術の粋を集めた人工武具を開発中でございます」


「完成の暁には、ド田舎の勇者候補など鎧袖一触かと。

 弱小国に魔王討伐などされては、商売になりませんからな」


「くっ……わかっている!」


 スポンサーから派遣された営業マンの言葉がいちいち彼を苛立たせる。

 巨大な勇者利権の旗頭を担う彼の胃は、キリキリと痛み続けるのだった。

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