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どうしてミューリエはあんなに不機嫌になってしまったのだろう? 何がいけなかったのかな?
モンスターとの戦いを任せっきりにしてしまったことだろうか。
タックさんの試練に尻込みしてしまったことだろうか。
剣を振るう僕の姿が無様だったからだろうか。
…………。
うぅ……思い当たることが多すぎる……。それにミューリエの機嫌を損ねた原因が分かったとして、僕はどんな選択をすればいいんだ?
分からない……何もかも分からない……。
苦しいよ……痛いよ……悲しいよ……寂しいよ……怖いよ……もう嫌だよ……。
「……ぁ……っ……」
地面にポタリと雫が落ちた。
あれ……? 雨……かな……。でも空はどこまでも深い青色で雲ひとつなくて、日差しも強い。お日様の角度は少し傾いているとは思うけど。
……え? だとしたらこれは……涙……?
「うっ……ぅっ……」
いつの間にか涙がこぼれ落ちていた。それを認識した途端、手の甲で拭っても拭っても止め処なく溢れてくる。鼻水も垂れてくる。
なんで……? なんでこんなに涙が出るんだ?
「ひぐっ……うぅ……ううううっ! あああああああぁーっ!」
もう感情が抑えきれなかった。
大声で泣いた! とにかく泣いた! 思いっきり泣いた!
体中の水分が全て抜け出てしまったんじゃないかというくらいに泣いたッ!!
誰もいない森の奥地で良かったと思う。だってこんなみっともない姿、誰にも見られたくないから――。
「え……」
誰にも……見られたくない……?
僕はなぜそんな気持ちになってるんだ? 別に泣いてる姿くらい、見られたっていいじゃないか。
…………。
……あれ? 僕ってこんなに泣いたことがあったっけ? そりゃ、少し泣く程度なら何度もあったけど。
そういえば、思い返してみても心当たりがない。幼いころに両親が亡くなった時だって、ここまで大泣きしなかったと思う。よく考えてみると不思議だ。気が弱くて臆病な僕なのに。
それなのに……なぜ今は号泣を……。
『――お前は勇者失格だっ!』
……っ……。
その時、なぜかふと僕の頭の中にタックさんから突きつけられた言葉が強く思い浮かんだ。
あれは……かなりキツかった……。
でも勇者の末裔が現れるのを待ち望んでいた彼にしてみれば、僕のあんなみっともない姿を見たら激怒するのも無理はない。
勇者……失格……か……。
「……っ!?」
僕の全身に電気が走った。思わずハッと息を呑んだ。
……そっか、そういうことだったのか。
僕は……ようやく気付いた……。号泣した理由も、僕が今まで何を心の奥底に秘めてきたのかも。
――そうだ、僕は無意識のうちに勇者の末裔としての誇りを持ち続けていたんだ!
その誇りは心の片隅に、砂粒くらいに小さいものかもしれないけど確実にあった。だからみんなの前では決して大泣きしなかったし、嫌々ながらにもこうして魔王討伐の旅に出た。
村に戻れないなんて思ったのも、そういうこと――。
だって別に他人のことなんて気にせず、どんなに後ろ指を差されたりバカにされたたりしたって気にしなければ良い。涼しい顔をして村に戻って、細々と生きていたって別にいいはずだ。でも僕はそれだけは嫌だった。
そういうのも全て含めて、勇者の末裔としての『誇り』が僕の心の根本にあったに違いない。
そうだ、きっとそうだ! ならば僕の進む道はただひとつ。試練に挑んで勇者の証を五つ揃えて、魔王と戦う。戦って死ぬ。
――いや、それもダメだ。
僕は勇者だッ! 絶対に魔王を倒して世界に平和を取り戻して、トンモロ村へ生きて帰らなきゃいけない!
「よしっ!」
僕の心は決まった。覚悟を決めた。もう迷わない。僕は弱いから立ち止まることはあるかもだけど、決して後ろには退かない。
→76へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927860513437743/episodes/16816927860517209732
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