第8話「病気以外は拾って来い、って言ったよな?」
◇ ◇ ◇
「おーい。戦利品が増えるかもしれねぇっ、さっさと集めてくれぇ!」
「分かってるよ。リージアさぁーん」
「人使い荒ぇよぉ。この人ぉっ!」
「なぁなぁ、酒瓶も積んで良いか?」
「四割はやるから、黙ってやれっ!」
俺は村の若い衆と馬鹿二人を連れて、野盗団のアジトにお邪魔している。
アジトは岩山の中にある洞窟だ。
内部が融解している事から、砂蟻の巣穴だろう形跡があった。
砂蟻は凶暴で大きな相手にも恐れず、数の暴力で立ち向かう。
力と生命力もトンデモない……が、随分前に群れは立ち去った様だ。
まぁそうでもなかったら、盗賊団も村も一夜で滅んでいたろう。
「はぁ、寒ィ。ナナマキさん、周辺は?」
「ギャカカカァ……」
「影はなしね。君が居ればそんなもんだろ」
既に時刻は夕暮れを過ぎ、真夜中である。
旅慣れた俺でも、砂漠の寒さが染みた。
更に言えば、夜行性の怪獣共が動き出す時間だ。
俺とナナマキさんはともかく、一般人を連れ歩きたくはない。
……というのに村の若い奴らは、財宝に騒いでやがる。
この拠点には、略奪品の回収と生き残りの確認を兼ねて来ただけだ。
だけどちょっと後悔してきた。
「おい、これで本当に最後だろうな?」
俺は騎乗席から、元盗賊現死刑囚である二人を見下ろす。
二人は血と砂埃でグチャグチャなまま、顔を真っ青にして何度も頷いた。
「銀貨が一枚でも落ちてねぇだろうな。病気以外は拾って来いって言ったよな?」
「この人、野盗よりもがめつい……」
二人は泣き言をこぼすと、洞窟へ戻って行った。
俺はそれを見届けて、物資の積込の監督作業を再開する。
積み終わる頃には、五人が手を繋いでも囲めない物資が積まれていた。
「凄い量だな。コイツら、他の村まで荒らしてたのか?」
「むしろ商人を、襲ってたんじゃないっすかね?」
「……怪獣も居ない奴らが、ここで?」
どうにも腑に落ちない。
そもそも奴らの武器は刀やら槍が精々だった。
辺境の盗賊なんざそんなもんだが、こんな場所には商人も余り寄りつかない。
それにしては、懐が潤っている。
「ナナマキさんは、どう思う?」
「ギュギギァ」
まぁ分からないよな。
生き残りは、野盗団に最近入ったライダー崩れしか居ない。
そして俺は馬鹿だから、推理なんて出来ない。
気を取り直して、積まれた財宝の袋を締め直す。
金貨に銀貨。銅貨。宝石装飾品の数々。
ナナマキさんの取り分を考えても、とんでもない量だ。
こんなにあれば、ナナマキさんにおニューの飾りを買ってあげられる。
村には、飯と雑貨品を全部渡しちまえば良い。
商人が来ない村にとっては、そっちの方が大事だろう。
「旦那ぁ、やっぱり有りませんよぉ」
「本当ですってぇ! クソ重い金庫だって引っ張ったじゃないですかぁ!」
「俺ぁ、愛獣を裏切る奴は信じねぇんだよ。オーケー?」
馬鹿二人が戻ってきて、入口で泣き喚く。
俺の不快感を感じたナナマキさんが、殺す前準備に体を浮かせた。
それを見て馬鹿共は抱き合うと、メソメソ泣き崩れる。
「旅中で相棒が死んで、生きる為に仕方無かったんですってぇ」
「…………はぁ」
本気で殺そうともしたが、馬鹿共の言い分は変わらない。
限界まで追い詰めても、変わらないなら嘘じゃないか。
何よりコイツらを見てると、どうにも他人事だとは思えない。
「お前ら。村人にリンチにされるのと、ここで野垂れ死ぬの。どっちが良い?」
「……うぅぅ。略奪はしてないから、説得してみますよぉ」
殺したいが……死んだ馬鹿共の愛獣を考えれば、気紛れに殺すのも気が退ける。
