第11話
数日後。
おかしい。
それにしてもおかしい。
れいこは自分の教室で珍しく足を組みながらイライラしていた。
「もしかして嫌われたの?」
自分の言葉を代弁するかのように、ゆりがのぞきながらそう言った。
ゆりはれいこと同じクラスで他の生徒からは天上クラスと呼ばれている。このクラスになった人はまこと光栄なことだと言われていた。
ただ、れいこにとってゆりと同じクラスなんて人気は二分されるし、嫌味を言われるし、鬱陶しいだけであったが。
「なによ、ゆり。」
「この頃、ぜーんぜん来ないんじゃないの?あの子。すれ違っても挨拶もしないし。」
「そういうことはよく見ているのね。」
「楽しいから。」
「性悪女。」
れいこは頬杖をつきながら、そっぽを向く。
「あーあ、ミカエル様、拗ねちゃった。」
れいこのイラつきは頂点に達して、ゆりの手の甲を思いっきり抓った。
「いたっ!何するのよ!!」
「あーあ、ガブリエル様、怒っちゃった。」
やられたらやり返すのがれいこ。
そこが、また子供じみているところである。
彼女はなんだかんだと人を馬鹿にして見下しているくせに、そういうところは子供から成長してないように見える。
ゆりは、ゆりでイラつきが頂点に達したらしく、悪態をつき始める。
「ばかっ!!」
「ばーか!!」
「何よ!?この淫乱ドS女!!」
「なんですって!?この変態ドM女!!」
「れいこは、鞭を持って場末のSMショーに出れば?さぞかし人気が出るでしょうね!!」
「ゆりこそ、男どもに腰振ふりまくるそいう女優になればいいのよ。さぞかし人気が出るでしょうね!!」
「ばか!ばーか!!」
「ばーか!ばーか!!ばーか!!!」
こうなっては二人を止められない。まさに子供の喧嘩のように低俗な争いをする。
だが、そこは大天使様。心得てはいる。
鉄壁の笑顔で言い合いをしているので、周りから見た生徒たちにとっては、“麗しい大天使様がお二人でお話をされている。きっと、私たちには到底理解が及ばない知的なお話しされているのだわ”と思わせてしまう、なんとも下らない現象になっていた。
確かに到底理解が及ばない内容なのは当たっている。
「あー!!イライラする!!私、外の空気吸ってくる。」
「れいこのせいで教室の空気がよどむからさっさと出ていきなさいよ。」
れいこは、むすっとしながら立ち上がる。
すると女学生たちがまるでモーセが海を割ったかのように、さっと分かれてれいこの歩く道を作った。
それをれいこは当たり前のように歩き教室の扉まで来ると、ゆりに振り返ってにこっと微笑んだ。
「ごきげんよう、早見さん。」
それに対して、ゆりも手を振って応える。
「ええ、ごきげんよう、犬飼さん。」
そのあとの教室には女学生たちの憧れを含んだため息の音だけがこだましていた。
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