第43話 立ち向かうらしい


「知恵ちゃんならわたしが話せばなんとかなりますって!」

「オマエの事情なんてキョーミねーんだわ!」


 ユートピアの本拠地を出て行こうとするシイナと、後ろから腰に抱きついてそれを止めようとしているカイリ。

 うらやましい。――じゃなくて、その敵性プログラムの側にもカイリを襲ってくる理由があるだろう。他にも強いプレイヤーはたくさんいるのに、わざわざカイリのギルドに所属しているギルドメンバーであるレモンティーのアカウントになりすましてきていることから考えても、あちら側はカイリの個人的な情報を把握した上で動いている。

 ルナは【統率】を発動しシーフの《チェーンバインド》を使用した。

 リビングのフローリングの床からチェーンが生えてきて、シイナの身体にぐるぐると巻きつく。


「! なんだ!?」


 身動きの取れなくなったシイナが暴れている隣で、ルナは座布団にあぐらをかいて「カイリちゃんの作戦は?」とギルドマスターの意向を聞いた。


「知恵ちゃんとお話しします!」

「……それだけ?」


 薄すぎる作戦内容にルナが呆れると、カイリは「知恵ちゃんは博士とおんなじぐらい頭がいいから、わたしが向き合ってお話しすればわかってくれると思うんです!」と自信満々に付け加えた。


「さっきの感じだと、問答無用で切りかかってきそうだったけど?」

「何か誤解しているんです!」

「誤解されるようなことをした覚えは?」


 ルナの問いかけに、カイリは額を人差し指でつついて考え始める。知恵ちゃんとの最後の記憶は、もちろん生前で、「また明日です!」と挨拶して別れるシーンである。お互いに笑顔だった。博士は表情に乏しい人なので軽く手を振る程度。

 思い当たる節としては「実はもっとわたしと遊びたかったとかですかね?」笑顔ではあったけど本心は違うとか。


「ボクとしてはそのメールの相手がレモさんなのか、100%信じたわけじゃない」

「なんでですか?」

「レモさんはログアウトする前、敵性プログラムについて調べてきてくれるって言ってたし、確かに敵性プログラムが知恵ちゃんだってメールで教えてくれた。でも……」

「疑うところ、ないじゃないですか」

「ゲームマスターがカイリちゃんに渡したスマートフォンのメールアドレスをなんで知っているのか、ってところがわかれば、100%どころか1億%信じる」


 うまくいきすぎていると疑り深くなる。本音としてはレモンティーを信じたい。レモンティーがメールアドレスを知った経緯さえわかれば完壁である。

 カイリは「じゃあ、聞いてみます!」とレモンティーのメールアドレスへど直球に『なんでレモン先輩がわたしのメアドを知っているんですか?』と送りつけた。


「ごちゃごちゃうっせーな」


 シイナが口を開く。どれだけ踏ん張っても強固な鎖からは抜け出せない。《チェーンバインド》のスキルレベルが低ければ簡単に外すことができる。が、【統率】によってスキルレベルはマックスの状態で使用されていた。一定時間経つかパーティーメンバーが鎖に攻撃して耐久値を減らさないと拘束状態は解除されない。


「少しは頭冷えた?」

「オマエらわかってねーみてーだけど、オレはオレの目的を果たせればいいわけ。あのネコちゃんレモンティーが敵じゃなかったんなら、さっさと他を探すまでだ」


 冷えていなさそうだ。シイナとしてはこの『Transport Gaming Xanadu』の世界からさっさと現実の世界に生き返りたい。敵性プログラムの疑いがある相手を片っ端からぶちのめしていけば、いずれ正解を撃ち抜く。

 悪を倒すオレこそが正義の勇者なのである。


「返事来ました! 叔父さんから聞いたらしいです!」


 カイリが叔父にメールを送り、叔父に送ったメールをレモンティーが見た。

 ルナは「カイリちゃんの叔父さんとレモさんって知り合い?」とさらに切り込む。


「レモン先輩は浪人生だから、……うーん、接点、なんだろう?」

「女子高生って聞いてたけど」

「大学受験に失敗してゲーム始めたって聞きました!」


 本人のあずかり知らぬところでパーソナルデータがバラされていく。

 ルナは「そ、そうだったんだ……」と知ろうともしなかった現実に動揺した。


「答えが返ってきました! ゲームマスターが連れてってくれたらしいです」


 シイナはカイリの言葉を聞くなり「あのチビが関わってるんなら正解じゃねーの?」と決めつけてくる。

 メールの送り主は現実の世界のレモンティー。そのメールの内容は正しい。それなら、今ゲーム内で動いているレモンティーはレモンティーではなく敵性プログラムの“知恵の実”である。


 つながった。


「まず、カイリちゃんが説得してみて、それでダメだったら戦おう」


 ルナの発案に「はい! 全力で説き伏せます!」と意気込むカイリ。

 シイナは「わーかったよ。3分待ってやんよ」と根負けしてしまったようだった。


「戦う場合を想定して、カイリちゃんは装備を《ビキニアーマー》にしておかない?」

「嫌です!」


 今度は即否定するカイリ。

 鎖から解き放たれたシイナは「オレ、その《ビキニアーマー》ってやつ見てねーから見てーなー!」とルナに賛同した。


「真剣なお話し合いの場面でそんな恥ずかしい格好はできません!」

「どうせ向こうからはロシアンブルーにしか見えてないよ」

「マジかよ。もったいねー」

「白ビキニなのに」

「エッロ」


 レモン先輩帰ってきてー!




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