第15話 盤上支配者
突然だが、学園最強トーナメントの勝敗がどうやって決まるのかご存知だろうか?
第一に、相手が降参した場合。
第二に、相手が意識を失った場合。
第三に、公正なジャッジを下す魔水晶が勝敗を決めた場合。
の三つだ。
魔水晶は林檎程の大きさの水晶で、単純な命令を実行できる。
トーナメントで使われているものには、『心が折れた方に敗北を下す』というトーナメント進行の為の命令が入力されている。
それは絶対公正だ。
逆に言えば、それ以外で試合は止まらない。
「と、いう訳で! 今回は魔水晶の判定に引っかからない様に君のの手足を引き千切ってみたのさ!」
「がっあ……」
昼食後、アシェッタの応援の力で四回戦-学園八位、絶壁のガンガルダ、五回戦-学園五位、神域のベージュと到底勝ち目の無い相手に辛くも撃破したリューリは、六回戦にてこの挑戦の元凶である学園二位、盤上支配者アマミヤとマッチングした。
が、
「魔水晶の判定が出ていない以上リューリ君はまだ負けてない、ホラ頑張って! ファイト!」
試合開始から約十分。
最早、勝負は誰が見ても明白だった。
コロッセオに散らばるリューリの手足、ダルマにされて尚もがくリューリ。
それをアシェッタは、観客席で見ていた。
今すぐに止めたい。
だが、魔水晶が反応しないという事は、リューリの心は折れていないという事だ。
現に、ここまでされて尚、リューリは降参さえしていない。
「あの女……試合が終わったら……」
リューリの意地を立てて必死に堪えるが、アシェッタは今すぐにでも全ての力を解放してアマミヤを殺したかった。
だが、ああまでされて尚折れないリューリの心。
その事実が、アシェッタを踏み留まらせる。
「リューリ君、君はもっと出来る筈さ!」
アマミヤは言いながら、最早ガードも出来ないリューリを蹴り飛ばした。
そして、リューリは咳き込み、血を吐いた。
「内臓が潰れちゃったかぁ〜、心が痛んだので大チャンス! リューリ君に回復魔法かけたげます!」
アマミヤの白い手が、リューリの体に触れる。
そして、淡い光がリューリを包んむ。
彼女は本当に回復魔法を発動したのだ。
「流石にボクじゃ、離れた腕をくっ付ける事は出来ないけどねー」
「なっ、何故……?」
「だってリューリ君には自分の限界、いいや、その先まで引き出して欲しいんだもんっ!」
リューリは困惑した。
目の前のバケモノが何を言っているのか、本当に理解が出来ない。
熱々のフライパンを身体中に押し当てられているみたいに痛くて頭が回らない。
だが、無防備な敵が近くに居る事だけは理解出来た。
「炎よ—————————!」
「せっかく回復してあげたのに、回復魔法を使った後の隙を狙うだなんて、リューリ君は酷いねぇ……」
リューリ、咄嗟の炎魔法。
それは蛇が獲物に纏わり付く様にアマミヤを捉えた。
高火力の炎が、アマミヤのシルエットを覆い隠す。
「やったか……?」
リューリは動けない。
ただ己の勝利を信じ、相手を見続ける事しか出来ない。
やがて、炎魔法の効果が切れ、アマミヤの姿が見えた。
「い、今のは結構効いたよ……ほら、制服ボロボロ」
アマミヤは制服の袖を摘み上げ、焦げた部分を見せつけた。
学園の制服は戦闘服でもあり、当人の魔力に応じた防御力を発揮する特殊繊維で作られている。
リューリ程度では着てようが着てまいが大差無いが、Sランク筆頭のアマミヤが着たとなれば、制服は鋼の鎧と化す。
それを、リューリが焦がした。
リューリが咄嗟に放った炎魔法は、命の危機によるブーストを経て鉄壁の防御力を超える威力になったのだ。
だがそれでもアマミヤの素肌を多少炙った程度で、致命傷には至っていない。
「かはっ、へへへ……あんまし油断してっと次は消し炭だぜ……」
