第263話 300階層

 あれから約一週間が経過したが、順調に進んでおり今は300階層に来ている。

 そう、これからボス部屋だ。俺は今回は何が出たのかを確認せずにコンボを決める。


 ボス部屋に入ると中央にボスが顕現を始めたのが分かる。中央が光り出したからだ。

 俺は以前のようにアイスウォールで囲み、熱湯を注いでから仕上げに蓋をして、その後ウォールに魔力を込めて強化をしていく。


 そうすると顕現が完了したようでウォールが攻撃されている。

 ドンドンと叩く音がするから分かる。

 事前に予測した事とはいえ、今とんでもない事をしていて一刻も早く解除して中の者を助けなきゃ!という想いが頭の中を支配している。


 既にウォールへの魔力供給は精神的に出来なく、魔力を注ぎ込んでいない。


「裕美!まずいよまずいよ!解除しなきゃやばいよ!なあ頼むから解除してくれ!後生だから!ううううう」


 そう、既にレジストが出来なくて精神攻撃に負けていたのだ。

 予測できていたので、俺が発動した魔法は既に裕美に譲渡しており、今現在魔力を込めているのは裕美だ。

 道中の実験で発動中の魔法を譲渡出来ないのかを試した所、成功したのだ。サラマンダーの所有者を引き継ぐ事も出来た。


 裕美も基本的に俺と同じ魔法を使える。だが、キングの体の影響と思われるのだが、禍々しい威力のファイヤーボールをは放つ事が可能なのだが、アイスウォールは思い描いた通りの形にする事がどうしても無理で隙間が発生するのだ。


 その為にターゲットを囲んでお湯や水を注入する事が出来なかったのだ。


 魔力量は志郎と遜色ないレベルなのだがコントロールに難があったのだ。


 コントロールは良いが、豪速球は投げられないピッチャーと、コントロールが悪いが豪速球で翻弄するピッチャー!こういった違いだなと志郎は考えていたのだ。


 但し引き継いだ後の魔法とはいえ、強化は裕美の方が上で、志郎が破壊しようとしたが破壊できなかったのだ。だから裕美に頼むしかなく、聞き入れられず今は泣いている。


 勿論裕美を攻撃すれば、強化をストップしてウォールを破壊できる。しかし精神攻撃の影響下とはいえ裕美を攻撃する事は出来ない。何故なら影響が出ているのは女を大事に愛でたい気持ちがありえないレベルになる事で、今ウォールの中にいるのも女認識だからだ。


 裕美にはこういう場合、足蹴にしてでも相手にしないで!と、ものの例えで足蹴と言ったのだが、文字通り志郎がしがみついて懇願する度に足蹴にしていた。はい!ものの例えの分からない天然さんと判明しました…それも情け容赦のない回し蹴りです。


 それはさておき、志郎がレジスト出来ない事さえ分かっていれば大した事は無かった。

 結局壁を破壊できず数分で発光現象と共にボスを倒した事と、志郎への精神攻撃が解除された事が理解できたからだ。


 しかし俺は心に傷を負ってしまった。自らの魔法で愛する女性を殺した事になっており、殺してしまったとずっと呟いていた。


 裕美は志郎にシェルターを出すようにお願いすると、言われるがままにシェルターが出てくる。ドロップは裕美が回収しており、急いで志郎をシェルターに入れ、体を直接洗い入浴させる。


 その後食事も食べさせて早々にベッドに入ると志郎はずっと胸をしゃぶっていた。そう、赤ちゃん返りをしていたのだ。裕美は一言も言葉を発せなかった。勿論介護状態で、右脚を上げてねとか、万歳してね、お口あーんしましょうね!等は別だ。

 発せなかったのは会話だ。会話をすると泣いてしまい、今の志郎に更に精神負担を掛けてしまうから無理に作り笑いをし、健気に面倒を見ていたのだ。


 予め2人で予測していたが、それでも裕美にはかなり辛い状況であった。


 そうして裕美に頭を撫でられながら志郎は眠りに落ちるのであった。

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