「死んだ相棒に感謝しろよお前ら……お?」
「リージアさぁーん! 集め終わりました!」
「よーし、良くやった! 帰ったら村の方で分配して貰えよぉ!」
「さ、酒はっ!?」
「懐に入る位の雑貨品はくれてやらぁ! 酒やら食料はお前らで持ってけぇ!」
「さっすがぁ~っ! 気前が良いっ!」
「リィ~ジアさぁ~ん! そのデカいムカデに載せてくれないんですかぁ~」
「あ”ぁ”!? だぁれが、載せるかッ!この――――――ッ!」
俺のナナマキさんに対して、ふざけた事を言いやがって。
俺は女を侮辱された男として、他国で言えば決闘騒ぎになる罵倒を放った。
◇ ◇ ◇
「全部で大金貨二十八枚と金貨三枚ですね」
「俺の取り分だけで……だろうな? 四則計算はできんぞ?」
「騙してませんよぉ”ぉ”」
「お前ら人間は、信用ならねぇんだよ」
時刻は明け方。そろそろ太陽の灯りが顔を出す頃。
現在地は、全壊した宿屋の絵画だけ残った壁の前。
金勘定しているのは、俺と村の代表者、後はシーラだ。
話し合いの内容は単純。
盗賊団のアジトから、かっぱらった財宝の分け前だ。
金勘定役は俺や村長がやると角が立つので、我らがライダーギルドマスター。
本部の後送に怯えている、シーラに任せている。
「貨幣は全部で大金貨四十八枚弱……俺に二十八枚と金貨三枚」
俺の手元にある、報酬の袋を確認する。
細かい銀貨やらが混じっているが、大金貨が多く入っていて持ちやすい。
約束通り、全体の役六割を貰う。
「おっさんに四枚と金貨三枚」
宿屋が全壊した上に、村の盾として盗賊と商売をしていたおっさんが一割。
おっさんの袋は小銭中心で、膨れあがっている。
二階建ての宿屋位なら、大金貨四枚もあれば十分に立て直せるだろう。
「村に十四枚と金貨二枚」
村には貨幣では三割。その上で雑貨や食料品は、全て村に渡す。
三十人が籠城出来る食料や雑貨品。
どれだけの物資が溢れかえってるか。
貨幣価値に換算すれば、全体の四割にはなるだろう。
「えーと、こっから俺に四割だから、十枚は俺が好きに出来るな」
ナナマキさんが大金貨十八枚。俺が大金貨十枚とおつり。
ナナマキさんは俺とはガタイが違う。その分、お金がかかるので取り分は多い。
さて、おっさんにはまだ用事がある。
「ちょっと待ってくれ」
村側が何やら言いだした。おっ銭闘か? 銭闘好きだぜ俺。
問題は大抵言い負かされ、仕返しをしたせいで村を追い出されるんだが。
俺が奴らの言い分を待ってると、予想外の展開になった。
「マックスの宿屋は村の希望だ。壊れたままじゃ、ライダーの受け入れ先にも困る。再建は村で受け持つよ」
んん……?
「そりゃぁ悪い。ウチだって盗賊共に金は貰ってたんだ。受け取れない」
宿屋のおっさんと村側がああでもない。こうでもないと言いだした。
おいおいちょっと待てよ。
「ヘイ! 俺の話しは終わってねーぞ」
「何だ若造。金の亡者め」
「世の中は金だろうが、人情でナナマキさんの美体を、維持出来るか?」
金以上に大事な事なんて、片手の指の数もねーんだぞ。
おっさんが胡散臭げに見てると思ったら、金貨袋を差し出してきた。
「欲しいならくれてやる。結局、二日目の宿は貸せてねぇんだからな」
「そうそう、そこだよ。そこっ!」
俺と宿屋のおっさんの約束は、二晩の宿である。
具体的に言うと、そこに色々サービスが付く。
つまり命の貸しを、まだ取り立て切れてない。
問題は宿をぶっ壊したのは、俺だって事だな。
「いや旦那が壊したんじゃ……」
「ぁーあっ、コイツゥ~言っちゃったねぇ」
五月蠅ぇぞお前!、デコピン! デコピンッ!
