ブレイブ・ジャスティスの、

 十重二十重に仕掛けたブービートラップは、悉く作動した。

 固定されたMP5短機関銃が四方八方に火を吹き、クレイモア爆弾が無数の鉛弾を散らし、壁面を蜂の巣に穿つ。

 そんな中、別段、避ける仕草も見せないまま、ヴァーミリアがこちらへ歩いて来る。

 効く筈は無い。

 解っては居たのだが。

 僕は右手に抜き身の“邪聖剣”を持ちつつ、左手の拳銃を彼女に向ける。

「何故、わざわざ、このような無駄を」

 ヴァーミリアが、悠長に言った。

 強いて言えば、駄目で元々。

 これで彼女が死ねば色々と楽だったので、試して見ただけの事。

 何れにせよ。

 僕が食らうべきターゲットは残り1。

 知力の君臨者。

 現状の僕に勝算がある該当者は、この女だけだった。

 だから、死ね。

 あるいは、このまま殺されるのは僕の方か。

 審判の時だ。

 ……。

 ……、…………。

「素直に言ってくだされば良いだけです。さあ、どうぞ」

 ヴァーミリアは、僕の前で両手を広げて見せた。

 疑うだけ、無意味。

 僕は、邪聖剣で彼女の胸を正確に刺し貫いた。

 反応は、無い。

 麻酔と言う概念の無い種族だろうに、まるで何も感じていないかのように、彼女は僕の顔を見上げるだけ。

 血は順調に流れ出しており、直ちに回復せねば、早晩、致死量に達するだろう。

 いつか殺した、クリスタを思い出した。

 あの清廉な少女とは程遠い、混ぜ物だらけの分際で。

 失笑が漏れた。

 気付けば僕は、彼女を蔑む程度にはヒト扱いしていたようだ。

 気持ちが悪い。

「これが確実ですから」

「そうだな」

 剣を容赦無く引き抜いた。

 流石に身体の維持が出来なくなってきたか、女は、僕の胸に額を預ける格好になった。

 賭けには勝った。

 ヴァーミリアが、自分の保身を優先して僕を始末するか、このまま予言を敢行するか、可能性は五分に思えた。

 命を捨てて迄、彼女にどの様に遠大な企みがあったのか。

 元より理解する気は無い。

 いや、理解不能、と言った方が正しいだろう。

 僕はそれこそ“無駄”な事をする積もりは無かった。

 

ブレイブ・ジャスティス

【力:200(100) 体力:200(100) 知力:200(100) 反応:200(100) 器用:200(100)】

 

 美しい。

 ようやく、揃った。

 全て、同じに。均一に。無個性に。

 そして、なるほど。

 これが知力:200の世界か。

 最前までの自分が如何いかに愚図で蒙昧だったかを思い知らされる。

 すべてを識るのに、全てを知る必要等無い。

 この世は所詮因果律きごうの集合体でしか無く、要領の問題でしか無かったのだ。

 例えば、こちらの世界の小娘がチェーンソーと言う存在を知らずとも、普遍的な“識”が及ぶのであれば、バッテリーに永久機関を備える事など容易いだろう。

 それを踏まえ、今し方絶命したエルダーエルフについて考えて見ると……成る程。

 そうだな……この難解な思考を地球の者にも通じるように翻訳したとするなら。

 

 条理・摂理の異なる異世界から来た王子様。私を真理に導いて!

 私の全てを、だまって受け止めて! ここではないどこかへ連れていって!

 

 揶揄する積もりは毛頭ない。

 本当に、こうとしか訳す余地が無いのだ。

 勝算は五分と見ていたのは、杞憂だった。

 確かに、素直に死ねと頼むのが一番スマートだった。

 超越種の君臨者としては、何とも詰まらなく感傷的な希望を抱いた物だ。

 所詮、この“首都”に居るようなエルダーエルフ。

 元々の知力は差程では無かったのだろう。

 それが“知識相続”と言う後天的なテコ入れによって、分不相応にも君臨者となった。

 だが、知識とは使うにしてもが必要だ。

 これがこの女の、限界だったのだろう。

 だが、其処そこに関しては僕も何も感じなかった訳では無いらしい。

 だから“ボク”ならこう言うであろう言葉を彼女に手向けよう。

 ヴァーミリアよ。僕の中で生き続けろ。

 とね。

 

 さて、そんな事よりもレイだ。

 僕は今や、ヴァーミリアの本心を暴いたのと同じ感覚で、自分の中にあった“想い”を完全に悟った。

 捜査線上に挙がった彼の事が、元々ひどく気になって居た。

 最初の事件の時から、彼の事を調べていくうち、ある“予感”が大きくなっていった。

 仕事とは関係無く彼の居場所を突き止めて、ずっと遠くから見ていた。

 より彼に近付くべく、整形手術までした。

 僕が暮らしていた部屋の壁には、隙間無く彼の写真が貼られている。手持ちのスマホに全ては入りきらなかったので、やむを得なかった。

 僕があちらで死んだ後、それをどう解釈されているのか、知れたら愉快だろうに。

 そして彼の部屋に突入したあの日、どれ程の勇気を絞り出した事か。

 だが、全ては無駄だった。

 今こそ、彼の総てを識りたい。

 

 レイ、レイ、レイ、レイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイレイ

レイレイレイレイレイレイ。

 

 僕の思考は次元を超越し、この世の全ての記録が無機質に羅列されただけの“そこ”へ至る。

 ここには、知識の全てがある。

 だが、だからと言って、アクセス出来れば総てが解る訳でも無い。

 地球のインターネットとて、そうだろう。

 

 ……。

 ……、…………。

 最高だ。

 陳腐だが、地球風に言えば“万能のプロファイリング”と言うのが近い。

 エルダーエルフの知力は、ほんの少しの情報から芋づる式に本質を引摺り出してしまうモノのようだ。

 レイがこれまで歩んで来た道。

 一瞬一瞬の仕草、表情筋の差異、声のトーン、客観的な情報全て。

 もっと、もっとだ!

 どんな些細な情報でも、たちまちエルダーエルフ的演算に組み込まれて行くのが感じられる!

 何と表現すべきか?

 中学生の健全な男子が“エロ”だの“おっぱい”等と言うワードを貪欲にググる様な、刹那的ながらもストイックな、原初の衝動!

 その思考強さ、宇宙開闢かいびゃくにすら至らん!

 解る! 解るぞ!

 

 そして。

 満足の行く情報量が得られるまでに、数分と掛からなかった。

 

 ……そうかッ!

 

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