第97話 野獣騎士

目は斜め上に裂けて吊り上がり、その顎は鋭い牙が並んでいる。

もはや人間としての相貌は見る影もなく、赤い獣毛に全身を覆われた禍々しい姿だった。


担任教師だった頃の面影はもはやほとんどなく、頭部から生えた黒いロングヘア―だけがそのまま残っていた。


「この子には手出しさせるわけにはいかねえ。オラの前ではもう誰も死なせたくねえ。そのためならオラぁは鬼神となって戦う」


ヨサックは傷だらけの全身を引きずるようにして、獣人と化したテッツァーの前に立ちふさがった。


「ふん、このバカちんが。大人しく従えば死なずに済むものを。その傷ではほとんど立っているのもやっとであろう。リヴィウス様の眷属になる栄誉を蹴った愚か者め。あの世で後悔するがいい」


テッツァーは右手の人差し指の爪を剣の様に伸ばすと、足元の土を蹴り上げ、目つぶしをした。


「ぐっ」


蹴り上げられた細かい土や砂がヨサックの残された左目に入り、視界が完全に奪われる。


「チェストー!」


テッツァーは獣の如き俊敏さでヨサックに向かって飛びかかった。


だめだ。

目に入った砂の影響でヨサックさんは、反応できていない。

しかも、見えていたとしても防げるかわからない速度だった。


人間ではなくなった様子のテッツァーに効くかわからないが、ヨサックさんを救うにはもうやるしかない。


ロランはヨサックの脇を全力で通り抜け、テッツァーに向けて掌を向けた。


「スキル≪カク・ヨム≫!」


よかった。時が止まったようだ。

未だ近くのどこかで戦闘が続いているにもかかわらず、それら一切の音が消え、辺りに静寂が訪れる。



紙一重だった。

テッツァーの長く伸びた鋭い爪はヨサックの胸元付近で止まり、事なきを得ていた。


以前戦った時に、テッツァーにはスキル≪カク・ヨム≫を使っていなかったが、これが幸いした。対象一人につき一年に一回しか使えない制約があるので、もし使っていたら、ヨサックさんは助からなかったかもしれない。


『スキル≪カク・ヨム≫が発動しました。野獣騎士テッツァーのステータスを表示します』


名前:テッツァー

種族:堕人間

性別:男

職業:野獣騎士

年齢:50歳

更新数:1

星:0

PV:2

ハート:0

レビュー:0

フォロワー:0


レベル:58

HP:66

MP:20

筋力:33

体力:42

器用:20

敏捷:30

知力:13

魔力:11

信仰心:18

こうげきりょく:53(43)

ぼうぎょりょく:69(57)

堕天スキル:野獣装F

習得スキル:剣技C、護衛D、格闘術D、教育E、語学E、指揮F

≪直近のプロフィール≫

ダンマルタン子爵直属の赤狐騎士団元団長。カルカッソン騎士学校の元教師。

婚活仲間のドゥンヴェールに誘われ、ワズール伯爵領にある廃神殿の地下深くに眠る封神石を破壊。三悪神が一神リヴィウスを解き放った。その後、失われた男性器の復活と引き換えに眷属となる。リヴィウス神の改稿により堕天スキルを授かった。

ダンマルタン子爵領を占領し、リヴィウス神に献上しようと考えていたが、今は目の前に現れた憎きロランを殺し復讐することで頭がいっぱいである。



これまで見てきた他の人の閲覧内容とあまりに違い過ぎて面食らってしまった。

分からない言葉が多すぎて、いまいち内容が頭に入ってこない。


落ち着け。落ち着け、俺。

創作タイムが始める前に少しでも内容を理解しなくては。


ええと、まずは……堕人間。種族はあんな姿でも一応人間の一種なのだろうか。字の意味からするとダメ人間という意味にもとれるが、きっとそうではないよね。


年齢の下に≪更新数:1≫とあるが、直近プロフィールの文章と併せて考えてみると、リヴィウス神とかいうのがテッツァーを改稿したという解釈であっているだろうか。


文字通りなら、テッツァーは、その改稿により堕天スキルというものを授かり、人間から堕人間になったと推察できる。あの獣人のような姿は、≪野獣装F≫の効果なのかな。


リヴィウス神の改稿。


改稿?


ちょっ、待てよ。

自分以外にもスキル≪カク・ヨム≫のような能力を持った存在がいるということか。

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