マルゲリット王女

 私は七十一代国王の第一王女。この世界には魔力があり、それは十三歳から十五歳までに行う洗礼によって授けられる。私は人間が生まれながらに得られる最高の赤色の魔力を持っている。

 我が国は魔力の強さで王が決まる。しかし王女に王位を継ぐことは出来ず、全ての王子が洗礼出来る年齢になって洗礼を受け、魔力の強さが分かったらその中から王太子を決める。

 けれど今日、私の二十五離れた弟が生まれた。父が手を付けたメイドが母だ。

 父も、相手がメイドならば子が産まれても魔力が強くならないと思ったのだろうが、実はそのメイド、没落した伯爵家の末娘だったのだ。彼女は幼い頃の栄華が忘れられず、魔力の強い男子を産めば自身も妃になれると思い、橙色に近い濃い黄色の魔力を持っている事も、元貴族だった事も隠してメイドになった。そして父に取り入ったのだ。父はまんまと若い娘にしてやられた。相手の方が一枚上手だったと言うわけだ。

 父親が赤色で母親が橙に近い黄色の魔力なら、子は十中八九赤色の魔力を持って生まれてくる。しかし、既に四歳下の弟が王太子になっている。


 

 大昔、この国の内戦は激しかった。同じ赤色の魔力を持つ王子同士がそれぞれに派閥を作り戦っていた。いつの頃かの賢王が、その事を嘆き立太子が恙無く終わったら、その他の赤色魔力を持つ王子を神殿に入職させ、尊者という最高位を与えることにした。神殿に入職した者は家格を捨てざる得ない、そして国政には口を出せなくなる。それからそれが慣習となって現在に至る。


「こんにちは、あなたが私の弟ね。」


 王宮の端の端。誰からも目の届かない部屋で生まれた弟をマルゲリットは優しく胸に抱く。母親の胸に抱かれることもなく彼はここに連れてこられた。


王妃ははの耳には入っていないのね?」

「はい。王女様。」

「なら良いわ。少し今までの慣例とは違うけど、私が彼を引き取って神殿に入ります。」

「マルゲリット王女様。」


 侍従のアドルフは苦々しい顔をする。


「侍女のアンヌ、そして彼とその母親を私の侍女として連れて寮へ入ります。」

「王女様。」

「アドルフそんな顔しないで。別に母親になるわけではないのよ。アングランド候のご子息とも勿論結婚致します。ただ、この子はこのままじゃ疎まれてしまう。この子の母親は愛妾にもなれないわ。母はそう意味じゃとても冷徹な人よ。我が子の即位を邪魔する者には容赦しないでしょう。それに母には二大侯爵家が後ろ盾として付いている。それを敵にしてこの子が政治に関係することは出来ないでしょう。この子は神殿に入職するのが一番良い。」


 生まれたばかりの弟の頭を愛おしそうに撫でる。


「この子の母親にはこう伝えて、父の側女でいたいのならこの子には一生会えない。父との事を諦めて、母親として生きるのなら、私の侍女として付いてくることを許すと。」


 アドルフは一つ頷く。


王妃ははには私から話します。」


 アドルフは深々と頭を下げる。


「この子の名前は決めたわ。ロベール。大昔のとても信心深かった王の名前よ。きっと神の道をよく勉強して、国のために尽くす子になるわ。そして弟のことも助けてくれるに違いないわ。ねぇ、ロベール。」


 マルゲリットは寄る辺のない小さな弟のこれからの人生がこの子にとって望ましいものになるようにと願いを込めて、額にキスをした。

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