第1章

第1話 プロローグ

 45歳絶賛単身赴任中のリーマンの藤久 志郎は、日帰り出張の為新幹線の改札口に向かっている最中であった。

 身長は175cm、体格は普通だ。


 とある製品の設計開発の責任者をしており、打合せの為取引先である部品メーカーへ訪問する為に移動中だ。

 志郎は所謂おっさんである。強面でダンディーな感じのイケメンで、若い頃はブイブイ言わせていたが、今ではすっかり2児の父親である。

 それでも飲みの席などでは今でも女性から言い寄られる。髪型は刈り上げでキリッとしていて、街のチンピラ程度ならば睨めば萎縮させるだけの鋭さがある。普段はニコニコしている気のいいオヤジだ。

 

 高校2年生の長男と、中学校3年生の長女を持つ2人の父親である。

 40歳を過ぎた頃今の部署の責任者になるに際して、本社勤務となり現在は単身赴任中だ。


 今は5月中旬だ。社外での打合せの為グレーのビジネススーツを着ており、ビジネスバックを持った何の変哲もない出で立ちで、出来るビジネスマンという感じだ。


 コンコースで、修学旅行に向かうであろう高校生の一団が集合している脇を通り過ぎようとしていたタイミングで、突如高校生を中心として、白く輝く魔方陣の様な物が浮かび上がった。


財布から切符を取り出そうとしており、財布を触りながら歩いていた為に魔方陣に気が付くのが僅かに遅れてしまった。

その為に魔方陣の端に足が掛かってしまったのだ。正にその瞬間に眩い発光現象が起こり、魔方陣の中に居た高校生の集団と一人のおっさんは、忽然と姿を消したのであった。


 気が付けば、大理石の様な石の床の上に手をついて息を切らせていた。


「なんださっきの光は?」


 そうつぶやき周りに注意を向ける。

 周りには、先程見掛けた2クラス分位の男女半々程の高校生が、やはり志郎と同じく突然の出来事に戸惑いの声を上げている姿が有った。


 少し離れた所に中世のだろうか、鎧を着て手には槍を持った兵士風の男達が、高校生達を取り囲んでいた。

 建物はヨーロッパに有るようなお城の一角の広間と言った感じである。

 ついつぶやく。


「えっなんで?今駅を歩いてたのに?マジですか?夢でも見てる?」


 そんな中、兵士の一団の中から一人の若い上品なドレスを着た女性が突然出て来て、凜とした声で皆に声を掛けてきた。

 とても美人である。色々とお相手願いたいものである。ちょっと口角がきついが、街を歩いていて見掛けたらつい振り向く容姿。髪は金色の縦ロール。初めて生で見た縦ロールに驚いた。