俺は横から口を出してきた奴に、デコピンをカマして黙らせる。
そして宿屋のおっさんが差し出してきた金貨袋を奪い取った。
その袋に、俺の取り分から二枚入れて突っ返す。
「利子ってもんがあるだろう? 次に来るまで四階建ての宿屋にしておけよ」
「…………若造が。それじゃ足らねーっつの」
手を出して来ない宿屋のおっさんに袋を投げ渡す。
おっさんは灰色の目に薄く涙を滲ませて、震えていた。
「男の涙はお袋が死んだ時と、男のランスをチャックに挟んだ時だけにしろよ」
「誰が泣くか……クソッ」
俺は左手の薬指の指輪を撫でながら、独り言を呟く。
おっさんが後ろを向くと、顔を指先で擦る。
次に振り返った時には、ふてぶてしい態度に戻っていた。
「お前さんに、四階建てなんて勿体ねぇ。代わりに俺の飯を食わせてやる」
「言ったな? くたばってたら、墓石に小便かけてやる」
椅子をギィギィ軋ませて、ケラケラと笑った。
村の奴らは俺の背中を叩くやら、抱きついて来るやら暑苦しい。
だが砂漠の夜風が少しだけ、和らいだ気がした。
「ぁっ、リィ~ジィアさぁ~んっ!」
俺が薄汚い野郎共に囲まれてると、遠くから可愛い娘ちゃんの声が聞こえる。
村の若い女の子達が大勢、俺に手を振っていた。
「可愛い娘ちゃ~ん! 綺麗な宝石も、ペンダントも一杯持って来たぜぇ~」
俺が可愛い娘ちゃん達に、金貨袋の中を見せつける。
可愛い娘ちゃん達が、一斉に黄色い声をあげて俺に媚びを売り始めた。
モテモテじゃねーか! 最高だな!!
俺がモテモテじゃねぇ事だけが問題だ。
「ここの村の娘達、良いね。逞しいじゃねぇか」
「気を付けろよ。情が深ぇから一度しがみつかれると、離れねぇからな」
うげ……それは嫌だな。
微妙な顔でおっさんを見ると、ゲラゲラ笑いやがる。
というかやっぱり……このおっさんはライダーだったのか。
何の因果で、村に居着いたのかは知らないがどうでも良い。
女の子達が代わる代わる、飯やら酒やらを注ぎに来るので忙しかった。
俺、ご満悦である。
「マックス~。宿屋の残骸。ちょっとだけど見つけたぞ~」
「おぉ、そこに置いといてくれ」
コップもねぇ場所で酒瓶から直接飲んでいると、幾つかのズタ袋が運ばれてきた。
中身はボロボロで砂や埃塗れだが……幾つかの品には見覚えがある。
宿屋の中にあったもんだ。
村の衆が使えるモノはないかと、袋の中を漁る。
俺も親切心から、手を貸す事にした。
フレンダちゃんのパンツは無いかな。
ただ見つかったのは……使い古された絵道具ばかりだ。
「おいっ、フレンダちゃんの描いた絵はないのか?」
「あの子の絵は中央部へ売りに出した。ここにはねぇぞ」
俺が若い衆に問いかけると、宿屋のおっさんが答える。
「……そっ」
俺はその後も、パンツを求めて彼女の私物を漁った。
毛筆、絵の具、絵のデッサン本。謎の手紙束。彫刻刀、絵の額縁。
全部良く整備された使い古した道具ばかりだ。
「……」
「おい、若造」
俺が彼女の荷物を漁ってると、宿屋のおっさんが声をかけてきた。
「フレンダは、弟の家で預かってる。飯を持ってけ」
「……っそ」
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