第3話




「いいえ、お姉さま! 身分と顔の良さだけでイキっていたアホ王太子が鉱山送りにされて、力仕事では役に立たないから労働者達の性欲処理に使われるという展開には一定の需要がありますのよ!」


 なんてこと。シャティはわたくしの見ていないところでどんな本を読んでいるのでしょう。

 殿下が壇上で青くなって震えております。


「シャティ。落ち着きなさい」

「ですがお姉さま! お母様も「肉体労働にいそしむ屈強な大男に乱暴に陵辱されて汚喘ぎを上げてメス堕ちする展開だったらいいわね」っておっしゃっていましたわ!」

「お母様が?」

「大事なお姉さまが長年に渡って殿下の婚約者という屈辱的な立場を強いられたのですもの、お母様のお怒りは深くてよ」

「なんてこと……」


 わたくしはこめかみを押さえました。お母様はたいへんたおやかなお方なのですが、「やると言ったらやる」主義なのです。


「お母様を止めなければ……」

「すでに良さそうな鉱山はピックアップ済みですから心配はいりませんわ!」


 さすがお母様。用意周到ですのね。


「ちなみにお父様は殿下だけでなく殿下に従った令息達はもちろん、陛下も王妃様も「ざまぁ」するおつもりですわ! そのための準備は着々とすすめていらしたのよ! 今日は長年の宿願が叶うと朝から上機嫌で、高笑いをあげていらっしゃったわ!」

「まあ、お父様まで……」


 お父様は普段は温厚なお方なのですが、若かりし頃は「母の胎内に「容赦」という言葉を置き忘れてきた男」と呼ばれたこともあるそうです。ある一定年齢以上の貴族に「モーストア公爵が来るぞ!」と脅すと皆様大人しくなってたいへん良く言うことを聞いてくださるらしいですわ。


 あら。陛下と王妃様が真っ青を通り越して青白くなっていらっしゃるわ。


「こんなにも私達が待ち望んでいた「ざまぁ」を一人で満喫するだなんて、ずるいですわお姉さま!」


 シャティが私の腕を掴んでふくれっ面をします。


「そうね。ではお父様とお母様もこの場にお呼びするべきかしら?」

「お父様はお姉さまの冤罪を晴らす証拠を提出しに行ってますわ。お母様は仲良しのご夫人方に王家につくか公爵家につくか選ばせに行ってますわ。お二人ともそろそろ来る頃ですから、「ざまぁ」は我が一家が揃ってから仲良く行いましょう!」

「ええ、そうね」


 わたくしは壇上の殿下を見上げました。


「殿下。申し訳ありませんが、ここでしばし待たせていただきますわ」


 私はシャティと共に会場の隅へ移動しました。

 そこで邪魔にならないように待っていようとしたのですが、何故か会場中の皆様が必死の形相で押し寄せて参りました。


「アンジェリカ様! 私はアンジェリカ様を疑ってなどおりませんでした!」

「僕は冤罪だと信じておりました!」

「我が家は公爵家派です!」

「どうかお慈悲を!」


 あら、どうしましょう。卒業パーティーでこのような騒ぎを起こしてしまうだなんて。


「たいへん申し訳ありません。皆様」


 わたくしは皆様に頭を下げてお詫びいたしました。


「お父様とお母様の決定を覆すのはわたくしには難しいので、訴えたいことがおありでしたら父と母が来てから直接おっしゃってくださる?」


 わたくしがそう言うと、辺りは水を打ったように静まりかえりました。


「どうしたのかしら?」

「ずるいですわ、お姉さま。「ざまぁ」の前に、傍観者達への「プチざまぁ」をするだなんて」


 シャティがそう言いますが、わたくしはそんなことした心当たりがないのですが。


 ああ。静かになった会場に、遠くから近づいてくる二つの足音が響いてきます。

 どうやら、「ざまぁ」のお時間が始まるようです。





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