第2章 俺だけが知ってしまった魔王の秘密

第2-1話 ギルド職員俺、たまには旅行する

 

「さて、と」

「戸締りよし、有給申請よし、レグウェルのナイトガイドよし!」


 旅立ちの準備を終えた俺は自宅の施錠をしっかりと確認する。

 正直わくわくが止まらない。


 ギルドでの仕事を前倒しで終わらせた俺は今日から10日間の休暇を取り……男のあこがれ、歓楽の魔都レグウェルへ旅立つのだ!!


 ……意図せぬ大活躍をしてしまった俺の幼馴染、勇者ルクアは王都に呼び出されてしばらく帰ってこない。

 アイツの事だからおだてられまくって有頂天になっているだろう。


 ルクアだけいい思いをするのは面白くない。

 塔攻略の立役者の一人である俺にも命の洗濯をする権利はあるはずだ。


 魔王軍が巣くっていた”空詠の塔”が攻略され、村にも浮ついた空気が漂っている。

 俺は普段しないような笑顔で道行く村人に挨拶すると、意気揚々と魔都レグウェルへと向かうのだった。



 ***  ***


「くっ……凄いなレグウェル」

「真昼間からこんな店がやってるのか……はっ!? こんな様子では田舎者だと舐められるぞ?」


 ”レグウェルナイトガイド”(18歳未満お断り)を広げながら、街に漂う淫靡な空気に興奮する。

 その姿がまるっきり、地方からイキって出てきたものの都会の雰囲気に飲まれている田舎にーちゃんであることに気付いた俺は、咳ばらいを一つ、乱れた髪型を手櫛で直す。


 ふぅ……気張れランジット、まずは余裕だ。

 本番は夜になってからなのだ……まずはレグウェルスイーツを楽しもう。


 何を隠そうスイーツ男子でもある俺は、繁華街のあるダウンタウンを離れオフィス街へ向かう。

 レグウェルは政治の中枢である王都に対し経済の街としての一面も持ち、たくさんの人々がここで働いている。


 日夜格闘するオフィスワーカーを癒してくれるのがレグウェルスイーツである!

 俺はひとりでそう力説すると、手近なカフェの扉をくぐった。


 からん……


 扉に付けられたカウベルが軽やかな音色を奏でる。


 コンパクトな店内に置かれたテーブルは10ほど……清潔な白い土壁をリンゴの装飾が掘られた木枠が囲んでおり、ここまで焼きリンゴのいい香りが漂ってくる。


 ぐぅ……思わず鳴った腹の音に従い、手近な席に座る。


 店員さんに「スペシャルアップルパイ・スイーツマンドレイククリーム添え」を注文し、わくわくと他のメニューを眺める。

 他にもおいしそうなスイーツがたくさんある……明日も来よう。

 俺がそう心に誓っていると。



 はむっ!

 ぷにっ……



 二の腕あたりになにか柔らかい感触を感じる。

 まるで女の子の唇のような……。


 いかんいかん、まだナイトガイドに思考が引っ張られているのか?

 ぶんぶんと頭を振り、メニューから顔を上げた俺が見たのは。


「……は?」


 はむはむと俺の二の腕を甘噛みする一人の少女の姿だった。

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