第5話:同じベッドで目覚めた朝。
「ふぁ……ねむ……」
お酒をしこたま飲んでへろへろになった所をメイドさん達がベッドに運んでくれたらしい。
確かそんな感じだった気がする。
「はぁ……あったかい」
体温が伝わってきてほんわかする。
目の前の広い背中にひっついてもうひと眠りしようかなと思った時、気付いた。
え、背中? なんで?
「うわっ、クラマじゃん!」
メイドさんが気を利かせて僕とクラマを同じベッドに寝かせたらしい。
というかなんでクラマまで運ばれてるの? 気を失うような何かがあったのかな?
……僕のせいかも。
「うぅ……煩いぞ。俺が朝弱いの知ってるだろう……?」
そう言いながらクラマがごろりとこちらに寝返りを打つ。
別にいいんだけどさ、こんなにナチュラルに人の胸に顔面突っ込む寝返り打てるの凄くない?
起きてたら絶対無理だからもう少しこのままでいようかな。
「ぶはっ! なんだ!? 窒息するかと……ってユキナ!? なぜお前がっ……ここはどこだっ!? うわーっ!!」
えっと、今の流れを説明すると、僕の胸に顔突っ込んで窒息しそうになったクラマが起きて、一緒に寝てるのに驚いて後ずさりして、そのままベッドから落下してった。
「あはっ、あははははっ♪ おっかしー♪」
「笑い事じゃないっ! くそっ、何がどうなってるんだ!」
「酔いつぶれた僕達をメイドさんが運んでくれたみたいだよ」
クラマは必死に昨夜の事を思い出そうと眉間に指を押し当てる。
「むぅ……なるほど、大体分かった。とにかく服を着ろ頼むから……」
「……? 着てるけど?」
「そんなのは服のうちに入らん!」
クラマは昨日の姿のままだったのに、僕の方は……なんていうんだろう。
ベビードールっていうのかな? 白くてヒラヒラでスケスケのやつを着てた。
メイドさんが着替えさせてくれたんだろう。
「しょうがないなぁ……」
クラマがうるさいので、ベッド脇に用意してあった服に着替えようとすると……。
「ここで脱ぐなっ!!」
クラマがもっとうるさくなった。
「なんなのさ……見るのが嫌ならあっち向いてて。すぐ着替えるから」
「お、おう……」
僕がベッドの上でごそごそやっていると、クラマが「よく考えたら俺が部屋を出ればよかったのでは……」なんて言いだした。
「そーかもだけどもう遅いしそのまま我慢して。もうすぐ終わるから。うわー僕こんなに胸でっかいの!? 生で見ると全然違うね。ほらクラマ……」
「早く着ろ!!」
「ちぇー。じゃあいいもん僕だけでいろいろ調べるから」
自分の身体がどうなってるのか今になってやっと分かった。
ベッドから少し離れた所に姿鏡があったのでそれに映るように仁王立ちしてみる。
おぉ、見事に女の子だ……!
僕は元々クラマの事が好きで女の子には興味無かったから裸を見た所でなんとも思わないけれど、胸が膨らんでて下にあった物が無くなってる。
「ほえー、こうなってるのか……」
「おいユキナ……! まだか? って、ぶほっ!!」
クラマはこちらに振り向いた訳じゃないけど、少しだけ顔を横に向けた時に鏡に映ってる僕の姿を見てしまったらしい。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!! もう嫌だ早くなんとかしなければ……!!」
「ねぇ、人の裸見てその反応はあんまりじゃない?」
「うるさい早く服を着ろ!!」
まったく、せっかく女の子になったっていうのに当のクラマがこれじゃなんの意味もないなぁ。
早く慣れてほしい。
そうじゃないとイチャイチャする事もできないじゃん。
……ふと自分の思考回路がちょっと変わってきてる事に気付いた。
男の時はこんなふうに考える事は無かっただろう。女の子になれた事で、男同士っていう壁が無くなったからか僕の中でクラマに対する想いがどんどん強くなっているように思う。
我慢する必要が無くなったから。
今まで我慢し続けてきたから。
「も、もういいか?」
「おっけー♪」
クラマが振り返って着替えた僕を見る。
僕に用意されていた服はピンクで、かなり胸元と肩ががっつり空いてるデザイン。黒いリボンがついてて可愛い。
「……それはそれで露出が激しくないか?」
「クラマのえっち」
「ぐぬぬ……まぁいい。俺も今日から少し修行をしようと思う」
「ほんとに!? クラマなら絶対強くなるよね♪ どんな魔法使えるかな!? 楽しみだよ。僕も頑張るね♪」
一緒に強くなれたら本当に世界を救う旅に出るのかな?
そしたら全く知らない世界で二人旅?
ちょっと不安だし怖いけれど、クラマが一緒なら大丈夫。
だって僕のヒーローだもん。
きっとクラマは僕なんかより強いに決まってる。
守られるばっかりになっちゃうのは嫌だけど、近くでかっこいいクラマを見れるならそれはそれで……。
なんて考えていたんだけれど。
残念ながらクラマに魔法の才能は一切無かった。
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