第18話 併せってなに?
「──だよね。やっぱりあのシーンだよね」
「あおばも初めから話してくれればよかったのに」
二人の話は盛り上がっている。俺はなかなか二人の話に入っていけず、ちょっと寂しく感じる。
でも、白石さんは自分の本心を打ち明け、生き生きと笑顔で話している。
それが、なんだか嬉しい。
「ごめん、ちょっと昔色々あってね。でも、広瀬君に写真を撮ってもらうって決めたの。だから、親友にも告白しようって」
告白? あれってそういう意味だったの?
危ない危ない、変にとらえていたぜ。俺はもう勘違いしない。
彼女は推しが好きで、俺の事はただのクラスメイトだ。
なるべく好意を持たないようにしよう。好意を持つこと、それは彼女にとってきっと足かせになってしまう。
「撮影? 何の撮影?」
「真凛のコスプレ写真。広瀬君カメラマンなの。すっごく撮るのうまいんだよ、ねっ」
白石さんの視線の先には俺がいる。
「う、うまいかはわからないけど、今度コンテストがあるみたいなので応募用に撮ることが──」
「いいな……。私も一緒に撮りたい。あおばと併(あわ)せたい」
併(あわ)せ? なにを併せるんだ?
「里緒菜と私で天魔併せ、か……。私もやってみたい」
「撮影っていつなの? そのコンテストって私も応募してみていい?」
「応募は個人で応募だけど、せっかくだし併せも撮りたいね。里緒菜ってコスするの?」
「したこと無いよ。でも、推しのコスプレはしてみたいと何回か……。あおば、いろいろと教えて」
「私にわかる範囲であれば。広瀬君、里緒菜も撮ってもらっていい?」
俺は何の話なのか全く分からない。どんな話が進んでいるんだ?
二人一緒に撮るってことなのか?
「あ、あのさ。併せってなに?」
「んー、同じ作品とかで二人とか三人、複数人数で撮る事かな?」
「みんなで撮るの?」
「そ。みんな違うキャラで集まって、シーンの再現とか。きっと楽しいと思うの」
「ふーん、そうなんだ」
俺の知らない世界が広がる。
でも楽しそうに話す二人を見ていると、こっちも少しだけ心が温かくなる。
「あおばと二人でコスの写真。楽しみだね。どこで撮影するの?」
「コンテストに応募したいから、外でちゃんと撮ってみたいんだけど……」
「そ、外? 私い一回もコスプレしたことなんてないんだけど?」
「私も外で撮ったことはないよ。でも、イベントは定期的に開催さてているから……」
すると白石さんはスマホで何かを調べ始めた。
「あった。ここならどうかな?」
画面を俺たちに向け、俺と槻木さんは映し出された画面を見ていく。
駅から遠くない。というか、この場所は行ったことがある。
「あおば、ここに行ったことあるの?」
「イベントではないけど、買い物には何回か」
「私もここ知ってるけど、そんなイベントやってたんだ」
「うん、どうかな? ちょうど連休でイベント開催するみたいだし」
彼女のスマホを見るとゴールデンウィークの日程で三日間連続コスプレイベント開催と書かれている。
会場はここからそう遠くなく、最寄り駅からシャトルバスも出ている。
アウトレットモールでのコスプレイベントか。
なになに、参加者にはニンジン一本まるまる使ったハンバーグランチをサービス。
近くの公園や店内、水族館、デッキなどほぼ自由に撮影ができるらしい。
レンガ調の壁や洋風の窓、城のような屋根、そして隣の公園は芝生が多い茂り気持ちよさそうだ。
あ、この喫茶店すごいこった造りしているな……。
これはコスプレ関係なく撮ってみたいかも。
「いいんじゃないか?」
空いた時間でいろいろと撮ってまわれそうだし、勉強にもなるかも。
「広瀬君の参加費用はこっちで持つから、気にしないでね」
「参加費用? オカネカカルの?」
「そうだよ? コスはコスの。撮影も撮影者のほうで参加費が必要。あ、そんなに高くないから気にしないで」
ふんっ! 女性に払わせるわけにはいかない! 俺は男の子だから!
「いや、俺も初参加だし自分で出すよ。色々と勉強したいし」
「そう? じゃぁ、お言葉に甘えて」
こうして俺の初コスプレ撮影の日程が決まった。
絶対にいい写真を残してみせる。
「あおば、私何も用意してないんだけど……」
「大丈夫。二人とも、がんばろう」
俺はこの後に起きる惨劇をまだ知る由もなかった。
まさか、あんなことになるなんて……。
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