第26話歴代最強の勇者
新章9.歴代最強の勇者
「これより。勇者に対し不敬を働いた輩に、怠惰の勇者であるこのグリムが制裁を下す!!」
そんなことを言い出したグリムのせいで俺は割と窮地に立たされていた。だって、俺の戦闘経験なんて実戦だと2回だよ?
しかも、泣きながら逃げ回っていただけでとどめを刺したのはどちらもイナのロケラン。どちらも全力の龍嵐刃舞ならなんとかなったが、あれは自分もぶっ倒れる諸刃の剣だ。それにこうも人が多いとそう言うわけにもいかない。
「うわっ!!」
現状分析して自分のこれまでの戦いの情けなさに嫌気が差していた俺にグリムが突然切り掛かってきた!
「いきなりすぎるだろ!」
「ふん。問題無用と言ったはずだ。」
「あんた一言もそんなこと言ってねえよ?!」
間の抜けたやりとりをしつつもグリムの猛攻は止まらない。
無駄にゴツい体に似合いすぎる一体何を切るんだ。ってくらい分厚い刀から繰り出される斬撃はたとえ魔力がこもっていなくても致命傷だ。
てか、攻撃の速度早すぎだろ!避けるので手一杯じゃんか。
「おー。マサすげえじゃねえカ。勇者以外でグリムとこんなに打ち合えたやつ初めて見たゾ。」
俺が必死にグリムの攻撃を捌いている最中。雷刃が呑気にそんなことを呟いている。
「ってか、このおっさんそんなに強いのか?」
涙目になりながら聞き返してみるととんでもない答えが返ってきた。
「歴代勇者の中で最強って言われてるくらいにはナ。」
そんなやばいのかこのおっさん!てか、さっきから周りはお構いなしかよ…。勇者って人を守ったりすんじゃないの?
いや、詳しくは知らんけど。
「斬りかかられている最中によそ見とはまた随分舐められたものだな!」
「うわぁっ!」
いきなりグリムの攻撃速度が早くなった。とにかく今はこの物量をなんとかしないと埒が開かない。こうなりゃ、ちょっと危ないけど賭けに出てみるか。
賭けと言っても大したことをするわけじゃない。このデカさの大剣なら懐に入り込んだ方が安全かもって話だ。
相手の力量次第では返り討ちに合うかも知れないけど、どのみちこれに対応してくるなら俺の勝つ確率は限りなく低い。
隙を見て懐に飛び込んでみるとグリムは嫌そうに後ろに飛んで距離をとった。結果的には睨み合いの状況に戻っただけだが、攻撃の流れを止めただけでも意味はあった。
「一旦仕切り直しだな。さて、じゃあこっからは逢魔流剣操術。その真髄を見せてやる。」
「やれるものならやってみろ。」
剣と剣のぶつかり合いに、言葉の応酬は多くはいらない。短く言葉を交わすと実戦では初めて流以外の型の構えをとる。
初めて使うって言っても使う機会がなかっただけなんだけどね!!
逢魔流剣操作:乱切り
かっこいい名前がついてるが、実態はなんのことはない。ただ軌道を読まれにくいように各方面から5回斬撃を入れるだけだ。
簡単に言ってしまえば、特に何も考えず適当なとこを攻撃するだけ。
まあ、流石に相手も手練れだ。俺ごときの剣撃は脅威とも思っていないかのように最小限の動きで難なくかわされる。
だがしかーし!!俺の狙いはグリムに直接攻撃することじゃない。本当の狙いは周りにいる邪魔な観衆を遠くへ追いやることだ。こうすればある程度自由に動ける。
ただ、それは相手も同じこと。多分次のぶつかり合いが決着の合図になる。なら当然やることは一つ!
全力の龍嵐刃舞を叩き込む!……全力とは言ったけど本気でやりすぎると会場吹き飛んじゃうし俺自身ぶっ倒れるから調整はするけどね?
グリムも大技の気配を感じ取ったらしく何か準備をしている。
「ふん!見たところ実戦経験はほとんどなさそうだな。なら仕方ない。初級魔法で勘弁しておいてやろう。」
わざわざ手加減宣言をしてきたグリムの周りには拳大の岩の塊が2、3個生成されていく。
「待て待て待て!初級?それが?!それ食らったら体穴だらけになりそうなんだけど!!あんた手加減なんてする気ないだろ!」
「安心しろ。命まではとらん。」
それ手加減しないやつのセリフじゃん!ついでに言うと高確率で命まで取っちゃうやつじゃんか!!
「うぉぉぉお!!唸れ俺の愛刀!龍嵐刃舞!!!」
「ロックショット。」
俺の気合の入った掛け声とは対照的にグリムは冷淡に魔法を唱える。そして、俺の渾身の一撃とグリムの自称手加減の一撃はお互いを吹き飛ばし……
「はーいそこまでー。これ以上は会場ぼろぼろになっちゃうから。あっ、今のは会場と以上で『じょう』をかけた高度なギャグなんだよ?」
はしなかった。グリムのロックショットは氷の矢に相殺され、俺の龍嵐刃舞は片手で受け止められた。
誰にって?さっきのセリフ。あんな寒いギャグを自信満々に言う奴なんて1人しかいない。
「「ギルマス!?」」
俺とグリムが同時に叫ぶと、クロスは得意げに「へへっ」と歯を見せて笑った。
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To be continued
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