第二章 富山での御縁

第14話 ヒスイ海岸

 戸隠を出て、取り敢えず、昨晩泊まるはずだった温泉宿に行きました。

 事情が事情だけに、キャンセル料は不要だと言われますが、それはダメ!

あの時間だと、絶対に私の分の料理の準備はされていたはず。

それが無駄になっているのです。

 受け取ってもらえないと、次、来たくても来にくくなってしまいます。

 で、その代わりと言っちゃあ何ですが、温泉だけ入らせてくださいと頼みます。


 快く了承頂き、私は、一泊分の料金を払い、独り占めの温泉を一時間楽しませて貰いました。

 ビンちゃんは当然お湯には入れません。

着物を着たまま、お湯の周りをフワフワ浮遊しながら待っていてくれました。

 あの着物、湿気で濡れちゃわないかな…。

あ、いや、アレも実態のある物じゃないから、そんな心配、無用か……。




 次に向かうは富山県。

上信越自動車道で新潟県を経由し、難所の親不知おやしらずを抜けると、見えてきました宮崎海岸。

 ここは、通称、ヒスイ海岸。

ヒスイの原石が波で打ち上げられることがあるという、お宝さがしのできる海岸!

 ですが、そうそうヒスイなんて見つかるもんじゃあ、ありません。

皆狙っているんですから、素人には無理ですよ…。

 私の狙いは別物です。


 あ、でも、その前に。ちょうど、お昼時…。


 今、通っている国道八号線。

この辺りは「たら汁街道」とも呼ばれ、たら汁が名物なのです。

 何軒ものお店がありますが、その内の一つ。いつものところへ入ります。


 平日ですから、それ程は混んでいません。

他のお客さんは、大型車のドライバーさんが多い…。

つまり、男性ばっかりで、女性は店員さん以外、私だけ。

おまけに、この容姿。超場違いですが、やはり、美味しいモノを食べるためには仕方ありません。


 たら汁をお願いすると、ブツはアルミ鍋でドンと出てきます。

どう見ても、若い女子が頼むものじゃないよな…。

 ハッハッハ……。


 お茶碗と御椀と箸をお願いして余分に貰い、周りの人とお店の人の怪訝な視線を受けながら向かい側にお席を用意。

ビンちゃんにどうぞと勧めます。

 ニッコリ笑ったビンちゃん。ちょこんと坐り、頷きます。


 周りの人にはビンちゃんは見えていないから、不審極まりない行為……。

 ですが、グラサン金髪女のすること。

外国の変な風習とでも思ってやってくださいまし。


「では、頂きます」


 豪快にブツ切りされた白身魚のタラ。

その他の具は、牛蒡と葱のみというシンプルな味噌仕立ての汁。

でも、これがまた美味いんですよね~!


 鍋ごと出て来ることから分かるよう、一人前と言っても結構な量です。

 その一人前を二つに分けたかと思うと、結局は全部一人で食べてしまうという奇行。絶対、オカシイ奴だと思われているでしょうが、ビンちゃんに憑いてもらっている以上、仕方ありません。

 以後は、なるべく個室で食事できる場所を選びましょう……。



 さてと、食事の後の、改めましてのヒスイ海岸です。


 そうそう、私の目当ての物の話でした。

私がここでいつも探すのは、丸い石です。

 ここには、日本海の荒波に揉まれて角が取れた、綺麗な、ま~るい石が有るのです。

 別に、ここじゃあなくても有るんでしょうけど…。そこは、それ!

もしも、もしも、もしも、運が良ければ!

 鮮やかな緑色した綺麗なヒスイと出会えるんじゃあないかという、淡い、淡い、淡い、期待も、ホンの少しだけ有ったりなんかしたりして……。


 まあ、それは、まず無理ですね。厳選した真ん丸石を十個ほど拾うというのが、私のこの場所での恒例なのでした。


 ですが、この日は、私は丸い石を拾えませんでした。

海岸に着くなりビンちゃんが目を輝かせて駆けていって仕舞ったのです。

 何事かと、ビンちゃんの後を追います。


「ハルカ! ここ掘れ!」


「へ? ほ、掘る?」


 何なんですか。ここ掘れワンワン?

大判小判、ざっくざく?

 いやいや、目の前に居るのは貧乏神様。

じゃあ、瓦や瀬戸欠けですか?

 あ、いや、まさか、死体が埋まっているとか、言わないでしょうね……。


 それに、掘れと言われても、道具も何もない……。

 まあ、波で角の取れた丸石が一面に敷き詰められているような場所です。

一つの石の大きさは、直径六センチ程度が平均値かな?

 つまり、スコップなんてあっても、役に立たない。

…石を一つずつどけて行けば良いですね。


 ビンちゃんの指示に従って深さ十五センチくらい石をどけて行きますと、その下に、漬物石程の、他よりも大きい白い石。

 ゴツゴツしていて、ちょっと薄汚れた感じ…。

色も形も、私好みじゃあないな……。


「うん、まあまあだな。ハルカ、持って帰るぞ。車に積め!」


「えっ!なんで? これ、凄く重いよ!」


「ウルサイ!言うことを聞け!」


 ヴウウウ~!!

ちょ、ちょっと何よ! かなりこれ、重いよ~!!


 でも神様の命令です。……貧乏神様ですけど。

 仕方なしに、エッチラ、オッチラ、車に運び込みます。


「ハルカ! 次、ここ掘れ!」


「ひえ~。嘘でしょう?!」


「嘘じゃない!掘れ!」


「は、はいいいいっ~!!」


 二十センチくらい掘ると、また白い石。さっきのよりは少し小さ目。真っ白では無く、少し青っぽい斑になっています。


「よしよし。さっきのより良いな。車に積め!」


 な、なんなのよ~!私、こんな石、要らないよ~!


 その後もビンちゃんは、次々「ここ掘れワンワン」。

 私は、キャインキャイン言いながら、従います。

 これじゃあ、私の方が従順な犬みたい……。


 そして、掘り当てるのは、決まって白っぽい石。

ところどころに青い模様が入っていて、ゴツゴツしたモノ。

 私的には、麗しくないモノばかりです。


 掘りながら再度ビンちゃんに訊いたところによりますと、この石、魔除けになるとか。

だから、持って帰って私の家に置くのだそうです。

 そういうことなら、仕方ないか…。

やっぱり、私の守り神様。ちゃんと考えていてくれるんだ。

 な~んて思ったら、「気休め程度の効果だがな…」なんて。


 ・・・。


 おい、おい!

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