押し倒されたら異世界でTS聖女になってました。何故か勇者な彼に邪険にされるわ魔王に求婚されるわでうまく行きません(>_<)

monaka

第1章:押し倒されて始まる異世界生活。

第1話:押し倒されたら異世界にいたんだけど?




「……俺は本気だぞ」


 この僕、沢城雪成さわしろゆきなりにはずっと好きだった奴がいる。

 ……今まさにそいつから迫られてる。というか押し倒されてる。


 あまりの出来事に頭真っ白になっちゃった。

 だってそんなのありえないもん。


「俺はユキナとずっと一緒に居たいと思ってる」


 ユキナというのはユキナリを縮めたあだ名のようなものなのだが、僕の事をそんな呼び方するのはこいつくらいだ。


「……お前はどうなんだ?」


 そりゃ嬉しいし一緒に居たいよ。


「でも……」


 お前も、僕も、男じゃないか。


「こんなのうまく行くはずないよ」


「なんでそれをお前が決めつける? 男同士だからか?」


「そ、それはそうだよ……。絶対周りから白い目で見られるし……」


 日本でも男同士が付き合う事なんて珍しい事ではなくなってきた。

 それは分かってる。だけど、だからと言って当たり前のように受け入れられるとは限らない。


 僕がどう見られたって構わないけれどこいつが周りから妙な目で見られるのは嫌だ。それだけは我慢できない。


 こいつは神代蔵丸かみしろくらまる。僕はクラマって呼んでる。

 僕が働いている大企業の社長の息子で、中学からの腐れ縁なんだけどとにかく女子によくモテる。

 高身長だし頭も顔もスタイルもいい。背が小さくて冴えない僕とは大違い。……なのに浮ついた話を聞かないのは根が真面目だから、だと思ってた。


 普段から女子とは距離を取っていたし、女子に対してかなりの塩対応。近付くなと無言の圧力を常に放出してるような奴だった。


 僕が困っていたらいつでもすぐに助けてくれるし、僕にとっては憧れで……僕にとってのヒーローであり、友達想いの良い奴。


 彼に対する感情が恋心だと気付いてしまったのは高校一年の時。


 彼は卒業後、何故か親の反対を押し切ってランクを落としてまで僕と同じ大学に入学した。

 嬉しかった。舞い上がった。

 だけど……これではダメだと、僕は自分に言い聞かせ続けた。

 彼の好意に甘えてずるずると一緒に居たらこの感情がどんどん膨れ上がってしまう。

 いつか我慢できなくなって感情をぶちまけてしまうかもしれない。

 そしたら、いくらクラマでも僕を嫌うだろう。


 そう思って就職は違う所にした。

 クラマは親の会社で次期社長としての実績を積む事になっていたので追いかけて来る事は出来ないと思ったから。


 ……ここまでは良かったんだけど、僕が働いていた会社が入社一年ほどで倒産。あっさりと無職になってしまった。


 身寄りの無い僕が生きていく為には働くしか無かったのに。


 そして、そんな時に僕を助けてくれたのはやっぱりクラマだった。


 以前から定期的に連絡はくれていたけれど、僕が無職になった時もすぐに連絡くれて、彼の会社の庶務課で働かせてもらえるようになった。本当にありがたいと思う。

 少し離れていた間に彼は更にかっこよくなってて、仕事の空き時間があれば僕に会いに来てくれるのが毎日嬉しくて、辛かった。


 誰にも理解されない、知られてはいけない想いを抱え、隠し続けるか……もしくは早々に次の仕事を見つけて転職するか、そのどちらかを選ばなければいけないと悩んでいたのに。


