第25話 気を取り直して初依頼へ

 グッディの死体を茂みに捨て、気を取り直して再出発した。1時間位歩くと目的の林が見えてきた。

 水を飲むだけの小休止のみをし、躊躇せずに林に入っていくが、帰りの事を考えると2時間位で引き揚げないといけない。


 この林はゴブリンとオークが多く、それよりも強い魔物は滅多に出ないらしい。

 今回はシェリーのパワーレベリングと、戦闘に慣れて貰うのが目的なので無理の無い方向でやりたい。

 魔物のスキルを見つつ、俺が倒すか、シェリーが倒すのかを決めていった。林の中に1時間位入った所だが、これまでに倒したのはゴブリン8匹、オーク4匹だ。その内のゴブリン1匹はシェリーが単独で対応したが、剣の方は舞姫の如く流麗な動きだが、力が足りないのか俺のように首ちょんぱは出来ず、手数で弱らせて、最後はウインドカッターで倒していった。魔力が切れたら最後は剣頼みなので、ある程度は剣での戦闘に慣れて貰うのが目的だ。


 時間的に折り返しだなとなり、引き上げ始めた直後に異変が起こった。

 後ろから突然2匹の魔物が現れたのだ。シェリーが俺の後ろを歩いていた為、振り向きざまにそいつらとまともに目線が合ってしまった。


 シェリーが一人で対峙する形になってしまったのだが、どうやらオーガのようだ。本来王都の近くで出る魔物では無い筈だ。


 振りかざされた剣をシェリーは辛うじて躱したが、転んでしまった。そこへもう一匹が剣を振り上げた。シェリーは恐怖で動けなくなり、失禁してしまった。


「あぁぁあ」


 声を出せず呻いていた。

 俺は何とか急いでアイスアローを放ち、咄嗟に駆け出した。そいつが振った剣がシェリーに当たる直前で何とか受け止める事が出来たが、蹴りを出すのが精一杯だった。幸いに少し下がって身構えた。


 シェリーとオーガの間に扇状のアイスウォールを発生させ、シェリーを守りつつ、もう一匹に対峙する。先程アイスアローを撃ち込んだ方はアイスウォールをばしばし叩いているが、もう傷が治ってきている。


 次いでアイスアローに魔力を込めて撃ち込む。5発連続で撃ち込み、オーガの体の中央に穴が開いた。間髪入れずに剣で首を刎ねようとしたが、力が入らなかったようで半ばまでしか切れなかった。心臓に剣を突き刺して漸く倒す事が出来た。


 もう一匹には、ファイアーアローを10発位食らわせ、表面を焦がした後に剣で打ち合った。


 殺れると油断したところに、奴の放った拳が俺の体に当たり、10m程吹き飛んでしまった。そして背中を木に強く打ち付けられた。痛みと空気が一気に抜けるような感覚がし、ぐはっと呻いた。 


 今の俺にとってはかなりの強敵だ。そう、Bランクの魔物である。

 俺の剣技だと正直なところ厳しい。ちゃんと習っていないからスキル任せになっているのだ。


 木が多いところなので余り使いたくはなかったが、そのような事を言ってはいられない。大量の魔力を込めたファイアーボールを5発ぶち込んだ。以前よりかなり大きく出来ており、直径1m程のを撃ち込んだのだ。

 そのお陰でオーガの表面は焼けただれたのだが、辛うじて生きていた。この傷も時間が経過すればいずれ治ってしまうのだろう。時間を掛けずにトドメを刺す事にし、今度はさくっと首を落として無事に決着した。


「肉体再生を強奪しました。スキルストックしました。ラベルアップしました」


 いつものアナウンスが聞こえてきた。もう1匹も肉体再生だったようだ。シェリーに駆け寄り、大丈夫かどうかの確認をする。呆然としているので立たせ、クリーンを掛けた。体のあちこちを触り、骨が折れていない事を確認する。ただ、つい出来心でどさくさにまぎれて胸もひと揉み。ご愛敬と言う事で。怪我が無いようなのでほっとしたが、漸く彼女は言葉を出せた。


「申し訳有りませんでした。それとご主人様のエッチ」

 

 謝罪と苦言をしてきた。


「シェリーが無事で良かった。それが一番だ。謝る事はないさ。強敵だったんだから仕方が無いよ。可能なら魔石と討伐証明の切り出しを頼みたいが、行けるか?」


 確認すると彼女は頷き、ナイフを片手に作業を開始した。


 俺はそんなシェリーを見守りつつ、周辺の警戒を行う。スキルの影響からか、徐々にダメージが回復しており、痛みが和らぐのを感じた。どうやら肉体再生はパッシブスキル、つまり意識しなくとも、常時発動している。

 そして回収が終わり、帰路に就き始めた。


 帰りは大変スムーズで、魔物に遭遇する事は無かった。

 ギルドでナンシーにオーガが出た事を報告したが、驚いて何度も大丈夫だったのかを聞いてきた。ギルドマスターに報告をするとの事で、俺はナンシーに討伐証明を渡した。今日はかなり疲れたので、他の討伐証明の持ち込みと、オーガを討伐分の報酬の受け取りは明日となり、今日のところは宿へ真っ直ぐに戻った。


 宿へ戻るとシェリーは泣いた。怖かったと。


「怖い目に遭わせてごめんな」


 俺は謝ったが、彼女は失禁した事を思い出したのだろうか、顔を真っ赤にしていた。


「そうじゃなくてですね、オーガは確かに怖くて醜態を曝した自分が情けないのですが、ランスロット様が死ぬかと思ったのが怖かったのです。無事でホッとしました。もしも…」


 そんな彼女が愛おしくなり、ついつい抱き寄せてキスで口を塞いだ。

 改めて思った。彼女が大事だ。もはやシェリー無しでは生きてはいけない。

 急いでお互いに手伝い合って鎧を脱ぎ捨て、普段着に着替えた。お腹がかなり減っており、直ぐにでも晩ご飯を食べたいとなり部屋を出て行った。気が付くとシェリーが俺の腕に自分の腕を絡ませ、腕を組んできた。そう、ごく自然に。俺は嬉しかった。

 彼女の温もりを感じたが、胸の感触も最高だった。ここでそれが出るのは男の子だからしょうが無いよね。おっぱいは正義だ。中々のボリュームなのだ。

 

 だが、つくづく思うのだが、シェリーは不思議な少女だ。

 その日の食事はとても美味しかったと記憶し、手帳にもそう記していた。食事も美味しかったが、シェリーの笑顔が眩しく、忘れられなかった。

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