第59話 校長先生!正気ですか
四時間目が終わると五時間目は、基礎体力訓練だった。
シーム先生が見守る中、延々と校庭を何周も走らされた。
他の生徒は息も絶え絶えで、途中でへばり、医療棟に運ばれた生徒も出たほどだったが、『体力:69』は伊達ではない。
普通の生徒と変わらないくらいの速度で授業の終わりまで完走した。
何周走れという具体的な指示がなかったので、おそらく自分の体力を考慮した上でのペース配分とかも評価の対象だったのだろうか。
途中から歩いていた生徒も怒られるわけでもなく、シーム先生は鼻提灯を出しながら、木陰でうとうとしていた。どうやらおじいちゃんは、自習にして寝たかっただけらしい。
放課後になると、バルテレミー校長自ら迎えに来て、高学年用校舎の二階にある作戦学習室に連れていかれた。ここは戦場における作戦の立案や軍議を模した体験学習に使う部屋で、放課後は騎士学校団体対抗戦のための活動に使われているようだ。
高学年用校舎に低学年の生徒がいるのは珍しいらしく、廊下ですれ違った女子生徒たちが「やだ、かわいい」などと小さな声で話していた。
やだ、気持ち悪いとかはよく言われていたが、かわいいなどと言われると妙にこそばゆい。
さすがに最高学年になると少し大人びてきていて、一瞬ドキッとさせられるが、おいおい俺はロリコンじゃないぜと心を落ち着かせる。
ロランみたいな小学生が年上のお姉さんにドキドキするのはセーフだが、四十五歳の高橋文明が同じ対象にドキドキしたら完全アウトだ。
頭脳は大人、体は子供はグレーだけどセーフかな?
逆に頭脳は子供、体は大人は、スリーアウト、チェンジだろう。
完全に逮捕案件だ。
とにかく言えることは未成年に手を出したら、男も女もアウトだってことだ。
お前ら、気をつけろ!わかったな。
あと、騎士学校って、筋肉ゴリラみたいな女の子ばっかりいると思っていたが、アニエスも含めてルックスのレベルは結構高めかもしれない。
すれ違う女子生徒が普通にかわいい。
「みんな、揃っているか」
作戦学習室のドアを開け、中に入ると四人の上級生となぜか担任のシームがいた。
バルテレミー校長に促され、お辞儀をすると、上級生の中の女子二人がクスクスと笑った。
「みんな、聞いてくれ。大会目前で不慮の死を遂げたダミアン君に代わり、君たちのメンバーになった一年生のロラン君だ。大会まで日数もないし、色々教えてやってくれ」
「校長先生!正気ですか。低学年、それも一年生が代表選手なんて聞いたことないですよ。きっと他校に笑われるし、我が校の汚点になりますよ。ご再考を」
見るからに優等生という感じの七三ヘアーの先輩が声を上げた。
「あれですか? エースのダミアン君が死んじゃったんで、今年の大会は捨てちゃいましたか? 一年生出したら、話題にはなりますもんね。俺はどっちでもいいっすよ」
赤毛を逆立てて、耳にピアスをつけた別の先輩が冷やかすように言うと、七三先輩が赤毛ピアス先輩の胸倉をつかみ、「余計な軽口を叩くな」と息巻いた。
「あん? ガブリエル、俺に喧嘩売ってんのか」
赤毛ピアス先輩も立上り、キレる。
「ねえ、ねえ男子、ケンカやめなよ」
背が高くショートヘアが良く似合うボーイッシュな感じの先輩が仲裁に入る。
その様子をけだるげに巨乳のロングヘア女子が眺めていた。
どうやらこの上級生たちが騎士学校団体対抗戦のメンバーのようだ。
あまりチームワークは良くないようで、むしろ男子二人などは、険悪な様子だ。
ダミアンの代わりというのも今初めて聞いたし、これからしばらくの間、この連中と付き合っていかなきゃならないと思うと憂鬱だ。
同級生も苦手だけど、上級生も苦手だ。
先に生まれてきたというだけで偉そうだし、敬語使えとか始まるんだろうな。
どんなに遠くにいても姿見かけたら「チィース!」とかやらさせられるんだろうか。
ああ、なんだか騎士学校団体対抗戦に出るの辞めたくなってきちゃったな。
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