 なのにクラマは夜更けに突然僕の住む狭いアパートに押し掛けてきて、一緒に住もうとか言い出した。


 心臓が爆発しそうになるのを抑えながら理由を聞いてみたらこのざまだ。


 シングルの小さな折り畳みベッドの上に押し倒されている。


 さっきまで心臓が爆発するかと思っていたのに、なぜか頭は冷静になった。

 いや、多分あまりの出来事に処理が追い付かなくなってフリーズしたんだと思う。


 顔が近い。切れ長の目、心まで見透かすような瞳。長い睫毛……そして、思っていたよりも強い力。


 あ、綺麗な指……。


「聞いてるのか?」


 こんな時すらクラマはいつもと変わらずクールでかっこいい。なんでお前が僕なんかを押し倒してるんだよ。


 好き。


 好きだよ。


 めっちゃ好き。


 もしクラマが僕と同じ気持ちを抱えていたんだとしたら、まるで夢みたいだ。

 だけど僕はクラマには真っ当な幸せを手に入れてほしい。


 これだけの男ならどんな女性だって振り向かせられるはず。しかも次期社長だし。

 僕みたいな虫がついていたらクラマの将来にケチがついちゃうよ。


「どうして、僕なの……? クラマなら、もっと他に……」


「馬鹿め。俺はお前がいいんだ。ユキナは嫌か……? 悪いがこれ以上は我慢できん」


 正常な思考が出来なくなりそう。

 頭がとろけてしまいそうなくらい彼の言葉は僕が欲しかった言葉だった。


 それでも……ダメだよ。

 いっそ僕が女の子だったら良かったのに。

 それが叶わなくったって、もっと理解のある国に生まれ、出会えていれば……。


 もう何も考えなくてもいいような、そう。それこそファンタジーな世界とかさ、そういう所で誰の視線も気にせずに生きていきたい。


 彼の気持ちを受け入れたい。僕の気持ちを伝えたい。全部、受け止めてほしい。


 でも、やっぱりダメ。


 なんとか力を振り絞り、クラマを押しのけようとした時。


『うふふ、その願い叶えてあげまぁ〜っす♪』


 能天気な女性の声が頭の中に響いた。


 誰!? と驚いて辺りを見渡すと……。


 その時には既に僕とクラマはまったく知らない場所で、まったく知らない人達に囲まれていた。



「おお! 成功したのですね!」

「やったぞ! これで世界は救われる!!」


 そんな声に囲まれ、困惑する僕とは違ってクラマはめちゃくちゃ不機嫌だった。

 何これ? 夢なのかな……?


 周りにいる人々はまるでアニメや漫画、ゲームにでも出て来そうなファンタジーな服装をしていて、髪色は様々だし耳が尖ってる人までいる。


「なんだお前らは……どこのコスプレ集団だ?」


 クラマが僕を突き飛ばして周りの連中を睨む。


「答えろ。ここはどこで貴様らは何者だ」


 彼の言葉に、何やら煌びやかなドレスを纏った綺麗な女性が一歩前に出て妙な事を言う。


「私はリーナと申します。突然の事で驚いておられるかと思いますが……ここはシュバルツ城。この世界は魔物の侵略に晒され非常に危険な状態です。我々は古い古文書に記された勇者召喚の儀式により貴方達を召喚致しました」


 それこそ漫画やアニメの導入にはよくある展開だけど……随分なりきってるコスプレ集団だなぁ。


 辺りを見渡して……少しだけ冷や汗が出る。さっきまで自室に居た筈なのに、こんな見るからにお城っぽい場所に突然移動したのは、もしかして本当に異世界に召喚されてしまったのだろうか?


 いくら僕がオタクだからってにわかには信じられない。


 その時だ。僕達に強い光が差した。天窓から太陽の光が差し込んだようだった。

 そして、豪華な装飾が施された天窓の向こう。

 雲一つ無い青空に、二つの太陽が見えた。


「……太陽が、二つ……?」

「そんな馬鹿な……」


 クラマも同じ物を見たらしい。

 太陽一つ一つは僕の知っている物より明るくないような気がするけれど、二つある事でしっかり明るさを保っている。


 クラマは眉間を指で押さえ、低い声で先ほどの女性を問い詰める。


「お前らは自分たちの都合で俺を無理矢理よく分からん世界に呼び出したと……?」


「も、申し訳ありません! お怒りもごもっともかと思います……。ですがそれだけこの世界、ラディベルが危険な状態なのです。藁にも縋る思いで……」


「なるほど、俺は藁か。俺はお前らの都合など知らん。想い人にやっと気持ちを伝えた所だったんだぞ!? どうしてくれるんだ。今すぐ元の世界に戻せ。貴様等の世界など知った事か!」


