第9話 彼氏さんとお昼ごはん

 ようやくかなった初デート。


 幼いころからのフィアンセとの初の2人きりの食事に僕は結構お高めのフレンチのレストランを選んだ。


 店の雰囲気も値段相応に優雅で厳かで、気品を感じる。


 しかし……

「あの、湊さん、後ろの席が少し騒がしいですけど何かあったんですか? それに聞き覚えの声も聞こえる気がするのですが……」


「大丈夫だよ、雅、あれは高い店に来てテンションが上がったお客さんが変なテンションで注文してるだけだよ。声は……多分気のせいじゃないかな?」


「そうでしょうか……あの、はしたないのは承知の上ですが振り返って確認「あ、雅ちゃん前菜来たよせっかくのコース料理なんだから周りを気にせず楽しもうよ!」


「……それもそうですね! よーし、コース料理全力で楽しんじゃいます!」

 そういって雅の気を紛らわしたが、僕はそのガヤガヤの元凶の女の子に見覚えがある。あの子は雅が何度か話していた親友の……そうだ、星月さん、星月あかりさんだ。


 その星月さんがどうして場違いな服装にサングラスで男の子と一緒にこんな高級レストランに来ている……もしかして雅が心配でついてきたのだろうか? さっきからちらちらこっちを見ているようだし、これはそう考えて間違いないかもしれない。

 

 雅、いい友達を持ったな……あ、外国人の店員さんに連れていかれた。この店員さんの方が雰囲気壊しているような気が……まあ、いいや、とりあえずデートを楽しもう!


 ☆

「追い出されちゃったね……」


「そうだね……」


 結局、大柄な外国人の店員さんに僕たちが何かできるはずもなく、店の外にぽい、と放り出されてしまった。僕らが場違いなのも悪かったけど店員さんの対応も悪いと思います!


「でも、でも、店員さん『いずれお待ちしております』って言ってたし、またデートで来てもいいよ、って意味だと思うんだ! だから……!」


「そうだったね……いずれお金を貯めたらこういう店に行ってみたいな……」


「そうだよね! それより、店員さんも身の丈に合ったお食事とデートをしなさい! って言ってたし牛丼でも食べに行かない? 牛丼なら早く食べ終わるし、待ち伏せができると思うんだ!」


「お、いいね、それなら所持金2500円の僕でも食べられる!」


「……せめてもう少しお金は持ってきてほしかったかな……」


 そんなこと言われても、バイトできない身からすると仕方がない。母さんもなんか拗ねてお小遣いくれなかったし。取りあえず、学生の味方の牛丼屋にレッツゴーだ!




「そういえば、伊織君と外で2人でガッツリご飯食べるのって初めてだよね?」


「そうだっけ?」


「そうだよー、スイーツはあるけど。ねえねえ、伊織君は何頼む? 私はね、高菜明太のやつ!」


「結構がっつり食べるんだね。僕は無難にネギ玉かなー」


「お、定番! ネギ玉も美味しいよね! 店員さーん、高菜明太牛丼とネギ玉牛丼、どちらも並でお願いしまーす!」


 星月さんのその声に「あいよー、ネギ玉高明1丁!」という声が店内にこだまする。やっぱり僕たちにはこういう雰囲気のお店の方があってる。


 ⋯⋯て言うかサングラス外すの忘れてた。昔こんな感じの花粉用ゴーグルつけてた時期あるけど、やっぱりカイジの黒服になった気分。


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