第4-6話 勇者の大技、四天王を貫く(というシナリオ)


「ルクア!」


 俺は勇者の名を呼ぶ。

 魔王であるフェルの耐性偽装により、実は女勇者の攻撃が弱点な四天王ゴーリキ。

 相手が誤解しているうちに、最大威力の攻撃を叩き込む!


 俺は腰に下げた道具袋から1つのポーションを取り出す。

 なんの変哲もないポーションで、これだけではHPを少し回復する効果しかない。


 だが、俺のスキルを使えば……。


「【属性改変:スピードブースト】!

 受け取れルクアっ!」


 キイイインッ


 ポーションが青く輝く。

 俺はそいつを彼女に投げ渡す。


「うんっ! ありがとうラン!!」


 ぱしっ

 ギュオオオオオオッ!


「うおおおおっ、来た来たっ!!」


 ルクアの全身を蒼い光が包む。

 属性改変スピードブーストしたポーションは、対象のスピードを大幅に引き上げる。

 具体的に言えば攻撃回数が数倍になるのだ。


「ルクア、行きますっ!」


 ダンッ!


 大幅に強化されたルクアの脚が、荒野の大地を力強く蹴った。



 ***  ***


「食らえ! ルクアスクライドっ!」


「ゴフゴフッ」


 大きく跳躍し、ゴーリキを狙うルクアの前にオークの部隊が立ち塞がる。

 それぞれ盾を構えているが、連中の豚面には余裕が漂う。


 ふん、いくら勇者の大技とはいえ、この場には吾輩がいるのである。

 魔王の耐性は四天王である吾輩を通し部下にも伝わる。

 何体かは殺られるだろうが、威力は大幅に落ちる。

 動きの止まったところを捕えればよい。


 さて、人間の勇者候補はどのような声で鳴いてくれるのか。

 べロリ、舌なめずりをしたゴーリキは次の瞬間、驚きの光景を目にする。



 ズドアッ!!

 ドンンッッ!!



「な、なんであるかっ!?」


 勇者の槍先がオークたちに届いた瞬間、巨大な爆発が巻き起こる。


 ウガ、ウガガガガガッ!?


 あっけなく吹き飛ばされ、千切れ飛ぶ百体近いオークたち。

 先陣を任せる打撃戦力として、ゴーリキ自ら強化した連中である。

 いくら勇者とはいえ、人間風情の一撃でやられるとは!

 しかも相手はメスの勇者……攻撃力は下がるはずでは!?


「お、おのれっ! だが、大技の後には隙が出来るはずであるっ!」


 流石に百戦錬磨の戦士、呆然自失状態になっていたのは一瞬だった。


「おおおおおおおおおっ!」


 握りしめた棍棒が紫色に光る。

 もはや戦闘後のお楽しみなど考えている場合ではない。

 吾輩の最終奥義で葬るのみ!

 周囲の部下共も吹き飛ぶだろうが、吾輩の勝利の為には知った事ではないのだ。


「ぬおおおおおおおおっ!」

「食らうがよい! 究極粉砕悪鬼撃!!」


 ブオン!


 振り上げた棍棒に、膨大な魔闘気が集まっていく。


 跡も残らぬほど粉々にしてやる!

 勇者の次撃は間に合わない。

 ゴーリキは己の勝利を疑っていなかったが。


「……遅いな」


 勇者とメス狼に付き添っていた目立たないオス。

 ソイツの声がなぜかはっきりと聞こえた瞬間。


 ふわっ……勇者の技で巻き起こった土煙が風に流される。

 技後硬直をしているはずの勇者の姿はそこには無かった。


「なっ、なんだとおおおおおおっ!?」


 何が起こったのか、確認する暇さえ与えられない。

 常識を遥かに超えるスピードで硬直状態から復帰した勇者は既にゴーリキの懐に飛び込んでいた。


 バシュウッ!!


 闘気を纏った槍が、ゴーリキ自慢のオーガー棒を吹き飛ばし。


 ドンッ!


 神速の槍先は、ゴーリキの腹を貫いていた。

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