地面を這いずりながらもリューリは顎を上げ、吠えた。
それに対してアマミヤは、心の底から楽しそうな笑みを見せる。
「ダルマにされてもその威勢、良いね。そうでなくっちゃだよ!」
実際、リューリがこれ程自分を追い詰めるのは、予想外ではあった。
懺悔でもしようかな、ボクは君を侮っていたよ。
でも、"今"の君に負けると"計画"がおじゃんになるからね、少々大人気ないが、あの魔法を使わせてもらおう。
そして、アマミヤの右腕が発光を始めた。
「そろそろ頃合いかなと思ってね」
この女……何かする気だ。
具体的に何をするか想像は出来ないが、手足を切り飛ばされたリューリに避ける事は出来ない。
迎え撃つしか、ない。
だが、焼ける様な痛みと、とうに底をついた体力と魔力。
最早、打てる手は無い。
「それでも、我が痛みに呼応せよ、炎のエレメントッッッ!!!」
「自らの痛みを概念的触媒として魔法の威力を上げるつもりか! 成る程成る程、本当に君は想像以上だねぇ!」
振り絞るんだ、全てを。
アマミヤの光った腕は、何をするか分からないが、この雰囲気からして容易にキャンセルできるものじゃない。
ここが全ての分水嶺。
何が何でも競り勝ってやる。
俺の全て、いや、全てよりも更に先を賭けてでも!
腕の付け根だった場所に魔力が集中していき、魔法が形作られていく。
もう痛みはなかった。ただ、ひたすらに熱い。
「スカーズフレア!!!」
熱線。
血の熱線だ。
リューリが放ったのは、炎魔法に自らが今感じている『痛みの概念』と、『流れる血』を組み込んだ魔法。
それは熱線となり、我前の敵を貫かんと迫った。
「神聖魔法、ホーリーエンドフィスト!」
敵は、超常の力を纏った右腕でそれを迎え撃つ。
神聖な波動が、熱線を掻き消してゆく。
ダメだ、このままじゃ……
「まだまだあああああああああ!!!」
虚勢を叫び、命の底から魔力を上乗せした。
俺は知らなくちゃいけない。
アマミヤを倒し、俺が知らない、知らなくてはいけない何かを。
ここが全ての分水嶺なんだ、ここで勝てなきゃ、俺は一生止まってしまう。
ここで勝てなきゃ、もう朽ちていくのを待つだけだ。
アシェッタに貰った命、あの時生き残ってしまった命に、そんな詰まらない終わりは許されない。
だから頼む、今だけでいい、今この瞬間だけは、俺を勝たせてくれ!
この先の寿命さえ削る程に、とっくに底をついた魔力を引き出していく。
心臓が破裂し、ガソリンタンクから燃料が漏れ出す。
それでもまだ足りない。
ダムを干上がらせる程、油田を枯らす程、もっと……もっと……もっと力を!
その時、コロッセオに二本の雷が落ちた。
正確には、アシェッタとリューリに。
そして、リューリの身体に膨大な魔力が流れ込んだ。
「うわっ、何だこれ!?」
「目覚めたんだね……ドラゴンの眷属!」
リューリ、困惑。
しかし、胸の奥からあり得ない程大きな力が湧いてくる。
切り飛ばされた四肢が再生し、活力が身体に満ちていく。
視界が冴え渡り、力は溢れそうで、身体中で魔力が暴れている。
だが、最高の気分。
『勝てる』気分ッッッ!
そして、リューリの頬は、まるでウロコの様にひび割れた。
黒い瞳には黄金の輝きが宿り、虹彩が縦に裂ける。
ドラゴンの如き形相だ。
「よく分からねぇが、このままテメェをぶっ倒す!」
「いいよ……覚醒した君の力を見せて……」
光の腕と、龍が放つ光線の如く強化されたリューリの熱線が激しくぶつかり合い、辺りに衝撃波を撒き散らす。
熱が飛び散り、コロッセオに貼られたバリアが焦げ付く。
「うらあああああああああああああ!!!」
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