第31話 エピローグ・そして夏休みへ———
戦いが終わった後、俺達は面倒ごとを避ける為、コロッセオから足速に立ち去った。
そして三日後。
全壊したコロッセオは建て直し中だが、学園はいつもの様相を取り戻していた。
そして今日は、一学期の終業式。
昼前の高い日が、薄暗い体育館から出たばかりの瞳に眩しい。というか、単に寝起きだから眩しい。
思い返せば入学してからこの一学期、色々な事があった。
ドラッグとボンと出会い、アシェッタと再会し、ザラギアと戦って……
思い返せばあっという間だが、人生で最も濃密な時間だった。
「さて、アイツらも待ってるしそろそろ行くか」
これから、いつもの四人で昼飯を食べに行く予定だ。
『一学期なんとか生き残れたぜパーティ』元々は、退学させられなかったぜみたいな意味合いだが、ザラギア戦とか、生き残れたって部分があながち冗談じゃなくなっている。
「ってかさ、俺が戻ってきたらコロッセオボロボロでリューリ達も怪我しててびっくりしたわ」
俺の正面の席に座るボンが興奮気味に言う。
コイツは紫陽花戦が終わった後すぐに冒険者ギルドで大きな依頼を受け、遠出していたそうで、天使ザラギアの一件を丸々見逃したのだ。
「ぼっ、ボン、お前全く……うっ、運のいい野郎だぜ……」
「天使相手じゃお前居てもな……」
「酷ぇ!」
ドラッグと俺のダブルパンチを喰らい、ボンはガックリと肩を落とした。
「でも、まさかザラギアを見逃しちやうとはねぇ……」
いつの間にかアマミヤが左隣に居た。
別に仲良い訳でも無し、気まずいからパーティには呼ばなかったんだが……
「ザラギアの件については謝らねーぞ。お前が情報を小出しにせず、ザラギアがリリスに協力したって所まで言ってくれればザラギアと戦う事にはならなかったんだからな」
「ほへ? そうだったの?」
「お前はとぼけてるのかマジなのか分かんねーな」
知っていたけど気力を削ぐからあえて伏せた、天使の瞳の能力でもそこまでは分からなかった、騙す気だった、様々な可能性がある。
だが、盤上支配者サマ相手に知略戦をする程バカじゃないので、俺は早々に考えるのを辞めた。
まぁ、騙されてたとして騙される方がバカだしな。恨み言を言うつもりは無い。
俺は最後の最後でザラギアを見逃したから、どうあれ痛み分けだ。
「えへへ〜。まぁ、ぶっ殺せなかったのは残念だけどアイツをボコせたからボクはスッキリだねぇ……」
「さいですか」
「ところで、今日ってリューリ君の奢りなんだよねぇ!」
「お前は自腹な」
「や〜んリューリ君のケチ〜!」
アマミヤはポコポコと俺の背中を叩いた。
相変わらずよく分かんねーやつだな……
そういえば、アマミヤが居るのにアシェッタが反応しないのは珍しいな。
右隣を見てみると、アシェッタはステーキを一心不乱に頬張っていた。
「……(そっとしておこう)」
内訳。
ボン 牛丼三皿、ドリンクバー。
ドラッグ ラーメン、サラダ、アイスそれぞれ一つづつ。ドリンクバー。
リューリ ハンバーグ定食。
アシェッタ ステーキ定食六皿。ドリンクバー。
アマミヤ ドリア、骨付き肉それぞれ一つづつ。ドリンクバー。
合計 15,000円
「お会計、一万五千円になります。」
財布にボディブローを食らった。安いって評判のファミレスなのに……
コイツら……人の金だと思って食いまくりやがったな……
まぁ、今日はお祝いだ。パーっといこう、パーっと。
「フクザワ硬貨二枚で。」
がま口から最高額硬貨を取り出すと、後ろの奴らが声を上げた。
「よっ、リューリ太っ腹!」
「ごっ、ゴチになります……へへっ……」
「美味しかったよ〜!」
「何だかんだボクの分まで払ってくれるリューリ君はツンデレだねぇ……」
まったく、コイツらは……
夕日が街をオレンジに染める頃。
俺とアシェッタは皆んなと分かれて帰路に着いた。
「ねねっ、明日から夏休みだねっ!」
「ああ。楽しみだな……」
激動の一学期は、様々な思惑、様々な謎を残しつつも、リューリが過去から一歩踏み出す事で一応の決着を得た。
だが、物語はここから始まる。
踏み出したその足が、一体何処に行き着くのか。一体何を踏み付けるのか。
生き延びた男と、生き残った女。
鏡写しの二人。
命分け合いし炎と炎。
一瞬、風が強く吹いた。
リューリとアシェッタの後方、その彼方へと、風に運ばれた羽毛が飛んでゆく。
リューリは振り返り、視界からそれが消えるのを見送った。
———————そして、夏休みが始まる。
season1 完
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