第47話 新たな挑戦

 放課後。


 制服姿の俺たち4人は、ファミレスにいた。


「ってことで、学園祭であたしとゆうたんが漫才コンビを組むってことで、オーケー?」


「お~、何気なく言ったことが、マジで実現するとはな~」


 ご機嫌な様子で話す俺とあかり。


 一方で……


「……まあ、楽しむのは結構なことだけど。ちゃんと、ルールは守ってね?」


「ルール?」


「ええ。とりあえず、浮気したら……コロス」


「はは、千冬ぅ~。みんなの前で、そんなヤンデレモード発動するなよ。2人きりの時だけにしとけ」


「ふん、うるさいわよ」


「う、浮気……そうだよな。あかりちゃんは元々、勇太のことが好きだった訳だし……うわああああああああああぁ!」


「明彦くん、落ち着いて。今のあかりは、君しか見ていないぞ、ばきゅん☆」


「俺の彼女が可愛いすぎるううううううううううううううぅ!」


「申し訳ありません、お客さま。お静かにお願いします」


「あ、すみません……」


 閑話休題。


「じゃあ、悪いけど、明彦。しばらく、あかりのこと借りるわ」


「お、おう……セクハラするなよ?」


「しないよ。俺、セクハラ行為は千冬にしかしないって、決めているから」


「本当にウザい男ね……嬉しいけど」


「えっ?」


「な、何でもないわよ」




      ◇




 その後、勇太とあかりは早速ネタ合わせをするとかで。


 先に、千冬と明彦は帰っていた。


(そういえば、勇太以外の男子と2人きりになるなんて、久しぶりだから……何か、変に意識しちゃうわ)


 もちろん、自分は勇太のことだけが好き。


 だけど……


「……俺、嬉しいよ」


「へっ?」


 ふいに、明彦が声を発して、ビクッとしてしまう。


「前まえなら、森崎さんと2人きりで帰るなんて、舞い上がるような気持ちだったろうけど……今は、あかりちゃんのことで、頭がいっぱいなんだ」


「中野くん……」


「だから、2人きりでいても、森崎さんの巨乳とかガン見しないから、安心して」


 ベシッ。


 千冬のカバンが明彦にヒット。


「へぐっ!?」


「あっ……ご、ごめんなさい、つい」


「い、いや、今のは俺が悪いから……はは、あかりちゃんの影響かな?」


「もう、ほどほどにしてちょうだい」


 その後、千冬は明彦とも別れて、1人で帰り道を歩く。


 しばらく、トボトボと歩いている内に……


「……寂しい」


 恐ろしい事実に気が付く。


 千冬は、自分が思っていた以上に、勇太に依存するカラダになっていた。


 それは性的な疼きだけでなく、ココロの面でも……


「……羨ましい」


 そう、羨ましい。


 千冬は優等生らしく、勉強しかして来なかった。


 だから、まるで部活みたいに、何かに熱中する勇太とあかりの姿が……何だか眩しくて。


「……私も、何かやろうかしら」


 これもまた、自分を見つめ直す、良い機会なのかもしれない。


 千冬はしばし、思案する。


 その時、脳裏に浮かんだのは、あの夏のビーチでの出来事。


 おぞましい男たちの、魔の手が自分に伸びた時。


 何も出来なかった。


 幸い、愛しの彼が救ってくれたけど。


 いつも、彼が守ってくれるとは限らない。


 それに、彼にだって、彼の人生がある。


 共に歩くパートナーになるためには、あまり負担はかけたくない。


 だから、自分の身は、自分で守れるようにならないと。


「……あら?」


 ふと、目の前の電信柱に目が行く。


 そこには張り紙がされていた。


『空手道場、門下生、募集』


 ……空手。


 失礼だけど、格闘技は野蛮なものだと、あまり興味はなかった。


 けど、今こうして、この張り紙と出会ったのも、何かの縁かもしれない。


「……見学だけでも、してみようかしら」


 自分はもっと、強くなりたい。


 千冬はその確かな意志を抱きながら、張り紙の情報をスマホで写真に収めた。




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