第2-3話 魔王城に丁重に招かれる
「お、おおおおお……?」
目の前に広がる地獄のような魔王城の光景。
俺がぷるぷると夢遊病者のように震えていると、くいくいと俺の手を引いてくる女の子がいる。
「? それでは余の私室にご案内します」
「”認識改変”でロードメイジあたりに化けるのが良いでしょう」
ぽぽん!
フェルの身体から膨大な魔力が立ち上り……俺のスキルが勝手に発動する。
これで周りからは魔王の近衛と言われる最上位魔法系モンスター、ロードメイジに見えるのだろう。
ああ、まさかフェルは……。
最悪の可能性が脳裏によぎる中、転移魔法など使えないので逃げることも出来ない俺は、彼女に手を引かれるまま魔王城の中に足を踏み入れる。
バサッ!
漆黒のローブを目深にかぶったフェル。
魔王城のエントランスをゆっくりと進む。
血の色をした床がわずかに点滅している。
どこからか凶悪モンスターの唸り声が聞こえる。
エントランスは吹き抜けになっており、高い天井近くには邪悪な紋様が描かれた魔法陣が輝く。
ギルドの資料で見た魔王城そのものの姿に、恐れおののく俺。
だが……。
よく見れば魔法陣の数は少なく、所々注意書きの紙が貼ってあるのが見えてくる。
『ダメージ床:26784号は故障のため近づかない事』
『落とし穴:11281号誤動作により封鎖。修理時期は未定 魔王軍総務部』
やはり先輩冒険者たちの調査は本当だった。
魔王討伐におけるラストダンジョンとなる魔王城ですら、魔界資材の高騰により施設の保守が遅れ気味だと。
……冒険者ギルドの事務職として、妙な親近感を覚えてしまう。
人口増加により世界中で建築資材や魔法金属は不足気味である。
冒険者たちから街道のモンスター除けが壊れていただの、武器の修理が遅いだの色々言われるのだが、材料費や物流費が高騰していることをもっと理解して欲しい。
……おっと、思わず仕事モードになってしまった。
「…………」
相変わらずフェルはしずしずと俺の前を歩いている。
ザザッ!
道行くモンスターは彼女の姿を認めると床にひざまずく。
下位はゴブリンから上位はグランオーガまで……まるでモンスターの見本市だが、魔王軍の本拠地である魔王城なら当然だろう。
だが、モンスターたちの様子についても先ほどから気になる点があった。
『マイロード…………はっ』
『グフグフッ…………相変わらず小さき主よ』
エビルナイトにグランスキュラ。
最上位クラスのモンスター達だ。
フェルに対して敬意は示すものの、どこかあざけるような調子で視線と言葉を投げてくる。
フェルはきゅっと唇を結んだまま、足早に魔王城の通路を歩き……「余専用」と書かれたエレベータに乗ると、主塔の最上階まで一気に登る。
魔王の玉座があると思わしき広間を通り過ぎ、突き当りを右に曲がる。
『これよりプライベート空間。 許可なき者の立ち入りを禁ズ!』
やけにかわいいフォントの魔界文字で書かれた張り紙が目に入る。
フェルは廊下の突き当りにある扉を開けると……。
てててっ……ぼふっ!
「あ~もう! 余が魔王なんて……やってられねーですっ!」
漆黒のフードを脱ぎ捨て、見た目相応の口調になるとふかふかのベッドに向かってぴょんっ!とダイブしたのだった。
ああやっぱり……この子が、魔王だった。
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