愛しい時間

「待たせて、ごめんね」


 本当なら去年の記念日にって君は思ってたんじゃないかな?

 待っててくれてたんじゃないだろうか?


「ありがとう」


 僕が嵌めた指輪を愛しそうに撫でて、微笑んだ美羽の頬を一筋の涙が流れる。

 慌てて差し伸べた指先で必死にそれをなぞると、僕の目を見て彼女は言った。


「ここで、問題です。私は、なにを言ったでしょうか?」


 キャンドルの灯りに揺らめいた美羽が不意に歪んで見えて、フラッシュバックのようにあの日の光景が脳裏によみがえる。

 美羽の口元がゆっくりと開き、「あ」の形をしていたように見えた、だから。


「……、ありがとう?」

「う~ん、違うんだな。やっぱり伝わってなかった」


 美羽の小さく白い手が、さっきの僕の真似をするように。

 優しく、頬に触れてきて、濡れた僕の頬を撫でた。


「正解は『またね! 瑠衣のこと、愛してた』よ」


 泣きじゃくる僕の側にはアロマキャンドルの箱。

 『会いたい人に会えるアロマキャンドル』、そう書かれている。

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