第88話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その24 『ビッグハンド右近』
ビッグハンド右近は伝説的傭兵だ。彼の生き様は俺の憧れでもある。右近の代名詞と言えば、彼の得物の『ビッグ・ガン』と右腕であろう。
ビッグ・ガン――ミワ・オニキス工業製のマシェテ30はフルサイズライフル弾を使う薄らデカい拳銃だ。この銃は重サイボーグ相手にも通用する火力をそこそこの携帯性で実現しているメリットはあるが、デメリットも多く扱いにくい銃だ。まず、拳銃でフルサイズライフル弾を撃つのだから、反動が馬鹿にならない。そして、グリップにマガジンが入る構造となっており、全長のあるフルサイズライフル弾を受け入れるためにグリップがかなり太い。ビッグ・ガンは常人では握ることすら困難な代物なのだ。
それを、ビッグハンド右近はどうしたか……自分の腕をビッグ・ガンがまともに扱えるサイズにまでデカくしたのだ。武器を自分に合わせるのではなく、自分を武器に合わせる。まさに、コペルニクス的逆転の発想。サイボーグ野郎の鑑だ! 傭兵になったとき、俺はビッグハンド右近をリスペクトして、ビッグ・ガンと彼の右腕と同じサイバネを買った。俺は彼の大胆さに心底ほれ込んでいた。
俺が傭兵になってからしばらく経ったある日のこと、いつものように仕事終わりにバーで一杯ひっかけていると、ビッグハンド右近が店に入ってきた。決して他人の空似ではない。間違いなく本人だ。ブロマイドを毎朝眺めている俺が言うのだから間違いない。しかし、初めて生で見るビッグハンド右近には違和感があった。そう、右腕だけでなく、左腕までデカかったのだ。俺は動揺した。どうした、ビッグハンド右近! その左腕は!? アシンメトリーな体躯もあんたのトレードマークじゃなかったのか? そう思って、ビッグハンド右近を見ていると、俺は彼が腰の左右にビッグ・ガンを提げていることに気が付いた。俺の脳みそに稲妻が落ちる。彼が左腕をもデカくしたのは、二丁拳銃を想定してのものだったのだ。全身義体の俺が両手で保持してやっと撃てるビッグガンでの二丁拳銃、それほどの難度であろうか! ビッグハンド右近はいまなお進化する伝説なのだ!
俺は自らの浅慮を恥じた。アシンメトリーな体躯をトレードマークと思っていたのは外野の勝手な思い込み。ビッグハンド右近はその先を行っている。
一瞬、ビッグハンド右近に一声かけようとしたがやめにした。いまはそのときではない。俺は生中なファンボーイに過ぎなかった。できそこないのデッドコピーでなく、彼と同じ『本物』になろう。そう思い、俺はバーを後にした。
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