包丁の在り処は?
そこから歩くこと数十分、タフィの祖父の家に到着した。
赤い屋根が特徴的な丸太小屋で、庭には小さな畑や陶芸用の窯などがある。
「こんちは~、じいちゃんいる?」
タフィは荒々しくバーンッとドアを開けた。
「バカヤロッ! ドアはもっと丁寧に開けろ」
開口一番に怒号をあげた老人が、タフィの祖父であるケーシー・カルドーゾだ。真っ白い髪に、同じく真っ白で立派なあごひげ、そしてずんぐりむっくりした体型をしていた。
「ごめんごめん」
一応口では謝っているが、悪びれる様子は一切ない。
ただこういったタフィの言動はいつものことなのか、ケーシーはそれ以上怒鳴ったりはせず、愛用のロッキングチェアに座り直してパイプをふかし始めた。
「それで、今日は何しに来たんだ? ボイヤーとカリンも一緒に来とるようだし」
「おじいちゃんこんにちは」
「どうも、お久しぶりです」
ボイヤーは当然だが、カリンも幼少期に遊んでもらうなど、ケーシーとは面識があった。
「あのさぁ、じいちゃんってジェイコブセンっていう包丁職人と仲良かったよね」
「ああ、あいつは儂の弟だったからな。それがどうかしたか?」
ケーシーとマレッドは、義兄弟の契りを交わしていた。
「だったら、『至高の肉切り包丁』の在り処も知ってるよね?」
「『至高の肉切り包丁』……あぁ、あいつが作ったっていうアレか。話には聞いたことあるが、どこにあるのかは知らん」
「え? 知らねぇの」
「そもそも、なんでそいつの在り処を知りてぇんだ?」
「なんでって、その包丁を持って来れないと、俺トレジャーハンターになれないんだよ」
「は? どういうことだ? ちゃんと説明してくれ」
「説明……ボイヤー頼む」
タフィはボイヤーに丸投げした。
「えっとですね……」
ボイヤーはマッハとのやり取りなどをケーシーにわかりやすく説明した。
「なるほど、それで儂のところへ来たのか。だがな、さっきも言ったとおり、儂は包丁の在り処は知らん。なぜなら、あいつはアレを誰にも使われないように、どこかに隠しちまったんだから」
「隠した? どういうことじいちゃん」
「あの包丁、元々は肉屋に頼まれて作ってたもんなんだが、あんまりにも出来栄えが良かったもんで、渡すのが惜しくなっちまってな、肉屋に断りを入れたんだよ。そしたら、あのマレッドが手放すのを惜しんだ包丁ってことで、えっらい評判になってな、方々から買いてぇって連中がわんさか押しかけて来たんだよ。当然全部断ったんだが、同時に不安も覚えたんだろうな。それで、自分が死んだ後も誰にもこの包丁が使われないようにって、隠しちまったんだよ」
「えぇ、マジで……」
タフィはわかりやすいくらい落胆した表情を見せる。
「まぁ、儂は知らんが、庭の倉庫にあいつの遺品がそっくりしまってあるから、そいつを調べれば何か手がかりがあるかもしれんぞ」
マレッドは15年前に亡くなっており、天涯孤独だったこともあって、その遺品はケーシーがすべて引き取っていた。
「調べるしかねぇのか……」
「遺品は倉庫の左奥にまとめて置いてあるから、頑張って調べてみろ」
「あー、めんどっちいなぁ」
タフィは不満を垂れ流しながら、ボイヤーとカリンを引き連れて倉庫に向かった。
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