第64話 現代劇を書いてみよう その2 『おさつサンド』
食パンにありったけのクリームとフルーツを挟んだ魅惑の食べ物、フルーツサンド。見目麗しい断面とえげつないカロリーの悪魔的二重奏は、私を瞬く間に虜にした。
私には行きつけのフルーツサンド専門店がある。毎週月曜の仕事終わりに行くので、すっかり顔を覚えられてしまった。私がよく買うのは、『季節のフルーツサンド』だ。そのときの旬の果物が挟んであって、非常に美味しい。季節も感じられて、嬉しい逸品だ。
秋風も冷たくなったころ、私はいつものようにフルーツサンド専門店に寄った。いつも『季節のフルーツサンド』が置いてあるところを見てみると、見たことのない新商品が置いてあった。
『おさつサンド』と銘打たれたそれは、もはやフルーツサンドとは言い難い代物だった。フルーツの代わりに挟んであるのが、薄くスライスした蒸かしさつまいもなのである。こういうのを待っていた……! と私は思った。なるほど、これからはフレッシュな果物が手に入れにくくなる季節。そこで、季節にも合ったさつまいもを挟む。こういう変化球を見ると、フルーツサンドには無限の可能性があるのだとつくづく感じてしまう。
私はおさつサンドを買い、家に帰った。帰路では食べない。よほどうまく食べないと、クリームで手がべったべたになって大変だからだ。
包装ビニールを外すと、甘いさつまいもとバタークリームの香りがしてくる。私は大口を開けて、厚さ5cmはあろうかというおさつサンドに齧り付いた。
美味い! しっとりとしたパンに、濃厚なバタークリーム、ホクホクのさつまいもの調和がたまらない。さつまいもにバタークリームがこれほど合うものなのかと驚く。さつまいもの風味も甘さも、まったくバタークリームに負けていない。さつまいもが最近流行りのねっとり柔らかいタイプでなくて、ホクホクのやや硬めのタイプなのも良い。食感に変化があって、食べていて楽しい。
私はおさつサンドをぺろりと平らげた。包装ビニールに付いたクリームを舐めとる―—意地汚いとわかっていても、一人になるとやってしまう―—ついでに、成分表示を見る。さつまいもがリストの一番で、バタークリームが二番だ。カロリーは、一個当たり515キロカロリーらしい。ご飯一杯がだいたい240キロカロリーほどなので、ご飯二杯ちょっと分のカロリーを摂取したことになる。
恐ろしきかな、おさつサンド。また、食事管理を徹底しなければならないなと思いつつ、私は包装ビニールのクリームを堪能した。
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