第61話 パンツの謎
シーム先生はかなりの高齢だった。
肩まで伸びた白い総髪に、胸元まで伸びた白い髭。腰は曲がり、そのせいでとても小柄に見える。
片やガブリエルは十三歳。身長はその年齢にしては高い方で、大人と遜色ない。
八年間の騎士学校生活による賜物だろうか。その体格は逞しく、成長期特有の華奢な印象は受けない。
誰がどう見てもガブリエルの方が強そうだし、この二人を戦わせてみようなどとは普通は考えないだろう。
だが、シーム先生の怒りは収まらず、屋外の武錬場で両者の手合わせが行われることになった。
放課後ということもあり、武錬場は静まり返っており、沈みゆく夕日が歴史あるこの場所に独特の雰囲気を漂わせていた。鎧兜に身を包み剣を高らかに掲げた騎士の石像が、照柿のような色に染まり、何とも勇壮だ。
木剣を持つガブリエルに対しシームは普段から持っている杖を使うようだ。
両者を見ると、体格差は歴然で、小遣い欲しさに木剣で祖父を脅す孫みたいな感じがして、ガブリエルの方が悪者に見える。
「シーム先生、やめましょう。老いぼれって言ったことは謝りますから。僕にとってこの勝負で得られるものは何もない。勝っても高齢者いじめになるし、騎士の名折れだ」
ガブリエルは真剣な顔でシーム先生に訴えかける。
「小僧、本当に勝てる気でいるのか。まったく、年は取りたくないものだ。こんな騎士見習いにまで侮られる」
シーム先生はぶつぶつ独り言を言いながら、ガブリエルの方向にためらいもなく歩いてゆく。
「ほれどうした。お前さんの間合いに入ったぞ。その剣は飾りか」
シームの挑発にガブリエルはため息をひとつ吐くと、仕方なさそうな様子でシームの右肩めがけて木剣を振り下ろした。
誰がどう見ても手加減を加えた腰の入ってない一撃だったが、ガブリエルの木剣がシームの体に到達するより早く、杖が木剣を弾き飛ばした。
「えっ?」
ガブリエルの口から驚きが漏れた次の瞬間には、シームの杖の棒先が彼の顎に命中した。
とても小柄な老人が放ったとは思えない。
ロランの眼から見てもかなりの速度を持つ突きだった。
杖の石突き部分が当たった衝撃で脳が揺れたのか、ガブリエルは白目を剥き、今にも倒れそうなほどに足元がふらついている。
これは勝負あり。シーム先生、年の割にやるじゃんとその場にいた誰もがそう思っていたが、次の瞬間。
「ほおああっ、あたたたたたたたたたた、ほあったー」
シーム先生が奇抜な掛け声とともに無数の突きをガブリエルの全身に繰り出す。
突きの威力で、ガブリエルの体が浮き上がり、最後の一撃で数メートル先まで吹き飛ぶ。
吹き飛ばされたガブリエルは身動き一つしない。
心配したアネットが駆け寄り、ガブリエルの口元を確認し、胸に耳を当てる。
スカートが短いのでしゃがんだ際にパンツ丸見えである。
ちなみに色は白だった。
前の世界の中世とかにはパンツってなかった気がしたんだけど、この世界にはあるようだ。パンティって書くと女性読者に嫌われるのであえてパンツと呼ぼう。
高橋文明の少年時代にはみんなパンティって言ってた気がするけど気のせいかな。
有名な豚キャラだって「ギャルのパンティおくれ」って言ってた気がするけど、いつからパンティーはパンツになったんだろう。
重大な世界の謎について考えていたが、アネットの叫び声に思考の中断を余儀なくされた。
「校長先生、ガブリエル君が死んでます!」
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