第1-2話 勇者様に次の展開をアドバイスする
「そうだな……ルクア、お前は確かに強い」
「だが、そうはいってもすぐに魔王討伐に向かうわけじゃない」
すっかりしょげてしまったルクアとポチコ。
俺は努めて優しい声をコイツらに掛けてやる。
「……どゆこと?」
すぐにでも魔王討伐に行かされると思っていたのだろう。
不思議そうな表情を浮かべて小首をかしげるルクア。
隣で全く同じ動きをしているポチコが微笑ましい。
「まず、魔王には四天王と呼ばれる側近がいて……コイツらを倒さないと魔王本体にダメージを与えることはできない」
「ふんふん」
素直にうなずく勇者ルクア。
「さらに、四天王はそれぞれ居城を構えていて……その城は魔法的に封印されているから、いきなり襲撃しても人間の魔法ではその封印を解くことが出来ないんだ」
「え~っ!? それじゃあ、どうしたらいいの!?」
わうん!!
「まあ焦るな」
「封印の維持には魔力が必要で……これまた居城の周りに配置された4つの塔を攻略すれば、封印を維持している魔力を断つことが出来る」
「と、いうことは?」
「まずは四天王の居城の周囲に建つ塔を攻略すればいいってことだな」
「ここレンディルから南に2日ほど行ったところにもその塔があるぞ」
「もちろん、魔王軍の軍勢が守備しているがな」
「なるほど……でもなんで、ランはそんなに詳しいの?」
わふん!
当然の疑問を口にするルクアとポチコ。
まあ、ナイカの村みたいな辺境に住んでいれば知らないのも無理はないだろう。
「……四天王の居城も周辺に建つ塔も、果ては魔王城まで……ここ数百年間使いまわしなんだ」
「ダンジョンの増築に必要な魔界資材が高騰しているせいだとギルドの記録で読んだ」
「……魔王軍ってホントに人類の脅威なの?」
わんわん!
まあそう思うのも無理はないが、この事実も数多の冒険者の犠牲の上に得られた情報である。
彼らの尊い献身のお陰で我々は有効な魔王対策を打てるのだ。
「それに、いくらダンジョンが使いまわしと言っても、守備する魔王軍は強敵だぞ?」
「”勇者”じゃなければ、SSランクの冒険者でも怪しいところだ」
「そ、そうなんだ~」
それほど”勇者”というクラスは特別なのである。
……まあ、今のルクアは俺の属性改変で何とか勇者として動けているハリボテに近い存在なのだが。
「ううっ……勇者って大変なんだ……」
「そりゃな。
ライン王国も一人でも多く勇者候補を立てようと必死なんだ」
ようやく理解したらしいルクアは、頬に一筋の汗を垂らしている。
「それなら、ランは何で勇者候補にならないの?」
「あんなに凄いスキルを持っているのに……」
「……ま、俺は裏方としてギルドで働くのが性に合っているからな」
ルクアのまっすぐな瞳に思わず視線を逸らす。
俺の【改変】スキルは唯一無二のモノであり、勇者候補とまでは行かなくとも充分勇者パーティでやっていけるレベルではあるのだが。
俺は”とある理由”により、冒険者登録をしていない。
俺が特別な【改変】スキルを持っている事も、ルクアと彼女の姉にしか告げていない。
「俺の事はともかく、まずはモンスター退治でレベルを上げつつレンディルの南にある”空詠の塔”攻略を目指すといいだろう」
いわゆる序盤のレベル上げという奴だ。
そもそもライン王国は弱小国であり、そのうち他の大国に所属する勇者候補がなんとかしてくれるはずだ。
魔王出現は人間にとってピンチであると同時に150年に一度の
運良く勇者候補になれたからと言って、無理にそれに付き合う必要はない。
ま、コイツを守ってやるの事が”あの人”との約束だからな。
俺は防御属性をマシマシで付与すると、モンスター退治に出発する勇者ルクアを見送るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます