第3話 ジュリ達との出会い
「ウジ虫? ウジ虫食べるの?」
サクが愕然とした顔で真剣に言うので、朝食を終えてノンビリしていたジュリ達は、腹を抱えて大笑いした。
その時、部屋には6人のジュリがいたが、皆美しい。着物の胸元がはだけ、足はあらわにしているが、それを気にしている者はいない。
一番幼い顔をしたジュリが言った。
「これはご飯よ。ウジ虫なんか食卓に乗せないさぁ」
卓の上には、幾つもの料理が並んでいる。朝食といえばサツマイモか田イモだけ、というのが常識の農村と比較すれば、それだけで衝撃の風景だった。
別のジュリが言った。
「昨日は派手な宴席があったからね、残り物だけど全部食べちゃってよ」
「ありがとう……ございます……」
サクは礼を言うが、何をどう食べてよいのか分からす、途方にくれる。
そこへ、シーバイ(トイレ)から戻ってきたカイがサクの隣にチョコンと座ると、大きな声で言った。
「わぁ、今日はご馳走だぁ。クワッチーサビラ(いただきます)!」
そして、箸を掴むと皿の上の料理の一つに突き刺し、小さな口を精一杯開けて押し込んだ。それだけで口の中は一杯なのに、更にご飯を掻き込む。
パンパンに膨らんだカイの頬を見て、ジュリ達は再び笑った。
「ゆっくり食べなよ。誰も盗らないからさぁ」
一番大きな胸をしたジュリが言った。
サクもカイの真似をして、同じ料理を一口噛る。そして、その美味しさに衝撃を受けた。
「おいひい!」
「そうでしょう。ウチのラフテーは最高だから」
ラフテーは豚の皮付き肉を煮込んだ伝統料理だが、サクにとっては生まれて初めて食べる動物性蛋白質となった。琉球は養豚が盛んだが、それでも高級食材だ。
それから、ご飯を口にする。こちらも初めて口にする米だ。琉球の土地は石灰岩質で稲作には向いていない。普通なら上流階級にしか口にできない代物だった。
「おいひいよぉ……」
サクは食べながら涙を流した。
「あらあら、この子、食べながら泣いてるよ。何が悲しいのさ?」
「お母ちゃんもお父ちゃんも、イモしか食べてなかった。それも、兄ちゃんとサクが食べたら、ほとんど残ってなかったよ。こんな美味しいもんが有るよって、食べさせてあげたい……」
これにはジュリ達もホロリときた。こんな小さな子供が、自分を売った親の身を案じているのだ。
琉球の農業は台風や干ばつといった天災に脆弱で、それは飢饉に直結していた。この時代を度々襲った干ばつは、村一つを丸ごと崩壊させる程の悲劇を引き起こした。
我が子を好んで遊廓に売る親はいない。命を懸けた選択である。だが、サクは今日から10年、労働力として休みなく働き続ける事になる。そして、15歳になれば、ジュリとして身体を売り続ける運命が待っている。
身体を売る事の意味を、幼いサクはまだ知らない。しかし、遊廓に売られた事による自分の人生の行く末は、幼いながらに何となく予感していた。
それでも親を思う気持ち……それは、その場にいたジュリ達も同じだった。
一番幼い顔をしたジュリが言った。
「アタイはね、今年から客をとり始めたんだ。お金も少しできて、親にちょっとだけだけど送れるようになった。大丈夫、もう少し大きくなったら、必ず親孝行できるから。えっと……」
サクは箸を握りしめた手で涙を拭くと、大きな声で言った。
「サクです。五歳です。よろしくお願いします」
「うん、サクちゃんか。お花が咲くのサクだね。可愛い名前。アタイはカリンだよ。よろしくね、サク」
カリンと名乗ったジュリの眼差しが優しくて、サクは涙が止まらなくなったが、それで食事の手が止まる事はなかった。
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