第73話 王都では見てくれが命だ

全身に石鹸の泡を塗りたくった見ず知らずの女性が、ロランの背中に豊かな乳房を押し付けながら、前側のあんなところやこんなところを洗い始めた。


「ボク、まだ子供なのにすごい身体しているわね」


女の指がいつの間にかできていた腹部のシックスパックをなぞる。


ちょ、待てよ。カルカッソンを出てからそんなに日にちが経っていないのにこんな筋肉つくこととかあるのか。

スキル≪カク・ヨム≫で改稿した体力って、筋肉の超回復や成長にも影響しているのかな。


女の手が、以前より筋肉質になったロランの全身を這う。


「ぼ、僕、自分で洗えます!」


母アンナと同じくらいの年齢の女性は、両手をこすり泡の塊を作ると、尻の割れ目の間に掌を差し入れてくる。


「うわぁ、くすぐったい」


女はクスリと笑い、今度は体中を念入りに布を使って洗ってくれた。


何せ、ロランとして生まれ変わってから初めてのちゃんとした入浴である。

石鹸を使って体を洗うという行為もかなり久しぶりであったから、その気持ちよさもすっかり忘れていた。


その上、面識のない妙齢の女性に肛門や男の子の大事なところを洗ってもらうという経験は高橋文明時代を含めても全くないことであったので、興奮のあまり、恥ずかしながら勃起してしまった。


固くなったあの部分を見られまいと股間を隠そうとするが、女は無理矢理手をどけてしまう。


やばい。これは変な性癖に目覚めてしまうかもしれない。



シーム先生が王都エクス・パリムに来て最初に訪れたのは、この風呂屋のような施設だった。石造りの派手な内装で、出迎えてくれる店員は全て若い女性だった。

シーム先生は気前よくチップをたくさん払い、三人の美しい女性を連れて別の部屋に消えていったが、去り際、「いいか、ロラン。王都では見てくれが命だ。小汚い恰好をしていると師匠の儂まで笑われるからな。しっかり全身の垢を落としてもらえ」と言い残した。


ロランは店員に言われるまま、女性を一人選び体を洗ってもらうことになったわけであるが、四十五年間女性とあまり関わってこなかった高橋文明には刺激が強すぎた。


全身をくまなく洗われた後、これもまた本当に久しぶりである温かい湯船に浸かると背中側を包み込む女の体の柔らかさと女性特有と思われる香気に興奮しすぎて鼻血を出してしまった。

湯船の中で女性があの部分を優しく撫でたりしたせいもある。


これにはさすがの女性店員も慌て、入浴は終了となった。



高橋文明は最初、好き合ってもいない男女が肌を合わせ合うのは破廉恥極まりなく不潔であると内心思っていたが、実際体験してみると、長く生きた割には乏しい人生経験の中で一番幸福な体験をしてしまったのではないかと愕然とした。


一糸まとわぬ女性の普段隠された部分を間近で見ることができてしまったし、そして何より衣類の上からではない女性の体の感触は、何とも言えない魅惑的な感動と興奮をロランの心に刻み込んでしまった。


布で鼻を押さえながら休んでいると、先ほどの女が服を着た状態で近寄ってきてあれこれ世話を焼いてくれた。こうして見ると整っているというより人好きのする顔立ちで、ふくよかな体つきがどこか先ほどまでの興奮を呼び覚ましてしまう。


シーム先生はそれからしばらくたってもなかなか戻ってこなかった。

ロランはその間、女にお菓子を貰ったり、添い寝してもらったりして、ちゃっかり至福の時間を過ごした。




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