「皆様初めまして。私はこの国バルバロッサ王国第二王女ルシテル・グリーンウッドです」


 とスカートを少し摘まんで優雅に挨拶をした。


「うわあ!あれが貴族ってやつか。優雅だな」


 不覚にも見惚れてしまった。

 後に彼女へ「小便ぶっ掛けてやるぞ」と憎悪を向けるようになる事、今後の人生で大きく関わる事には、今はまだ気がつくはずもなかったのだ。


「突然の事で混乱されていると思いますが、先ずはこちらにいらしてください。説明と検査を行います」


 彼女はそう話をして「こちらです」と手振りでついてくるように促した。


 自分の声なのか誰の声なのか


「うわーリアルお姫様だ!」


 等と聞こえてきた。


「いよいよ俺の時代来た~」や「嘘、おうちに帰りたい」


 とすすり泣く女子生徒の声


「ルシテルちゃんパネー」

「異世界来た~」

「ハーレム作るぞ~」 

「馬鹿ね!あんたなんか真っ先に野垂れ死んじゃえ」


 等と様々な会話が聞こえる。


 周りが立ち上がり王女の後をついて行く中、俺も立ち上がり移動しようと思った時に、違和感に気づく。


「あれ?ベルトが緩いぞ」


 太っては居ないが、若い頃に比べると少し体形が崩れており、お腹も少し出ている。

 取りあえず、ベルトの穴を3つ分と言うか、一番締めるようにベルトを絞った。

 それと何故か腰の痛みがない。長年酷使してきた体は、デスクワークが多い所為か肩凝りと腰痛が酷かった。

 眼も老眼が始まっていたのに、近くの物がはっきり見える。


 体の変化に戸惑っていると、近くに居た綺麗というか可愛い美人な女子高生に声を掛けられた。


「お兄さんこれって何だと思います?」 


「うーん何だろうね?さっき駅に居たよね?君達は修学旅行かなんか?」


「ええ。これから行く所だったんですよ。家に帰れますかね?お兄さんはお仕事ですか?」


「お兄さんってこんなおっさんに?」


 そう返答すると、女の子は不思議そうに首を傾げた。


「お兄さん私らと、そんなに歳変わらないでしょ?」


 まさかの返事に混乱している内に、目的の小部屋についた。


 小部屋と言っても、ちょっとした結婚式場のホール位は有る。王女が


「間もなく王が参ります。先ずはお掛け下さい」


 王女に言われるので、皆が座り始めた。

 俺は一人だけ皆と違う格好をしていた為、最後に部屋に入ったが、椅子が一つ足りずに慌てて兵士が椅子を持ってきた。

 その様子を見ていた王女の眉がぴくついたのは気の所為だろうか?

 人数を数えてみたが、高校生と自分を含め合計81名。

 どうも王女達は、人数を二度程確認しているようだ。王女の周りで神官服を着ている中年の男が、少し慌てている素振りが見えた。


 そうこうしている間に、王と思われるでっぷりとした見苦しい奴が、ローブを纏った複数の人を引き連れて入って来た。


 ローブを纏った一団は王の少し後ろに控えている。

 前方の豪華な椅子に王が腰を掛け、隣に王女が立ち、語りだした。


「こちらにおわすのは、私の父上にしてこの国の王のマクシミリアン・グリーンウッド三世陛下であらせられます」


 王女からの紹介の後に、デブ王が挨拶を行い色々説明を開始してきた。


「先ずは此度の勇者召喚に応じて頂き感謝する。

 80名の勇者召喚を行ったのには訳がある。この世界は魔王の脅威にさらされておる。最近魔王が復活して、近隣の国々が魔王により苦しめられている。魔王軍に対応するには、我々だけでは残念ながら力が足りず、古の召喚術により皆様方を召喚し、皆様方には勇者として魔王討伐に力を貸して欲しいのだ」


 所謂テンプレだなと思った所に、お約束と言うべきか、途中で声を挟んで怒鳴る者が居た。

 生徒会長風の男の子が


「ふざけるな。俺達、これから修学旅行行く所だったんだぞ。お前達の事なんか知るか! 今すぐ元の所に返せ」


 一気にまくし上げた。


「王に対するなんたる不敬か」


 周りの家臣から不敬だとの声が出て、兵士の何人かは槍を構えたり腰の剣に手を掛けていた。しかし王は黙って片手を挙げて、周りを黙らせた。そして王が語り始めた。


「突然の召喚に混乱していると思うし、一方的に召喚したのには訳があるとは言え、そなた達にとっては突然の事で、怒るのは尤もな事である。申し訳ない事をした」


 そう言い謝罪を行った。


「まず話を聞いて頂きたい。勿論魔王討伐の暁にはそれ相応の褒美と、元の世界に返す事を約束する。勇者一行よ、どうか我々を助けて欲しい」


 周りの臣下が慌てて


「なにも王が頭をさげる事はありません」


 等と言っている中、深々と頭を下げていた。


 俺は冷めた表情で 


『茶番だな』


 とその様子を見つつ思っていると、頭に


「レジスット成功」


 どこからか言葉が聞こえてきて混乱した。


「レジストじゃないのか」


 と突っ込みを入れつつ周りに注意を払うと、ローブの一団の全員何やら小さな声で口走っていた。


 文句を言っていた生徒は王の姿を見て


「分かりました。どうか頭をお上げください。我々にどこまで出来るか分かりませんが、この国の為に協力させて頂きます」


 そう返事をしていた。

 その様子を見ていて驚愕したが、誰も驚かないし、文句を言わないので黙って様子を見ている事にした。

 自分自身の記憶が一部曖昧で、家族の顔も名前も思い浮かばなかった。一瞬子供達の所に帰れるかなと思った時に名前も出て来なかった為焦っていた。


 そんな中、王が退出し、後を託された王女による説明が開始しされたのであった。



・・・・・・・・・・・

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