第227話 攻城戦

 俺は指揮を執っている者へ駆け寄ると、向こうもこちらに気が付いたようで握手を交わす。

 生き残った兵をまとめて何とか奴等を城内に押し留めているという。


 今の彼は分隊の指揮官として兵を纏めていた。


「トマスさん!生きていて良かった!状況は?」


「団長を呼びにやったから少し待ってもらえませんか?今は時々門から出てくる奴を捕らえるか倒して何とか持ち堪えています。兵の6割は最初に出てきた奴等との戦いで死んでいて、残存兵力を纏めています。騎士も私と団長の他5名しか生き残っていません」


「あれ?トマスさんって騎士だったの?それと俺とトマスさんの仲ですから、畏まった話し方をする必要は有りませんよ。公の場は別ですが」


「知らなかったのかい?貴方を南の魔の森に連れていったのが初任務で、初めて小隊を率いていたんだよ」


「あれ?てっきり下っ端だと思っていましたよ」


「ああ、あの時の一人がお目付け役だったからね。採点をされていたんだよ。そうそう、あの屋敷の時に傷病兵になったお陰で、壊滅的な被害が出た時に死なずに済んだんだよ。まあ、仲間や部下は全滅だけどね。あれはわざと傷病兵にして俺を守ってくれたんだろ?」


 話をしていると団長が出てきた。トマスと俺は複雑な関係で、上下関係はない。しいて言えば友人だ。いや生ぬるい。命の恩人だ。


「お久し振りですね。ランスロット卿。暫く見ないうちにまた随分お変わりになられましたね」


「確か第4騎士団のチャカハーンさんだったよね?」


「あらよく覚えていらっしゃられますね。やはり、胸ですか?」


「あのう?皆さん俺の事をなんだと思っているんだい?まあ確かに君の胸は素晴らしかったが」


「ふふふ。知りたいの?」


「な、な、何だろう?」


「おっぱいエンペラーよ」


「はぁ!?まじか?」


「ふふふ。冗談よ。先日のお返しよ。私、ウソをついていました。想い人なんていません。あ、あの、先日のあれはまだ、有効かしら?」


「そうだな、この戦いを無事に切り抜けて、生き残ったら俺の所に来るか?チャカハーンは今までよく頑張ったな。俺が何とかしてやるから、また手合わせをしような」


 そういい両手で握手をして再会を果たした喜びを伝え、門から入るのではなく以前設定したゲートから内部に突入する事にした。


 チャカハーンから情報を得たが、既に召喚された勇者達は絶望的だという。出てくるのは殆ど魂喰いだが、時折乗っ取られた者が出てきている事もあったらしい。


 騎士団の死者の殆どが魂を喰われたそうだ。なにせ名簿が向こうにある。


 死者の殆どは外傷が無かったという。


 連れてきた面々を見るに士気は十分だ。


 行けるか?と聞くと皆さん右手を掲げてやる気満々だった。


「じゃあ行こうか!チャカハーン!よゐこにして待っているんだよ!」


 そう言い放つと俺は城の中にある倉庫の一角にゲートを繋げ、間髪入れずに突入組が入って行く。


 ゲートを出したのは倉庫の一角だが空気がおかしい。正確には空気ではなくて、そこに漂う瘴気のような、そう、ねっとりと纏わりつく嫌な感じがするのだ。皆もそうだが、生理的な嫌悪感しかしない。


 俺は思わず嘔吐した。

 それ程嫌な空気なのだ。


 倉庫を出て最初の曲がり角でそいつが現れた。

 トカゲの頭をした犬の大きいような奴だ。そう、こいつ等が魂食いだ。

 どうやら早速魂を喰おうとしているが、真名が分からないから喰えないようだ。残念ながらランスロットじゃないんだよ!くくく!


 アリゾナが剣を振るが、なんと避けた。逆に反撃を喰らって蹴られさえした。しかし威力が弱く、少し蹌踉めいただけだ。だが俺は後ろに転移してライトソードの一振りで倒した。


 正確には奴らが乗っ取った体が魔物や動物なだけで、基本は精神体だ。しかしライトソードの一撃は奴等に届き浄化できたのだが、それは倒した直後に理解できた。


 キングの剣もそれが可能で、アリゾナに貸している。それと俺とオリヴィアのライトソードもだった。


 次は高校生の女の子が奇声を上げながら突っ込んでくる。アリゾナが切ろうとするので止めて、試しにホーリーを使うと魂食いの本体のみ浄化出来た。女の子が倒れたが、事切れた。既に魂が全て喰われており、体を操られていたのだ。


 俺は彼女の手を取るとお腹の前で組ませてあげて、短い別れの言葉を添え死体を収納に入れる。後でちゃんと葬ってやらないといけないし、セレナにもちゃんとお別れをさせないとだ。


 そうしていると数人の兵士が向かってくる。俺がホーリーを広範囲に唱えると奴等は次々に倒れていく。そんな中1人だけ効かなかったようで、俺に剣を突き付けてくる。俺はホーリーを使った反動で動けなかったが、オリヴィアが泣きながらライトソードで首を刎ねた。高校生の一人だった。浄化された死体をよく見ると魂の残量が0だった事が分かる。つまり魂が喰い尽くされていて、既に死んでいたのだ。


 せめてもと思い、ヒールで首を繋げてから収納にしまう。

 俺は怒りに震え、大魔力を込め、城全体を覆う広範囲のホーリーを使う。やはりレジストする奴が少し居るが、殆どの奴を浄化した。何となく理解できた。


 謁見の間を目指しているが、ホーリーで倒した奴等の死体だらけだ。魔物が半分、人間が半分といった感じだ。それでも進まなければならないので前に進むが、時折高校生の死体があった。俺は泣きながら収納していった。魂が残っている者がいれば浄化後に自我が戻る筈なのだが、残念ながら謁見の間に着くまでに生きている者はおらず、時折レジストした奴が襲ってくる感じだ。とにかく凄惨な状況が続き、皆戦意が弱くなっていた。


 そうしていると謁見の間が見えてきたのであった。

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