第24話:キスの味はゲロ風味。


「あの後ほんと大変だったんだからねーっ!?」


「分かった分かったから……朝から大声を出すな頭痛い……」


 ほんと寝起き悪いなこいつ……。


 あの時クラマがお湯の中にぶくぶく沈んじゃって、その場に僕しかいないし仕方ないからお湯から引きずり出してクラマの身体拭いて服着せて……勿論自分も服着てから助けを呼んで、ちょっと無理を言って休めるベッドを貸してもらった。


「無理言ってこの部屋貸してもらったんだからね!? 後でちゃんとクラマからもお礼言っておいてよ!?」


「あ、あぁ……すまん。なんか昨日の記憶がぼやけていてな……待て、確か温泉に入って……」


 クラマが、何がどうなったのかをやっと理解したらしい。


「なっ……ユキナが俺を?」


「そうだよ! ちゃんと身体拭いて服着せたんだからね! 感謝してよね!」


「なんて事だ……あまりにキツい状況だったからとはいえ気を失うとは不甲斐ない……」


「おいこらちょっと違うんじゃない? まず僕にごめんとありがとうでしょうよ」


「……いや、元はと言えば大体お前が悪い」


 くそぉ……こいつどうしても僕が悪いって事にしたいらしい。


「そっか、なるほどなるほど、僕の裸はクラマには刺激が強すぎたって事だね♪」


「おい、誤解を招くような事を言うな」


 おー焦ってる焦ってる。やっぱりクラマをからかうと楽しい。真っ赤になっちゃって可愛いし。


「そんなに照れなくたっていいじゃん。ほらほら昨日の事よく思い出してみなよ~♪」


「ふざけるな。別に思い出した所で……思い、出したところで……」


 クラマが俯いて黙ってしまった。


「え、ちょっとマジで照れてんの? やだこっち向いて。顔見せて」


 絶対今面白い顔してるもん見たい見たい!


 ちょっと屈んで覗き込むようにクラマの顔を見ると……。


 彼は真っ青な顔をして口を塞いでいた。


「う、うえぇぇぇぇ……」


「……」


「ゆ、ユキナ……頼む、水を貰ってきてくれ……ちょっと出た……」


「知らないっ! クラマのばか! ぼけ! おたんこなす!」


 今回ばかりはさすがにユキナさんご立腹ですよ?


「僕はもう街の外行ってるからね! どうぞのんびりゆっくり休んでから来て下さいねっ! べーだっ!!」


「待て、ユキナ……!」


「いいえ待ちませーん! 僕は怒りましたー! 謝るまで許しませんーっ!」


「悪かった」


「どうせクラマは僕に謝るのなんか嫌がるんだろうけど……って、え、今なんて?」


「俺が悪かった。すまん」


 ……ほぇ? 聞き間違いかな?


「今、悪かったって言った?」


「言った」


「すまんって言った?」


「言った」


「ユキナが大好きって言った?」


「それは言ってないが俺はユキナが大好きだぞ」


「な、ななな何言っちゃってんの!? ばっかみたい!」


 ダメだ頭真っ白だ。

 こんなドストレートに言われると思ってなかったからぱにっくぱにっく!

 わーにんぐ! ユキナの心臓が爆発寸前です!


「ぼ、僕は先に街の外に行ってるからっ!」


「待て」


 そこから逃げるように立ち去ろうとした僕の腕をクラマががっちりと掴む。


「な、何するのさ」


「勝手に出て行こうとするからだ」


「こんな身体触りたくも無い癖に無理しないでよ」


「……傷つけてしまっているのは本当に悪いと、思ってる」


 そ、そんな事言われたって困る!

 普段クラマがそっけない態度だから僕は思い切りからかったり怒ったりできるのに……そんな辛そうな顔しないでよ。


「ど、どうせ口だけでしょ!? 腕掴むだけでそんな顔してる癖に……! 僕は態度で見せてもらうまで信じないから!」


「やかましい」


「やかましいってなにさ! クラマなんて全然僕の気持ちなんて考えてな……むぐっ!?」


「……これで俺の気持ちが嘘じゃないって分かったか?」


 僕は黙って頷くしかなかった。


 だって、だって……。


 クラマが急に僕の腕を引っ張って抱き寄せて、き、き、キス……!!


「……俺だってな、お前への気持ちは……ちっ、分かったならいい。俺は先に行ってる」


 僕はしばらく何も考えられなくなっちゃってその場にへたりこんでぼけーっとしていた。


 クラマとキスしちゃった。

 クラマを助ける時に僕から一度してるけど、それって治療だったし、クラマは意識を失ってたし、本人はその事知らないし……。


 だからアレは無かったのと同じ。

 だけど今回のは違う。

 ちゃんとクラマが自分の意思で僕にキスをした。


 その事実が嬉しくって、顔がニヤけてしまう。

 きっと今気持ち悪い顔してる。

 だけど元に戻らない。


 もうしばらくはここでぼーっとしていよう。

 そうじゃないと、みんなの前に顔を出せそうにないや。


 ……少し落ち着いてきて、その場に仰向けに転がっていろんな事を考えた。

 今までの事、これからの事、この身体の事、クラマの過去のトラウマの事。



 やっぱりクラマは過去の嫌な思い出がフラッシュバックしちゃうみたいで、すっごく辛そうだった。


 でも、それでも……気持ちは伝わったよ。


 信じて、いいんだよね?


 すっごく無理をさせてしまった事は申し訳なく思う。

 クラマもきっと僕を不安にさせてるって分かってて、それが辛かったんだと思う。

 そうだといいな。


 だからこんな無理してまで気持ちを形にしてくれたんだよね?


 でも、でもさ。


 ひとつだけ言わせてよ。


 ……初めてクラマからキスしてくれたのは嬉しいんだけど……。


 ゲロ風味なのはちょっとなぁ……。



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