今なら言える
アサミカナエ
今なら言える
ごおおおう……
五感が研ぎ澄まされている今、風の繊細な音まで耳にしっかりと届く。
深手を負ったオレは、瀕死で大地と接吻をしていた。
目の前で仁王立ちしている蛍光イエローで筋骨隆々の生物。
地球を支配しようと降り立った宇宙生命体のひとりだ。
地球最後の戦士として全人類の期待を背負い、戦いに挑んだオレはそいつに敗れた。
地球のみんな……。
残り少ない地球のみんな、すまない。
オレは地球を守れなかった――。
死はもう時間の問題だろう。
オレの生きた23年間のダイジェストが次々に浮かび上がる。
自然に囲まれたふるさと。
透き通った川で元気に跳ねる魚。
ふざけながらオレが水の中にばしゃばしゃと駆け込むと、幼なじみのアイツが「もお!」って膨れっ面をしている。
アイツや残った人類も、シェルターが見つかってやられちまうのかな。
ごめんな……。がんばったんだけど、人類を……お前を守れなかった。
そういえばアイツに想いを伝えた日。
たしかあれは2年半前、雪がチラチラと舞っていたな。
そしておれとアイツは……。
「おい」
おれとアイツは……。
「おい、死ぬのか?」
アイツ……。
「おいって……。ちょっと、聞いてんのか!?」
ってなんだよクソ宇宙人、うるせーな。
今、残り少ないライフで回想してんだろうがダボが。
「なあなあ、ちょっと待てよ。えっ弱くね?笑 オレ、中ボス。まだ序盤っちゃ序盤なんだよ……。えー、お前ほんとうに最後の戦士? 戦士死ぬの? 困るなあーうちの四天王先輩とか、まだ待機してんだけど。出番がなくなったらオレが怒られちゃうわけ。あ、実はやられたフリ? わかった。わかったぞ! このあと真の最終戦士が助けに来るんだな!?」
来ねーよ誰も。
つかあんたがバッタバッタと選ばれし戦士20000人強を全員倒したんでしょーが。
「よーっしゃこい! オラァ! ホワァッ! 太陽光に隠れて上から来るのかァ!? と、見せかけて地面かっ!? …………って来なーい、全然来なーいっ! えーえー!? お前『おれが最後の戦士だー!』って言ってたけどマジ!? だってお前のひとつ前に来たヤツのほうがちょっとだけ強かったぜ!? ねー、まだ5分も戦ってないじゃん〜。や〜だ〜、死〜な〜な〜い〜で〜よおお〜〜」
うっぜええぇ! 言いたいように言いやが……っカハッ!?
意識がかすんできやがっ……たぜ……。
「あっ、動いた!? 大丈夫系? なんだよ、まだ大丈夫系なんじゃーん」
……ああ。
目の前にもやがかかってきた。
おかしいな。痛みもだんだん消えていく。
どうやらお迎えが……来たようだ……な。
? そこにいるのはまさか……。
先に逝った戦友のオラン……か?
おいおい、ニヤニヤしてんなよ。
はは、あの世でもおれをからかう気か?
お前とは憎まれ口ばかり叩き合っていたけど本当は……。
「実はな! 誰にも見せる機会がなかったけど! オレには第二形態もあるのだアア!!」
本当は信頼……。
「待ってろよ、死ぬなよまだ! 今からちょっといい必殺技見せるからな!?」
信頼し……。
「これがオレ様の真の! 本当の! 全力の! フルの! 力だアアアア!!!(大きな地響きと共に山がひとつ吹き飛ぶ)」
…………。
「すげーだろ! ここにあった骨がな、見える? ちょっと見えやすいところに移動しようか? ここで、曲がって収納されている! どうだ!! そして実はもっとすごいのがあってだな!! オレ様、第二形態が最終と見・せ・か・け・て? 本当は第三形態まで変身することができるのだ!! おい見とけよ人間! もうお前くらいにしか見せるヤツいないんだからなアアアアア!(ごごごごごごごごごごごご)」
おーい、誰か。ちょっと誰かいませんか?
誰かこのうるせーバカ、倒して黙らせてくれ。今生の頼みだ。
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