第28話 AV観ましょうって言いました?

 水上さんは一時停止された映像みたいに硬直している。

 俺なりに最適解の誘い方だったと思ったが、違ったのかな?


「? どうしました?」

「さっき、AV観ましょうって言いました?」

「えぇ!? 何言ってるんですか!? 俺は『AVルームに行きましょう』って言ったんですよ!!」

「そ、そうですよね」


 ビックリした。

 少しばかり言い方は違ったかもしれないけど、AV観ましょうは流石に言わない。


「AVルームですか? 分かりました」

「待っておいてください」

「はい」


 バイトの時間が終わって、読書をしていた水上さんを呼んでから上の階段へ上がる。

 二階の隅にAVルームがある。

 奥にあるのは音が漏れても、他の人に迷惑がかからない為だろう。


 AVルームにはパソコンとテレビが置かれているスペースの2種類がある。

 テレビの方が、画面が大きいので、テレビを使うことにする。


 AVルームを使用する為には、受付での手続き、もしくは予約が必須だ。

 受付する時におばちゃんに、恋人かい? とからかわれてしまった。

 俺達以外には誰も利用所はいないようだった。


 受付したくなかったな。

 でも、受付しとかないとブッキングするし、ヘッドフォンを受付で貰えないからトラブルの元になるんだよな。


「ここなら仕切りもありますし、今は誰もいないみたいなので、貸し切り状態ですよ」

「誰も利用者いないんですね」

「あまり使われてないですね。昼間とかだったら、まだ利用者はいるんですけど」


 俺も図書館で受付するから知っているけど、この時間帯の利用者はいないんだよな。

 そもそも図書館自体に人がいない。

 貸し切り状態になっているので、少し小声で話すぐらいだったらマナー違反にはならないだろう。


「……ソファ小さいですね」


 呟きながら、しまったと思った。

 備え付けのソファが小さすぎて、膝と膝が当たりそうだ。

 一人で利用する時には気が付かなかったけど、二人で利用する時は狭い。


「もっと近寄ってもいいですよ?」

「す、すいません……」


 ミリ単位で膝を動かす。

 流石に当てる訳にはいかない。


 図書館の受付で借りたBDを取り出す。

 高級品なので、図書館の外に取り出すことはできないし、受付の紙を毎回書かないといけないのは手間がかかるけど、無料で図書館にあるBDを借りられるのは便利だ。


「何を観るんですか?」

「これです」

「あっ、借りた本の!!」


 観ようと思ったのは、俺が貸した本の映画作品だ。

 仮に水上さんが嫌がった場合は、二本、流行った映画作品も保険で借りておいたが、今の反応を見るに当たりだったようだ。


「どうせだったらタイムリーな映画を観ようと思って」

「いいですね。本は本で好きですけど、映画は映画でいいですよね」


 内容はベタベタな恋愛映画だった。

 笑いあり、涙ありで、男女のすれ違いがメインな作品。

 最近流行りのSF要素を絡めた、どこにでもあるような作品。


 ただ印象的だったのは内容ではなく、隣に座っている水上さんの映画に対する反応だった。


 子どもみたいに吹きだして、泣きじゃくった。

 そのタイミングが、俺と被った。

 特に泣くシーン。

 如何にもお涙頂戴シーンで泣くんじゃなくて、男女ペアが普通に道を歩いているシーンで泣いていたシーンで被ったのが驚いた。


 色々なトラブルに見舞われる二人が、普通であることの尊さを噛み締めるシーンで、仮に原作を読んでいる人でも分からないような細かい描写が散りばめられているシーンで、泣いていた。


 俺も一緒に泣きながら、ひっそりと横目で何度かチラ見してしまった。

 こんなタイミングで泣く人を初めて見た。


 そして、何故か今度は俺から誘いたくなった。

 映画館がいいか、本屋か。

 それとも、その両方がいいか。


 デートに誘いたくなった。

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