第8話 居眠りと魔法

 気を取り直して先に進み出した。

 トマス達が出発してからかれこれ3時間位が経過した頃だろうか。強烈な空腹を感じ、一度休憩を挟む事にした。


 道の脇に座り干し肉と堅パンをかじったが、はっきり言ってまずい。


「うえーなんだコレ」


 つい不平を漏らした。

 日本の食事を当たり前としていると、携行食は拷問に近い。それでも無理やり噛みしめて腹に入れた。

 そういえば、貰った水とは別に鞄にペットボトルのお茶があったと思い出した。貰った水は飲む気になれなかったので、お茶で喉を潤した。


 この世界ではペットボトルの容器は貴重品となるだろう。貴重な水筒として使わなくちゃな、等と今後の事について少し考えていたが、不意に眠気に襲われた。油断したのだ。ウトウトと瞼が落ちていった。

 危機管理意識不足と、体力の限界…体側が音を上げたのだ。


 どれ位の時間が経過しただろうか?何かの気配を感じたからだろうか、ふと目が覚めた。


「やっべー!俺は寝ていたのか?」


 呟きつつ慌てて足元に落ちている剣を掴んだ。

 囲まれている!直感的に10匹の殺気を何故か感じたのだ。

 マズイマズイ逃げ道がないと焦った。この期に及んで逃げる事をついつい考えるのは平和な日本で育ったからであろうか。

 普通の人は、例えば通り魔が出たからと言って、英雄的行動に出て対峙しようとは思わない。隠れたり逃げたりするのが普通である。自分の子供が襲われていれば別だろうが、普通は包丁を持った奴が自分に向かってきたら逃げるものだ。


 しかし、囲まれていれば逃げるのは厳しい。何処かを一点突破で突き崩す必要が有るが、奴らにナイフや弓が有れば逃げても背後からぶすりとやられるだろう。


 意を決し、こちらから仕掛ける事にした。

 包囲網がまだ完成していない今なら意表を突けるかもと思い、周囲に注意を向けた。するとゴブリン8、ゴブリンアーチャー1、ゴブリンメイジ1の気配がした。まだ距離が有るので、辛うじてどんなゴブリンか、それと武器を持っているのかが見てとれた。まだアーチャーもメイジも配置に着いていない。


 扇状に広がっていて、片方の端にメイジ、弧を描いた反対側にアーチャーがいる。

 

「どちらかを先に潰さないとやばいな。さてどっちにするか!」


 呟いたが、メイジの方が危険と判断し、先にメイジを狙う事にした。ターゲットを決めたので一気に駆け出すが、メイジの前にゴブリンが居るので、まずそちらを狙う事にした。

 荷物をその場に残して身軽な状態で一気に駆け始めたが、先の戦闘より体が軽く、スピードが思ったより出たので俺は驚いた。寝ていた奴、つまり俺が急に起きて向かってきたものだから、一匹目のゴブリンは間抜けヅラをこちらに向けて固まっており、その隙に首に斬り付けた。だが少し浅かったようで3/4位を斬っていた。その為、即死で首の皮一枚で繋がっていたが、頭ごと体が倒れていった。その光景ははっきり言ってグロい。


「棍棒術を強奪しました。スキルストックしました。」


 正直邪魔なアナウンスだ。気が散るぞ!

 メイジの前にもう一匹出てきたので、袈裟懸けに切り捨てた。だがその所為で俺の足は一旦止まってしまった。そこにメイジが放った火の玉?ファイアーボール?が飛んで来た。3m位前という近距離から放たれた所為で、避けきれずに左の二の腕に喰らってしまった。服の腕の部分が燃えだした。


「うがっーーーあちぃい」


 しかし俺はそれには構わずメイジに向かって走り寄り、魔法を放った後の硬直だろうか、固まっている所を首ちょんぱした。

 俺はすぐに地面に転がり、燃え上がった左腕の消火をした。

 少し火傷をしたようで、ひりひりする。

 HPが0に成らなければある程度の魔法は威力を殺してくれるそうだが、火傷は服に燃え広がった影響だろうか。


 そしてアナウンスが聞こえた。


「ナイフ術を強奪しました。スキルストックしました。」

「火魔法を強奪しました。

 ファイアーアローを取得しました。

 ファイヤーボールを取得しました。」 


 キター魔法!異世界に来たからにはやっぱり使いたいよね。ビバ異世界!

