第3話-3鬼の子ども

俺たちはいつだって閉鎖的な空間にいる。

とじられた「桜ヶ原」っていう町にとじこもって、一緒にとじたものたちと身を寄せあって生きている。

だから友達や家族や近所の人たちを大事にする。心を許した間には、一種の絆みたいなものが生まれる。

ほら、俺たち同級生みたいにさ。

互いを許せるし、情も厚い。それは好きだとか嫌いだとか、そういうもんじゃないんだ。好きな奴だって嫌いな奴だっている。そういうのを引っくるめて受け入れられるんだ。


俺、知ってるぜ?

こういうのって、普通外の世界じゃ異常に見えるんだ。

古いしきたりを守り続ける田舎、独特なルールが存在する学校、こうでなきゃいけないって押し付ける会社。

古い考え、常識、思い込み。それにとらわれかこまれた閉鎖的な世界。


俺、知ってるぜ。この桜ヶ原も似たような空間だって。

遅れてるよなぁ。

俺がいるから遅れてるのか?

俺が遅らせているのか?

そんなわけないよな。


俺たちは一人一人選んで、決めて、ここにいる。

最期に戻る場所を、俺たちは自分の意志で決めた。

そのための約束だ。

ちゃんとここに戻って来れるように「同窓会」っていう約束をした。また、逢おうっていう約束を桜の木のもとに交わしたんだ。


好きとか嫌いとかじゃないんだよ。

俺たちは同級生なんだ。一回しか生きられない道の上で出逢った、唯一の同胞たちなんだ。


遅れることがわかりきってる俺を、いつまでも待っててくれる仲間たちなんだよ。




そうそう。だからさ、仲間内には甘い。大きく見ると、町全体がこんな感じになるんだ。

例外を除いてね。

外から来た奴。まあ、俺たちも人の子だからさ、ほかの奴らとだって付き合うわけよ。人並みにさ。向こうはどうだか知らないけど。

だから、あの時の先生の態度は過剰に見えたんだ。

俺、助産師さんから聞いていたんだぜ?

君の両親は二人とも桜ヶ原の人だよ。これって、母さんも、父さんも、地元の人間ってことだよな。だからもちろん俺も生粋の地元人間。

だからこそ、俺はそれまで生きてこれたんだ。地元の人間は他の地元の人間を助ける。地元の人間が悪いことをしたら。あー、何て言うのかな。ここにすむ「住人」たちが制裁を降す、とでも言うのかな。







ほら、例えば七不思議とか。




『一ツ、切り株


二ツ、停留所


三ツ、砂時計


四ツ、地下通路


五ツ、化獣


六ツ、地図


七ツ




同窓会』







悪いことをしたらさ、人が裁くんだよ。これは罪です、悪いことです。そういうルールを作っておかないと悪いことってし放題になるんだよな。

ニンジンを食べ残しました。悪いことです。だからおやつは抜きです。

こんな感じ。

でもさ、結局人が人を裁くんだよ。法律を作って平等に、公平に。そう言いながら、悪いことをするのもおしおきするのも人なんだろ?

じゃあ、裁ききれないじゃん。

人は隠す。誰だって悪いことを、罪をおかす。心は機械じゃない。常に冷静を努めても冷静でい続けることなんかできない。矛盾が生じる。

悪い人に罰が下される。罰したのが人だと、納得できないと言う人が出てくるかもしれない。

あいつはあんなことをしたのに、たったこれっぽっちの罰しか与えないの?


罰っていうのはさ。本人が自覚しないと意味ないと思うんだ。自分は悪いことをした。それを受け入れて、どうして悪いか、何が悪いか理解するんだ。そんでもって、頭を下げて謝る。

「申し訳ございません」

ごめんなさいって言うのはこういうことなんだろうな。本当だったらさ。これが謝罪するっていう事。


だから自覚しない限り裁くことに意味がないんだ。本当は悪いのに、本人は悪く思ってない。

これじゃ罰にならない。罰を与えられない。

人は間違いを繰り返す生き物だよな。何回間違っても間違いに気付くまで繰り返す。後悔しても、繰り返す。


俺の、父さんみたいに?


俺の父さんが本当に悪いことをしていたら、地元の人が裁くはずなんだ。でも、父さんはずっと変わらなかった。

俺に対しての扱いも、ずっと変わらなかったよ。

俺が悪いのか、父さんが悪いのに受け入れようとしなかったのか。もちろん、俺は父さんが悪いとは思っていなかった。




うわ、みんな、そんな顔するなよ。

怒るなって。違うんだよ。

そう思ってたのは先生が家に突撃してくるまでの話。

まあ、聞いててくれよ。




それまで俺はずっと父さんに頭を下げ続けてきた。それは、自分が悪いと思ってたから。

人が裁かなくても、ここには、この桜ヶ原には七不思議を始めとする怪奇現象が人を裁く。人じゃないから、理不尽に裁ける。

でも、父さんがそういうのに遭ったとは思えない。そう見えなかった。だって、いつも変わらなかったんだから。

じゃあ、俺の方が悪いじゃん。

父さんの言っていることが正しくて、俺は悪い子なんだ。悪い鬼の子なんだ。

そうとしか思えなかった。

人が裁かなくても、桜が裁く。父さんは裁かれなかった。




なんで? なんで? 俺が悪い。全部、俺が悪い。

ごめんなさい、ごめんなさい。生きててごめんなさい。生まれてきてごめんなさい。

この世に産まれてきてごめんなさい。




俺のその声を聞いた時だよ。先生がキレたの。

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