第116話 今後の備え
day31
朝誰かが寝室の扉を開け、俺の体を揺すっていた。俺は寝ぼけており、誰だか分からないが抱き寄せて服を剥ぎ取りに掛かり、開けた胸に顔を埋めた。
「ああ、ランスロット様、ようやくあたいを抱いてくれるんだね。でも最初は2人きりが良かったなー」
急激に目が覚め、抵抗せずに受け入れてしまっているトリシアの服を乱した事に慌てた俺は、服を整えてから土下座をしてひたすら謝罪していたのだが、トリシアはくすくすと笑っていた。
朝の鍛練に来なかったから心配して様子を見に来たら、寝呆けた俺が脱がせてしまったとトリシアが説明してくれた。
許す代わりに続きをして欲しいとせがんできて困り果てた。
「すまないトリシア。俺の中にある強烈な元の世界での倫理観がトリシアを抱く事を拒絶しているんだ。君が18歳になっていたら何の問題も無く妻に迎え入れていて、肌も重ね名実共に妻にしている。もう少し君達が大人の女性になるまではと俺の心がストップを掛けてしまうんだ。今はプラトニックな関係でいて欲しいんだ。君は魅力的過ぎだがら本心ではもう抱いてしまい、名実共に妻にしたいんだ。だから申し訳ない、申し訳ない、もうし・・・」
続きは言えなかった。トリシアが膝枕をしてくれて、頭を撫でながら口を指で塞いできたからだ。
「チェッ!つまらないなー。折角奥様にして貰えると思ったのに。でも嬉しいよ。あたいらの事を大事にしてくれているんだなって、魂を愛してくれているんだなって感じたぜじゃ無くて感じたわ。でももう1年ちょっとかー。リギアは明後日16歳になるからリギアはあと2年なんだよね。ランスが私達の事を受け入れてくれる日をお待ちしてるぜじゃなくてお待ち申し上げます」
その後は朝の軽い挨拶のキスをして部屋を出ていったのだが、俺が起きられなかったのは、単に昨夜弾け過ぎて寝るのが遅かった影響だ。つまり寝不足なだけだった。
急ぎ着替えて朝の鍛練に途中から参加し、風呂には入らず朝食ギリギリまで走り込みをし、それから時間通りに食堂にて食事をした。食事が終わった後で皆に今日の予定を伝えた。
今後ブラックオニキスは、隣国のボレロ王国を目指す旨を伝えた。今後の事を考えると、俺とセレナのテレポートとゲートにて行ける範囲を増やしたいので、朝移動を開始して、夕方にゲートで屋敷に帰る。そして翌朝また進むというのを繰り返し、そうやってボレロ王国に向かう感じだと。
最近バルバロッサは余り良くない状況になりつつある。どうやら戦争の準備をしている気配がある為、最悪の事態を想定し、屋敷を売り払い他国に行く事も視野にいれなければならないと考え始めていた。尤もバルバロッサの王都に居を構えている時点で既に志郎の危機意識が大幅に欠落しているのだが、その事を今の時点では認識できておらず、馬鹿な行動をしていたものだなと思い返すのはまだ先の事だ。お陰で知り会えた者も、救えた命も有るのだが、どう取り繕うとも、自らの首を絞める行為以外の何物でもないのだ。
依頼の関係で今日はブラックオニキスのみで移動し、ナンシーは今日は休みで屋敷への引っ越しを行うと言うので、先に引っ越しを開始したのだ。シェリー達に馬車を準備して貰い、その間にナンシーの宿舎の部屋と屋敷をゲートで繋いで、荷物をどんどん収納に放り込んで部屋を空にしていった。そして屋敷のナンシーの部屋に荷物を全て出していったのだ。
その後メイド達が宿舎の部屋を掃除してくれるのと、屋敷の部屋も荷物を箱から出して整えてくれると言うのでお願いをした。
昼食はリムル達が作って準備してくれていて、出発時に黙って渡してくれるのだが、そんな気遣いが有り難い。ナンシーを伴いブラックオニキスは隣国を目指して馬車で進んで行く事になり、先日2つ隣の町に行った時に、ゲートポイントとした所からリスタートしていった。
次の街には普通の馬車で夕方遅目に着く距離だから、我々ならば15時前後に着くだろう。
街道をひたすら進んでいるが、時折雑魚の魔物が出た程度で、基本的にのほほんとしていたが、11時位に異変を感じた。
その為俺達は鎧を着て戦闘の準備をした。そう何者かが後を尾けてきているのだ。
しかしいやらしい事に距離を詰めてこない。
一段と嫌な予感がしてきたので、御者席に座るウリアを装備を整えたシェリーと替えて一度下がらせて装備を整えさせた。
その先で何やら争いの気配がしており、様子が見えてきたが、どうやら争いが始まったばかりのようだ。
商人の馬車が盗賊か何かに襲われており、護衛がどんどんやられているっぽいが、不自然で胡散臭そうだ。だが放っておくとこちらにも飛び火するだろうからと、襲われている馬車を取り敢えず助ける事にした。
違和感を感じつつも、俺が単独で先行して盗賊と思われる奴らを蹴散らして行く。
残っている賊は14人いたが、弱くて話にならなかった。この商隊の護衛もそうだが、盗賊も含め皆が弱いのはどういう訳なのだろうか。
後方から来た奴らは商隊で馬車3台だ。1台が荷馬車、1台が人の運搬、もう1台が商隊の主の乗る乗用馬車の構成だ。
襲われていたのは荷馬車2台と人の運搬2台と主の馬車の5台での商隊。護衛が24人居たそうだが10人にまで減っており、何故か護衛が全て奴隷であり、冒険者は一人も居なかった。
襲ってきた奴らは身なりの粗末な盗賊だ。一応死体を処分するとしているが、俺が殺した奴のカードは俺が回収した。こういった場合の盗賊の換金は倒した者が権利を主張できる。
ただ、解せないのは賊の全てを殺したのと、後ろの馬車も護衛が20人位で、全て奴隷であり加勢をしなかった事だ。
俺自身がこの世界の事情に疎いが、有利になったとみるまでこちらに来ようとはしなかった。
襲われていた方の主人が御礼を言いに来た。
商人と言うよりは、どこかの私兵を束ねていそうな感じの鍛えられた体の奴で、何でも次の町と手前の町との間にて荷物の運搬を生業にしているという。
2つの商隊は一緒に動くという。
俺達に護衛をして欲しいと取引を申し出てきたのだが、対価は金貨100枚と結構な大判振る舞いだ。皆と相談してみるもお任せしますとしか言わなかった。
こんな時にクレアがいればなとつくづく思い、彼女の存在は俺が思う以上に大きかったのだと痛感させられた。
シェリーとナンシーは結婚したから別だが。基本的に鍛えている女性が好きで、訓練等で一緒に過ごす時間が多く、感情移入が大きくなってきている。
護衛を断るのも可笑しな話しなので、受託したが前金は金貨50枚だった。
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