第8話 初心者ミッションを初心者向けにしてほしい
カイリの悲鳴がまたもやプラトン砂漠に響き渡る。
「ほぎゃああああああああああああ!?」
貞操の危機を回避するため、いざ初心者ミッションに挑みます!
と意気込むカイリに最初の試練がやってきた。マップ移動である。初心者ミッションはTGXの7つの都市を順番に巡り、それぞれの都市のNPC(=Non Player Character)から受注したクエストをクリアしていかなければならない。1個目は陽光都市パスカル。現在地のプラトン砂漠を北へ抜けた先にある。一般プレイヤーはCharacter Creationの後にパスカルからスタートになるので真っ先に初心者ミッションに取り掛かることができるのだが、カイリはプラトン砂漠に墜落してきてテレスが本拠地の†お布団ぽかぽか防衛軍†に保護されたのですぐには気付けなかった。
プラトン砂漠に出現するモンスターはレベル100を超えており、カイリ1人ではパスカルに辿り着く前に倒されてしまうだろう。初心者ミッションでテレスを訪れるのは他の都市を回った後になる。通常プレイなら6個のクエストから経験値を得てレベルも上がっているので問題なく砂漠を抜けられるのだがそれはあくまで一般プレイヤーの話である。
「このように、私の速さだとカイリを振り落としてしまうのよね」
ルナはカイリの足を引っ張って砂にめり込んだ身体を引き抜こうとしながら説得している。その相手はレモンティー。メイジというジョブの一般プレイヤーで、†お布団ぽかぽか防衛軍†では古株のギルドメンバーである。
カイリの加入はギルドメンバーからは歓迎されていないどころか空気のように無視されてしまった。ギルドマスターであるルナが付き添って今日ログインしてきたメンバーへ挨拶したのに、拍手のエモートすら返ってこない。想定内ではあるが実際に起こってしまうと悲しいものである。とどめとばかりにルナが「この加入に異存がある者は私と決闘いたしましょう」と啖呵を切ったので、ギルドメンバーはぐうの音も言えなくなってしまった。
ルナの表向きのジョブのヴァンガードはとにかく攻撃に全振りしたスキル構成となっており、基本的には《移動速度上昇》を自身にかけて敵陣へ向かっていく“切込隊長”。ルナはカイリを背負ってから《移動速度上昇》してカイリに向かってくるモンスターを振り切り、目的地へ突っ走る作戦を立てたのだが、結果は『速さについていけないカイリの身体が吹っ飛ばされて砂にめり込んだ』ので失敗した。冒頭のシーンは3度目のチャレンジである。
数あるジョブの中でもメイジは《テレポート》を使用できる唯一無二のジョブとなっている。この《テレポート》のスキルレベルは上げれば上げるほど移動したい場所を細かく指定することができ、パーティーを組んでいるプレイヤー全員を任意の場所へと瞬間移動させることが可能である。従って、レモンティーはログインするとギルドの本拠地からそれぞれの適正レベルのモンスターや狙っているレアアイテムをドロップするモンスターが出現するスポットへギルドメンバーたちをタクシーのように移動させていく。その仕事を終えた後にルナから呼び出されてこのプラトン砂漠にやってきた。
ウィザードの上位職ではあるがウィザードのスキルが攻撃寄りなのに対してメイジのスキルは補助に特化しており、レベル500に到達してジョブを変更できるようになっても上位職とはいえども戦闘スタイルがまるで違うメイジにはならない一般プレイヤーが多い。レモンティーがメイジとなった理由はただひとつ。
「マァ、お姉様の頼みなら断れないニャ」
ギルドマスターのルナの信奉者だから。レモンティーはルナをお姉様と呼び、お姉様の為ならなんでもする覚悟であった。右も左もわからない初心者の頃に手取り足取り教えてくれたルナに「一生ついていく」と決心している。ウィザードからメイジへのジョブチェンジを決めたのは「ギルドのため、ひいてはお姉様の力になるため」である。そうでもなければ、ソロでもパーティーでも火力が出せるウィザードから適正レベルの狩場でもバフをかけまくらなければソロで戦えないメイジになんて、なりたいなんて誰も思わない。
とはいえレモンティーの内心は複雑だった。お姉様の現実での生活の話なんて噂ですら聞いたことがないのに、急に「友人のカイリですの。仲良くしてあげてね」と紹介されたのである。親しげに手なんか握っちゃってまあ。あのシーンは記憶から消し去りたい。
レベル1のウィザードよ?
ここ、初心者向けギルドではなくてバチバチにギルド戦をやっていくギルドなのよ?
それを一番理解しているのはギルドマスターのお姉様ではなくて?
「レモさんが助けてくれるって」
「わー! ありがとうございます!」
砂から脱出したカイリにルナが説得の結果を伝え、カイリはレモンティーにペコペコとお辞儀をした。シャムネコのアバターのレモンティーは長いヒゲをいじりながら「別にアンタの為じゃないんだからニャ」と答える。他意はなく本当に“カイリの為”ではなく“お姉様に頼まれた為”なのに、カイリは誤解したようでレモンティーの神経を逆撫でしていく一言を投げつけた。
「レモさんってツンデレなんですね!」
【あなたの性格はなんですか?】
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