エルフツリーを探して

「合ってんのかどうかわかんねぇな」


 ミヤーンに言われたとおり、タフィたちは森の中を北へ向かって進んでいた。


「とりあえず方角は間違ってないよ」


 カリンはこまめに方位磁針を見て確認していた。


「そういや聞いてなかったけど、エルフツリーってどんな形してんの?」


「えっと、幹は太くてまっすぐで、枝は幹の先端にだけあって、それが斜めに上に広がって伸びてて、そこに葉っぱがいっぱい付いてるんです」


「よくわかんねぇな」


 ボイヤーは身振り手振りを交えながらタフィに説明したが、いまいち伝わらなかった。


「わかりやすく言えば、カサを開いたキノコみたいな形です」


「初めっからそう言えよ」


「ごめんなさい」


「……というかさ、このまま行ったら森から出ちゃうんじゃねぇの?」


 向かっている方向を見ると、先の方に開けた空間があるような感じがしていた。


「そうねぇ、ミヤーンさんの言い方だと、森の中にあるって感じだったし」


 タフィとカリンが不安を抱き始めるなか、ボイヤーは全く逆であった。


「だったらこっちで合ってますよ」


「どういうこと?」


 カリンが聞いた。


「泉でも言いましたけど、エルフツリーは他の植物の成長を阻害する物質を出してるんです。だからエルフツリーの周りではほとんど植物が育たないので、自然と開けた感じになってしまうんです」


「なるほどね。だとすると、あそこにエルフツリーがあるってことか」


「たぶんそうだと思います」


 ほどなくして、ボイヤーの正しさが証明されることになる。


「あ、あの木それっぽいな」


 木々の間から、キノコのような形をした大木の姿が見え始めるとともに、周りに草が生えていないという不思議な状況も目に入り始めていた。


「なぁボイヤー、なんか成長を阻害させるとかどうのこうの言ってたけどさ、それって俺らには危なくねぇの?」


 異様とも思える光景を見て、タフィはちょっと警戒していた。


「大丈夫ですよ兄やん。それは植物だけの話なんで」


「ならいいや」


 だが、安心したのも束の間だった。


 開けた空間に出ようとした瞬間、緑色の物体がタフィに襲いかかってきたのだ。


「おわっ!」


 タフィはとっさにそれを避けた。


「大丈夫タフィ?」


「ああ、大丈夫大丈夫。それより、あの草はなんだ?」


 襲ったのは巨大な植物で、2メートルほどもある巨大なてのひら状の葉っぱでタフィを捕まえようとしたのだ。


「あれはツカミヤツデっていう食虫植物です。振動根しんどうこんっていう振動を感知する根で獲物の動きを把握し、接着剤みたいな粘液が出てる葉っぱで獲物を捕まえ、そのまま葉っぱを湾曲させて、獲物を包み込んで消化してしまうんです」


 ボイヤーは丁寧に説明した。


「ふーん。で、こいつは移動したりすんの?」


「しないです」


「じゃあ、こいつの葉っぱが届かないとこから行きゃあいいな」


 タフィたちは、ツカミヤツデの攻撃範囲外からエルフツリーのところへ向かうことにした。


「ここら辺まで来れば届かないだろ」


「ちょっと待って」


 タフィはエルフツリーの方へ向かって行こうとしたが、カリンがそれを制止した。


「なんだよ!」


 肩をグイっと引っ張られたので、タフィはちょっと怒っている。


「あんたもう少し周りを見なさいよ。その先にもう1本同じのがいるじゃない」


 カリンが指摘したようにもう1本ツカミヤツデが生えており、しかも互いの葉っぱがギリギリ接触しない絶妙な位置関係であった。


「うわっ、また嫌なとこに生えてんな。あそこじゃギリギリ当たんじゃん。……しゃーない、もうちょっと先行くか」


 開けている場所との境目に沿って再び歩き出したタフィたちであったが、葉っぱ攻撃の射程外に出たなと思ったところで、またしても絶妙な位置に生えているツカミヤツデの姿が目に入ってきた。


「チッ、またあんなとこに生えてんじゃん」


 舌打ちするタフィであったが、さらにその先にも同様の位置関係でツカミヤツデが生えていた。


「くそっ、なんでこんなに生えてんだよ!」


 苛立つタフィに対し、カリンはこの状況に疑念を抱き始めていた。


「ちょっと規則的に生えすぎな感じがするよね。しかも、エルフツリーが生えている場所の外周に沿っていってって感じだし。ボイヤー、あんたはこの草の生え方どう思う?」


「ちょっと不自然かなって思わないでもないですけど、偶然じゃないですかね。……あ、もしかしてカリン姉さん、ジェイコブセンさんがツカミヤツデを植えたって考えてます?」


「そう考えれば腑に落ちるでしょ」


「確かにそうですけど、ツカミヤツデは人間が扱えるような植物じゃないですよ」


 ボイヤーが言うように、ツカミヤツデはその凶暴性などからそれほど研究が進んでおらず、また種も容易に手に入れられるものではなかった。


「いいのよ、あくまで可能性の話なんだから。それより、あの邪魔な葉っぱをどうするか考えないと……」


 カリンはこれ以上移動しても無駄だと判断していた。


「ブレスで一気に燃やすこともできますけど、それだと火の粉が森に飛び火する危険性がありますから……。ファイヤーボールにしても、威力が強すぎれば、葉や茎を貫通したものが森に飛び込んでしまいますし、逆に弱ければ葉や茎にダメージを与えられませんから、その辺の調整が難しいです」


「うちの槍も葉や茎を切ったりするのには向かないし、茎なんかに槍を突き刺してもあの草は倒せないでしょ」


「そうですね」


 カリンとボイヤーは良案が思い浮かばなかった。

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