 想い人とか! 照れる……。

 クラマは本当に僕の事考えてくれてたんだね。


 でもクラマが感情をここまで表に出すのは珍しい。


「確かに、もしここが別の世界だとしてさ、僕達が勇者とか言われてもピンとこないよね」


 僕の言葉にクラマは眉をひそめる。


「……そういえば誰だ貴様は。お前も日本から呼び出されたのか?」


 ……はい?


「待って、どうしちゃったの? 僕だよ」

「知らん」

「もしかして召喚で記憶おかしくなっちゃったの?」

「俺の記憶も意識も至って正常だ。その上でもう一度聞くぞ? お前は誰だ」


 なんで急にそんな酷い事言うの?

 もうあたまきたーっ!


「いい加減にしてよ! 僕は雪成だよ! さっきまで僕の部屋で一緒にいたじゃんか!」


 クラマは目をカッと見開き、僕の頭からつま先までをゆっくり眺めて「有り得ない」と一言だけ呟いた。


「何が有り得ないのさ! 有り得ないのはクラマの方だよ。急に態度変わっちゃってさ……部屋での言葉はなんだったの……?」


「有り得ない……ユキナに、そんな物はついていなかった……」


「何の事さ!」


 クラマが目を細め、顔を背けながら僕を指さした。

 その指が示す先を辿る。


「な、な、なんじゃこりゃあぁぁぁ! ね、ねぇクラマ! 何これっ! どういう事!?」


「俺に聞くな!! 本当にユキナなのか……!?」


 僕の、む、胸が……膨らんでる。

 しかも結構大きい。


「か、鏡! 鏡ありませんか!?」


 先程のドレスの人に言うと、「すぐに鏡を!」と従者らしき人に告げ、その一人がすぐに姿鏡を抱えて持ってきてくれた。


「うわぁ……」


 そこに映っていたのは、自分で言うのも不思議だけどとっても可愛らしい女の子。

 白い肌、大きく青い瞳、クラマよりも長い睫毛。

 それに……クラマの様子がおかしかったからそっちばかり気にして自分の方に気が回ってなかったけど、腰まであろうかというほどの長くサラサラした金色の髪。


「く、クラマ……僕、女の子になっちゃった」


 何がどうなってこうなったのかまったく理解できないけど、これなら……!



 ここがどこかなんてどうでもいい。女の子になれたのなら周りなんて気にせず一緒に居られるし、クラマになら何されたっていい。

 もう性別、身体の事で悩む必要もないんだ。


 喜びのあまり思わず彼の腕に抱きついてしまった。


「クラマ、これで二人で居られるよ!」


「ひいっ! やめろ、離せ!」

「な、なんでそんな事言うのさ! やっと一緒にいてもおかしくない姿になれたのに!」


 照れてるの? もしかしてクラマって女の子が苦手なのかな?

 そんな所も可愛いな、なんて思いながらもちょっとした悪戯心が働き、抱きついてる腕に胸を押し当てる。


「ほらほら、もうこんな事だって出来るんだよ?」


「や、やめ……はな、はなし……」

「クラマ照れ過ぎ♪ まさかそんな弱点があったなんてねぇ」




「お、俺は……女が、女が大嫌いなんだぁぁ!!」




 そう叫ぶとクラマは白目を剥き、泡を吹いて崩れ落ちた。


「え、えぇぇ……?」


 ドレスの人も、従者の人達も僕とクラマの様子を見て困惑している。


 でもさ、今一番困惑してるのたぶん僕だよ……?






――――――――――――――――――――――

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