第17話

上機嫌なのは、すみれも同じ。

スキップをしながら廊下を走る。飛び跳ねながら階段を降りる。


れいこさんのお部屋に入っちゃった!

れいこさんに制服借りちゃった!

れいこさんに髪の毛乾かしてもらっちゃった!

れいこさんと同じ香りになっちゃった!

れいこさん!れいこさん!!

私、れいこさんの特別に少しでもなれたのかな?


そう考えた時、すみれは立ち止まった。

れいこの部屋に入ったことがあるのは自分だけではない。

そう思うと、心が何やら変である。

相手はガブリエル様なのだから無理もない。


でも、れいこさんはガブリエル様のことどう思っているのかしら。

昔からの付き合いっていつから?

私が知るずっとずっと前からかしら?

それじゃあ、私なんて・・・。


すみれは、今度は落ち込む。

れいこでの言葉ではないが、すみれの感情は秋の空のようにコロコロ変わる。

だが、悲しさで制服をぎゅっとした時に、ふわりと薔薇の香りがした。


れいこの香りだ。


れいこさんは私に優しくしてくださる。

私はれいこさんに許されている。

優しい優しいお姉様。

それだけでいい。今は。


すみれは自分を抱きしめた。

れいこの匂いがする。

すみれはれいこを想ってその芳しく香りに包まれたのだった。


すみれが自分の部屋に帰ると、部屋は真っ暗で誰もいない。

「よかった!なおはまだ帰ってきていないわ!」

すみれは、どすっと自分のベッドに倒れ込む。ベッドが跳ねて髪が揺れる。

するとまたあの香り。


れいこさん、れいこさん!れいこさん!!


すみれは暫く夢見心地でうつ伏せになって寝転ぶと足をぶらぶらさせる。

だが次の瞬間、ハッとして起き上がった。


「大変!制服!隠さなきゃ!!なおに気づかれたら怒られちゃう!」


すみれは慌てて制服を脱いで畳む。下着姿になると部屋のクローゼットから私服を取り出そうとしたその時。

部屋の扉が開いた。

「ひゃぁっ!!」

なおが帰ってきたのである。


「すみれ、ただいま。ごめん遅くなって・・・ってあんた、どうしたの!?下着姿で正座して・・・。」

みると部屋の真ん中ですみれが下着姿で正座していた。

「あ、あのね。あの・・・私!待ってたの!!なおと遊ぼうと思って!!ずっと待ってたのよ!!」

「そんな格好で?」

すみれは何度も頷く。

「早く遊ぼうと思って!!ねぇ、何する?今日は何する?夕飯の前に遊びましょ?」

なおはすみれの奇行に訝しむが、こう甲斐甲斐しく待っていてくれていたなら悪い気はしない。なおは微笑みかける。

「すみれは本当に馬鹿な子ね。じゃあ、今日は久しぶりにおもちゃで遊ぼうか。」

それを聞いてすみれは飛び上がって手を振る。

「なお、それ、私苦手なの。知っているでしょ?私それ、嫌いなの。他の遊びしましょ?」

なおは、ため息をつくと仕方ないなと、すみれに近づく。

「わかった。じゃあ、何しようかな。」

そう言ってすみれをいつものように抱きしめる。が、彼女をすぐ引き離した。

「なお・・・?」

すみれが不思議そうな目で見ると、なおの表情は見たことのない恐ろしいものになっていた。


「違う。」


「え?」

「これ、わたしの匂いじゃない。誰?誰かと寝たの?」

「な、なお・・・?何を言っているの?私、何もしていないよ。」

「嘘。」


なおはちらりとベッドを見る。すると綺麗にたたまれている制服があった。

「これ・・・これも、貴女の匂いじゃない。私の匂いじゃない。誰よ・・・。貴女、私を裏切ったの?」

「違うの!!なお、私はれいこさんとそんな関係じゃないのよ?」

なおの手が止まる。

「れいこさん・・・ですって?」

「あ・・・。」

すみれは両手で口を押えた。

またこれだ。また言ってしまう。とことんすみれは隠し事が苦手ある。

「私との約束、覚えてないの?私を怒らせないでって言ったよね?」

「なお、誤解よ!違うの!!」

「いいわ。貴女の言う通り遊びましょうよ。貴女の嫌いな遊び。しましょ?」

「やめて・・・。なお、お願い。なおの言うことちゃんと聞く!だから、そんなことしないで。」

すみれは首を振りながら震えて懇願する。

「なお、ごめんなさい。怒らないで。怒らないで。」

なおはすみれに深く深く口づけすると、微笑んだ。


「すみれ、一緒に遊びましょう?」

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