第3話:初めての魔法ちゃれんじ!
「冗談なんかじゃないよ。だってこの世界でもいいんだよね? ならクラマがそれを克服したら一緒に居られるじゃん」
「それはそうかもしれんが……いや、ダメだ。俺はなんとしても元の世界に戻る方法を探すぞ」
「でも元の世界に戻って僕がこの姿のままだったらどうするの? 僕らだけの力で何とか出来る? それともクラマは僕の事捨てる?」
「うっ……そんな事は無い、無いのだが……」
そう言って彼が僕から目を逸らした。
そういう態度なんだってば……。
「ちゃんとこっち見て言って。僕は不安なんだよ……姿が変わったくらいでこんなに拒絶されてさ、クラマの気持ちなんてその程度だったのかなって」
「ち、違う! それは断じて違うぞ!」
「だったら早くこっち来て隣に座って」
「くっ……!!」
クラマがソファの隣まで歩いてきて、立ち止まる。
目を細めて「ぐぬぬ……」とか言ってるのが可愛いからこれくらいで許してあげよう。
「まぁいいよ。でもさ、何もしなきゃ事態は好転しないでしょ?」
「だからと言って俺達に何ができる?」
「そりゃー勿論修行でしょー♪」
「お、おいユキナ……まさか本気でこの世界を救うと?」
クラマが額に汗を浮かべた。この世界に来てから見た事のないクラマが沢山見れて嬉しい。
「な、何を笑っているんだ。笑い事じゃないだろう!?」
「姫、僕にも魔法の使い方ってのを教えてもらえないかな?」
「えっ、私は構いませんが……」
姫は僕とクラマのやり取りをソワソワしながら見つめていた時に急に声をかけられて吃驚したように上ずった声をあげる。
ここはファンタジーの世界だ。
僕達は勇者として異世界に召喚された。
そんなの自分の可能性試してみたくなるよね?
もともと僕は小さい頃から漫画もアニメもゲームだって好きだったし、ファンタジー小説なんて部屋が埋め尽くされる程読んできた。
自分が魔法使えるかもしれない状況にいるのに試さないのは男じゃ無いって!
……あ、今女だったわ。
「馬鹿な……俺達に魔法なんて使えるわけないだろう?」
「クラマは黙ってて」
僕に怒られたのがショックだったのか言葉を無くしてこちらをチラチラ見るだけの置物になってしまった。
「初歩の初歩からでいいから教えてよ。もしかしたら勇者としての力に目覚めるかもしれないよ?」
本当にそうなったらテンション上がるんだけどね。
姫はごくりと喉を鳴らして、一度深呼吸をしてから「分かりました」と深く頷く。
「まずは水を生み出す魔法にしましょう。魔法の才能がある子供に最初に教える魔法です」
掌から水を生み出す魔法らしい。
空気中の水分を凝縮して水を生み出すのかな? とか科学的な事考えてたら全然違うっぽい。
ファンタジー世界に常識は通用しないって事ね。
本当に初歩の魔法。ただ水が出るだけ。
でもそれを鍛えていけば強力な水魔法も使えるようになるらしい。
「なるほど……それが出来れば魔法の才能があるって事なんだね♪」
ちょっと楽しくなってきたぞ……!
「ふん、馬鹿馬鹿しい」
そんな事を言って横槍を入れてくるクラマを睨みつけて黙らせ、姫に続きを促した。
今いいとこなんだから黙っててよね。
「最初は掌で器を作る感じで……」
「こうかな?」
水を掌で掬うような形を作る。
「上手です。次は、その掌の中に水が入っていると強くイメージしてください。自分の身体の中から水が湧き出るイメージでも大丈夫です」
自分の身体から水が出てくるって発想がちょっと怖いんだけど……できるかな?
掌に意識を集中させて……。
僕の身体の中に未知の力、魔力が眠っていると仮定して、それを掌へと集めていくイメージ。
こんなの子供の頃よくやった気がする。
小さい頃は本気で魔法が使えるようになると思って必死に練習してたなぁ。
中学くらいになってもたまに部屋でやってたのは秘密。クラマにも教えてあげない。
んっ。
なんだか身体が熱い。これは、気のせいじゃ……ない。
これを掌に、集中……水、水……水が掌から湧き出るイメージ。
出来る。僕は魔法を使える……!
そしてその日、僕の初めての魔法が成功した。
幼い頃夢見た魔法を、実際に使えた事がとても嬉しい。
間違いなく水が掌に溜まっている。
「ユキナ様、やはり貴女には魔法の才能が……!」
「なんだと!?」
驚く姫とクラマ。
「えへへ〜♪ 見て見てクラマ! 僕魔法使えたよ!!」
「……本当に、水が出てるな……。こんな不可解な事が実際に起こる物なのか? いや、既にここは異世界で……くそ、頭が痛い」
「大丈夫? でも僕にも出来るんだからクラマだったきっともっともっと上手にできるよ♪」
はしゃぐ僕を見てクラマがふっと笑った。
この世界に来て初めて見る笑顔だった。
「そんな外見になってもユキナはユキナなんだな……」
「ど、どういう意味さ」
「正直まだその見た目には慣れん。こればかりは生理的な物で、嫌悪感すら感じる」
「……ひどすぎじゃない? 泣くよ?」
さすがにそこまで言われるとショックなんだけど……。
「しかしお前がユキナなのは間違いなさそうだ。明るくはしゃいでいるお前は……どんな姿だろうとやはり可愛いな」
「なっ……」
爆発した。
脳味噌も心臓も一瞬で爆発した。
掌から出てた水も爆発した。
突然掌から巨大な水柱が迸り、城の天井を貫通して大穴を開けた。
もう少しで自分の顔面を持っていかれる所だった。
「……ご、ごめんなさい」
僕の隣で腰を抜かしひっくり返って、恐怖に歪んだ表情の姫にかけてあげられる言葉はそれしかなかった。
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