 誰だ!適正無しって言った奴は!と思うが感激に浸っている暇はない。何故ならば、まだ残り6匹居るからだ。


 残りのうち5匹が一気に駆けて来るので、慌てて迎え討とうと身構えたが、2匹同時にキシャーと唸りながら飛び掛かって来た。左側のナイフを持った奴に剣を突き刺したが、勢いよく突っ込んできたので体を貫いてしまい、抜くのに手間取った。

 悪手だった。もう一匹が振るった棍棒が、剣を引き抜いた直後の右手の甲を掠った。


「うっ」


 呻いて剣を落としてしまい、更に剣を抜いた勢いで尻餅をついてしまった。


 そして棍棒を俺の頭に向けて振りかぶってきた。


「まずい!詰んだな!これまでか」


 そう思ったが、偶々右手がゴブリンに向いていたので、ダメ元でファイアーボールと叫んだ。

 すると手から火の玉が出て、そのゴブリンの頭を吹き飛ばした。

 あれ?さっきのゴブリンと同じ魔法だと思うが、何だこの威力!違いすぎるだろう!と驚いた。


「棍棒術を強奪しました。スキルストックしました。」


 初めて魔法を使い、感動している最中なのに不粋なアナウンスめ!と思っていた。ファイヤーボールは斜め上に放たれた為、木には当たらず上空に向かって行った。


 そのファイアーボールをつい見てしまったが、ゴブリンも同じようにファイアーボールを見ていた為、幸い

 隙にはならなかった。


「グギイギ」


 と唸っているゴブリンに手を向けて魔法を唱えてみた。


「ファイアーアロー」


 すると炎の矢が飛んで行き、顔の真ん中を貫いた。


「体力強化を強奪しました。スキルストックしました。」


 ああうっさい!

 ファイアーアローは顔を貫いて、木に当たる前に消えていった。


「よしこれなら火事にならないな!」


 と呟き、連続で魔法を放つ事にした。


「ファイアーアロー」


 俺は魔法を放つ為に叫んだ。

 今は手が痺れており、剣が握れない。

 二匹の体の中央に焦げた穴が開いたが、肉が焼けた臭いがし、とても臭い。下水の臭いと良い勝負だ。

 倒れている奴はぴくぴくとしており、まだ死んでいなかった。

 最後の一匹がゴブリンアーチャーだった。

 弓を放ってきたが、1vs1の為、余裕で避け、アーチャーの方に手を向けた。


「ファイアーアロー」


 心の中で唱えると炎の矢が放たれた。さっきは夢中で気が付かなかったが、無詠唱で行けるんだな!俺って意外とチートなのか?と思いつつ、アーチャーの頭を穿った。


「弓術を強奪しました」



 あれ?まだあの2匹のアナウンスがないなと思い、2匹を見たが、1匹はもう息をしていなかった。

 もう一方はまだゼイゼイと苦しんでいたが、俺は苦しんでいる姿を見て喜ぶ性癖はないので、トドメを刺す事にした。


「トドメが欲しいか?」


 返答がある訳ではないが、左手で握った剣で首を落とした。


「ラベルアップしました」


 アナウンスが聞こえてきたが、こいつもスキルのアナウンスが無かった。

 魔物は皆スキルを持っている訳じゃ無いのかな?と首を傾げながら思っていた。


 眠りに落ちる前に考察したのは、自分のスキルは殺した者のスキルを奪って得ている。

 切りつけて即死しなかった相手のスキルを得られたのが死亡後だったからだ。

 落ち着いたらしっかり考えようと先送りにした。


 取り急ぎナイフを回収し、魔石と討伐証明を集めていく。一応弓と矢も確保するが、質の悪そうな矢が矢筒に7本入っていた。

 ふと気が付くと左肩に鋭い痛みがあった。矢は刺さっていなかったが、どうやら掠ったらしい。幸い血は止まっているものの、左腕を動かすのは厳しく、下手に動かすと血が出そうだった。

 右手も今は痺れており、満身創痍だ。我ながら、まあよく生き残ったものだなとつくづく思った。


 そろそろ夜が明けようとしていた。召喚3日目の始まりだ。

 急ぎ森を出て街を目指し、治療をして貰い安全な所で休みたかった。


 スキルの確認の為に、ステータスを見ようと思ったが、見ている間は注意散漫で無防備になってしまう。俺は襲われるのが怖くてステータスを見る事が出来なかったのであった。

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